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これまでの放送

第27回 2006年10月5日放送

心動かす広告 命宿す写真 写真家・上田義彦


サムライの真剣勝負

 上田は撮影の際、被写体と向き合ってもなかなかシャッターを切らない。互いに見つめ合ったまま、いい表情が出るまでひたすら待ち続ける。その姿はあるアートディレクターに「サムライの真剣勝負」と例えられる。
待ち続ける事で、被写体の気持ちがふっとゆるむ。その一瞬に現れる最高の表情を逃さずシャッターを切る。まさに、上田の撮影は居合い抜きの達人の技を見るかのようだ。

写真上田はなかなかシャッターを切らずに、被写体と向き合う


自分を信じる

 撮影がうまくいかないときでも、上田は必ず自分の感覚を信じ続ける。広告の世界は、アートディレクターやクライアントなど多くの人間が関わる現場。被写体の表情が撮りきれないと感じたときには、上田はその感覚を信じて、何度でもやり直しを行う。
撮影が終わるとき、それは、上田が心から納得した時だ。

写真CFのカメラマンも手がける上田。自分を信じて何度でも撮り直す


君は、広告には向いていない

 独立直後、上田は広告代理店のディレクターから面と向かって言われた。「君の写真は広告に全然向いていない」。当時、広告の世界は有名写真家が次々と飛び出す花形の世界。全否定された言葉は、上田の心に深く刻まれた。
上田はしばらくファッション雑誌で撮影した後、写真家を志すきっかけとなった「ポートレート写真」を撮る日々が続いた。
そのとき、上田の元に、ウィスキーの広告を作家のポートレート写真で作りたいという仕事が舞い込んだ。もし失敗すればスタッフたちの努力は水の泡、仕事も二度と来ないだろうというプレッシャーのかかる場面。上田は、被写体であるドイツ文学者の高橋義孝を前に、なかなかシャッターを切らない。そして、高橋がふっと心を許した瞬間をとらえた写真は、広告業界で評判を博し、かつて自分には向いていないと言われた広告業界で第一線を走り出すきっかけとなった。

写真独立直後、上田は広告のディレクターから全否定される


カメラマンにできること

 「広告に関わるスタッフたちは、それぞれが自分の仕事を全うしなければならない」。それが上田の信念だ。上田はカメラマンとして、常に何ができるかを考えながら仕事をするよう心がけている。
CFの撮影現場がうまくいかない時、上田は撮影した映像を見返した。その中に、何かヒントがあるかもしれないと考えたからだ。真剣勝負で長年女優の表情を見つめてきた上田は、顔を上げた一瞬の表情の変化を見逃さなかった。

写真ピンチの時、上田は自らのカメラマンとしての目を信じる


プロフェッショナルとは…

自分のやるべきことをきちっとやるという、最大限ですね。出し切るっていう・・・それで人に迷惑をかけない(笑)。

上田義彦

The Professional’s Tools

愛用のカメラたち

上田が愛用するのは、3台のカメラ。どれも長年使い続けた物で、上田は、その癖や特性を知り尽くしている。中でも最も使うのは大判の8×10インチのフィルムを用いるカメラ。スタジオでの人物から風景まであらゆる撮影で使われる。また、一番小さな35ミリフィルムのカメラは、家族の写真など相手にカメラをなるべく意識させず、自然に撮りたい場面で使う。
最新のデジカメや連写のためのモータードライブは一切使わない。カメラを挟んで、撮る物と撮られる物がきちんと向き合える体勢を作りたいからだという。

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