総料理長・田中には毎朝欠かさない日課がある。それはホテル内に点在する16の厨(ちゅう)房を毎朝見て回ること。地下1階から17階までつぶさに歩き回り、400人の部下、ひとりひとりに声をかける。「仕事にはもう慣れた?」「腰はもう大丈夫?」。何気ない会話から、部下たちの体調を読み取ろうとする。ここに、総料理長・田中が大切にする流儀がある。「料理は“人”なり」。作り手の気持ちが込められてこそ、料理はおいしくなる。逆に、作り手に悩みや疲れなどがあれば、客を感動させる料理にはなりえない。だからこそ、田中は部下と直接接することでその内面を読み取り、最高の状態でいられるように心を砕く。