職人の仕事は、多かれ少なかれ同じ作業の繰り返しになる。まして、山口の靴作りのように、ほとんどを手作業で行う場合はなおさらである。それを「常に挑戦しながら、緊張感を持って行う」のが山口の流儀だ。「単なる流れ作業として、漫然と繰り返す」のでは、職人としての成長もないし、結果的によい靴も作れないという。
同じ作業を、挑戦的に継続できるかどうかは、単に精神力の問題ではない。「仕事へのアプローチのしかたを工夫する必要がある」と山口は話す。山口の場合、それは独立当初からこだわり続けている「オーダーメイドシステム」である。足の形は一人一人、そして片足ずつ違う。「同じ靴」を作ることは決してない。それぞれの形を再現した靴を作るには、毎回違う難しさがあるし、どの靴も一期一会である。必然的にどの靴のどの作業も気を抜けない状況を、自分で作り出しているのである。