鈴木が専門とする文化財は、書や古文書といった、紙に書かれたもの。
実際に修復作業に入る前、鈴木はまず、文字や絵が描かれた紙にじっくりと向き合い、すみずみまで観察する。
紙を素材とする文化財は、書かれている内容だけが重要なのではない。紙自体にも、それが書かれた当時の慣習や文化がふんだんに含まれている。事前の観察が甘いと、紙に刻まれた情報に気づかず、修復の過程でそれをなくしてしまう恐れがあると鈴木は言う。
そのため鈴木は、作業に入る前に可能な限り子細に紙を観察し、紙が持つさまざまな情報を見極めることを心がける。肉眼だけでなく、顕微鏡やX線検査器などの科学的手法も積極的に導入し、文化財の性質を徹底的に調べ尽くす。
紙が発する声なき声に耳を傾け、その声をそのまま次の世代に伝えることが自分の使命だと、鈴木は信じている。