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第46回 2007年4月3日放送

人の中で 人は育つ 中学教師・鹿嶋真弓


生徒のつながりを作る

担任を持つ鹿嶋は、「学活」や「総合学習」の時間を使って、独自のクラス作りを行っている。生徒同士にコミュニケーションのきっかけを与える「エンカウンター」(構成的グループエンカウンター)と呼ばれる授業だ。もともとはアメリカで開発された考え方を、日本の教育心理学者・國分康孝氏が持ち込んだ。鹿嶋はそれを現場で実践した先駆者の一人だ。
例えば、「愛し、愛される権利」「きれいな空気を吸う権利」「遊べる・休養できる時間を持つ権利」など鹿嶋が提示した10の権利のうち、何が一番大事かを生徒達に話し合わせる。6人ほどのグループに分かれ、それまで話をする機会の少なかった生徒同士も意見を交わす。大事にする権利も、その理由もそれぞれ違う。話し合うことで、互いの価値観を知り、関係が深まっていく。
鹿嶋がこうした授業を取り入れる背景には、自身の教師生活の中で感じている「生徒の変化」がある。最近の生徒達は、コミュニケーションの力が落ちているというのだ。人付き合いが苦手で、ほっておくと、なかなかクラスメートと関わろうとしない生徒もいる。核家族化が進み、地域社会の結びつきが薄れている昨今、他人と関わる場として、学校の役割はますます大きくなっていると、鹿嶋は考えている。鹿嶋は、さまざまなエンカウンターのプログラムを駆使し、生徒同士を関わらせる。生徒一人一人が絆(きずな)の糸でつながっていれば、いじめや学級崩壊は起こりえない。生徒同士のネットワークが張り巡ったクラスを、鹿嶋は常に目指している。

写真何が一番大切な権利か、活発に自分の考えを話す生徒たち


教師やめますか、人間やめますか

鹿嶋は4度目に転任した学校で、がけっぷちに立たされる。「うざいよ、ばばあ」「消えろよ」生徒達から浴びせられる辛辣(しんらつ)な言葉。授業中、生徒達が机の上を飛び回り、担当する理科の時間は、火のついたマッチが飛び交う。クラスは学級崩壊の状態にあった。鹿嶋が何度熱く語りかけても、生徒達はなかなか変わってくれない。それまで築き上げてきた教師としての自信を、鹿嶋は完全に失った。朝、出勤前に布団で泣き、休み時間にトイレに駆け込んで泣いた。このまま教師を続ければ、自分が壊れる・・・。「教師やめますか、人間やめますか」という言葉を自らに問いかけた。それでも、鹿嶋は、昔の同僚に背中をおされ、もう一度生徒と向き合うことに決める。そして生徒の心の扉を開けるために、一つの策を講じる。

写真苦しくとも、教壇に立ち続けた鹿嶋。胃潰瘍(かいよう)になり、給食も食べられなかったという


つながりが人を支える

2007年1月。鹿嶋にとって、勝負の3か月が始まった。担任する3年生、36人がいよいよ受験という人生最初の試練を迎える。鹿嶋は、去年の4月から8か月間かけ、生徒同士の関係を作り上げてきた。しかし、受験への緊張と不安、プレッシャーにおそわれ、他人のことが目に入らなくなる難しい時期だ。
1月後半。私立高校の受験が始まり、合格した生徒が出始めると、他の生徒たちの不安が高まってきた。「自分は大丈夫なのか」という不安が頭をもたげてきたのだ。さらに推薦入試で不合格になった生徒も出た。ショックを引きずり、その後に控える一般入試の勉強も手につかない。大きな関門を前にした15歳の生徒たちは、不安に心を揺らしていた。
鹿嶋は、この時期だからこそ、学べることがあると思っていた。それは、人と関わることの大切さ、仲間の温かさ。苦しい時期を仲間と一緒に乗り越えてこそ、そのことを実感できる。
受験4日前、鹿嶋は最後の一手を打つ。それは、クラスの仲間同士で交わす握手だった。生徒たちは、握りあう手を通じて、気持ちを伝えあった。


プロフェッショナルとは…

情熱がまず第一条件。情熱だけでは駄目だなっていうことを体験したので、そこに技がなくちゃいけない。で、立ち止まることなく、いつもいつも研究をしつづけながら現在進行形の人です。

鹿嶋 真弓

The Professional’s Tools

エンカウンターの授業で使うプリント

「今、あなたは熱気球に乗っています。ところがトラブルがあって、どんどん高度が下がってきました。助かるためには、積んである10個の荷物(権利)を順番に捨てなければいけません。どれを捨てて、どれを最後まで残すのか」という問いかけをする。
価値観の相互理解を目的にしたプログラム。この他にもさまざまなプログラムがあり、クラスの状態を見ながら、使い分ける。

写真


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