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第30回 2006年10月26日放送

ヒットの秘密は“トゲ”にあり 玩具企画開発・横井昭裕


企画の命は、トゲ

 「トゲ」とは、普通とは違うぞ、という「違和感」。人間は知らず知らずのうちに、あたりまえのものは見過ごしてしまう。「トゲ」があるからこそ、人の目を引くことができるのだ。無数のモノがあふれる現代では、「トゲ」こそ商品の生命線だと、横井は考えている。
 10年前、世界中で4000万個を売り、社会現象を巻き起こした「たまご型ゲーム」にも強烈なトゲがあった。「楽しみ」を提供する玩具に、あえて餌を与えたり、ふんの始末をする面倒くささを盛り込んだのだ。このトゲが、買う人の心に引っかかった。
 企画にトゲをつくるにはどうすればいいのか・・・横井にはいくつかの方法がある。その一つが、「皆が良いというものは、疑ってかかる」こと。例えば、商品のデザインを決めるとき、横井は皆がもろ手をあげて賛成するものは選ばない。どうしても「無難さ」がつきまとうからだ。横井は意識的に、少数でも熱烈な支持者がいるものを選ぶ。それが「違和感」をつくりだし、人を驚かせる。

写真居酒屋での企画会議。日々の雑談の中から、企画の芽が生まれる。


原点をつらぬく

 アイディアを発想してから、商品化にこぎつけるまでは多くの段階を経る。自身の試行錯誤、社内での検討、大手メーカーなどクライアントへのプレゼン・・・企画は練り上げられ、姿を変えていくことも、ままある。しかし、横井は、発想した当初のアイディアを決して無くさない。「そもそも何を面白いと思って、この企画をスタートしたのか」それを必ず企画の柱に据える。横井は「直感は、物事の本質をとらえる」と信じる。企画の原点を残すことも、トゲをつくることにつながるのだ。
 横井はこの流儀を、過去の失敗の中から得た。20年前、大手玩具メーカーをやめ、企画開発会社を立ち上げた横井は、会社の経営資金を作ろうと必死だった。企画が通りやすいよう、クライアントの意向を取り入れ、自分のこだわりは捨てた。しかし、そうして商品化にこぎつけたものは、どれも売れなかった。独立から9年たって出した、たまご型ゲームの企画。少年時代からの趣味・ペット飼育が発想の原点だったため、なみなみならぬ思い入れがあった。初めて、こだわりを押し通した末の大ヒット。横井は流儀をつかんだ。

写真独立当初の横井。自分のこだわりを押し通せずにいた。


新しくなければ、企画にあらず

 「トゲ」のある企画とは、常にそれまでの常識とは違う「新しさ」を伴うもの。しかし、「新しさ」を生む作業は、常に苦しさがつきまとう。それまでの常識とは違う商品が、本当に買う人たちに受け入れられるのか・・・その不安と向き会い続けるのが企画屋の宿命だ。「不安に負け、「トゲ」を捨てた瞬間に自分は企画屋ではなくなる・・・」迷った時、横井が自分につきつける言葉だ。

写真トゲを守り通すのは、自分との闘いだ。


プロフェッショナルとは…

素人が千人集まっても一人の人にかなわない、その一人の人がプロだと僕は思っているのですけれどもね。圧倒的に力の差があるという、その技量、ノウハウを持った人がプロフェッショナルですね。

横井昭裕

The Professional’s Tools

「趣味」の品々

横井のかばんの中には、手帳を除けば、仕事に関係のあるものは入っていない。収集しているライター、漢字の書き取り練習帳、将棋の本など、趣味に使うものばかりだ。しかし趣味にのめり込むことは、企画をつくるのに大いに役に立つ。楽しかったすべての体験が、玩具の企画のヒントになるからだ。横井は他にも、ペットの飼育やギター、帆船模型の製作、ガーデニングなどにのめり込む。頭の中にある体験や情報の引き出しの多さが、次々とアイディアを出せる秘密。人生の体験全てが企画の種となりうるのだ。

写真かばんの中には、趣味で始めた漢字の練習帳が・・・


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