例えば、猫の場合も。「背中に傷」と「向かい傷」では大きな違い。
2006年10月26日 ディレクター:おとふけ

9月14日放送の脳神経外科医・上山博康さんの回を担当した、ディレクターの“おとふけ”と申します。
北海道の旭川局から来ました。出身も北海道。帯広市の横にある音更(おとふけ)町というところです。
編集のために東京入りしてはや40日。当初は渋谷のスクランブル交差点に魂を抜かれ気味でしたが、徐々に大都会になじんできました。今や、肩で風を切りながらセンター街をかっ歩しています。

さて、番組の話をさせていただきます。
今回の取材で特に印象的だったのは「外来診察」です。とにかく驚きの連続でした。

驚き1 「かなりアットホーム」
診察室が明るい!悩みの相談にきた患者さんもいつのまにか笑顔になっていました。その原因は上山さんの“おしゃべり”。診察中、上山さんの口からは世間話 がとめどなく飛び出します。「しゅうとめとうまくいってる?」、「孫は何人いるの?」、「子供は家の仕事を手伝ってくれる?」、「熟年離婚されないための 対応策は・・・」、「細木数子の番組がドウノコウノ・・・」。さらにこの間、上山さんのダジャレ&ジョークが散発的に織り交ぜられます。
上山さんは、患者さんと打ち解けることで、その人の『素』を見出しているようでした。実際、患者さんの性格・悩み・境遇・家庭環境などをよく把握していらっしゃいました。

驚き2 「外来は天下の台所」
外来はとにかく食材が豊富なんです。目についただけでも、トマト・きゅうり・生卵・エビなどを発見しました。術後の患者さんが持ってきてくれるらしいで す。「無農薬だから」って。尋常でない量の食材が、机の上にざっくばらんに置かれていました。上山さんによれば、「自分は、こんなに(野菜が作れるまで に)元気になったんだ」というメッセージだそうです。私もおすそ分けいただき、“産みたて生卵”を食べました(外来にしょうゆがなかったのでソースでした が)。・・・めちゃくちゃおいしかったです。

驚き3 「想像を絶するほど“長い”」
診察室の扉には『ただいま5時間待ち』のプレートがかかっています。なぜ、そんなに待ち時間が長いかと言うと、一人あたりの診察に20分~1時間もかけて いるんです。(※取材した患者さんの中には「2時間」という方もいました)。診察がすべて終わるのは夜10時を超えることも珍しくありません。しかし、 待っている患者さんたちも、スタッフの看護師さんたちも、皆さん“慣れっこ”という感じでした。一方の上山さんは、「患者さんに納得してもらうには時間が かかるから」とだけおっしゃっていました。

上山さんはどんなに忙しくても、一つ一つ、絶対に手を抜くことがありません。

一日の睡眠は4時間、土日は出張手術。その生活は限りなく不眠不休に近いものがあります。さすがに、「体がきしむ」と漏らしていることもありました。しか し、上山さんはどんな場合においても、『患者さんの利益』になることを最優先します。診察に限らず、そういうシーンは何度もかいま見みました。

ただ、信念を通そうという時には必ず障壁も現れます。「自身の疲労」だけでなく、時には、「制度の壁」・「周囲の批判」・「組織の圧力」もあります。です が、上山さんは一切妥協しません。その論理はいたって明快です。<『患者さんの利益』になることの方が絶対に正しい。だって、患者さんは人生がかかってい るんだもん。>

たった一つの信念。でも、それを実践することは容易ではありません。私もただあこがれてしまうだけです。
『“いい番組”を作ることに殉ずる』。口では簡単に言えるのですが・・・・。理想はわかっていても、現実の自分は「言い訳」や「逃げ口上」のオンパレードです。

ただ、今回の番組は自分にとってもよい勉強になりました。先輩ディレクターたちのオーラに萎縮(いしゅく)しつつも、目まぐるしい忙しさに容量オーバーし つつも、スネをかじってばかりで何にもしていない自分にふがいなさを感じつつも、「もっと頑張りたい」という気持ちを強く実感することができました。番組 作りをいっそう好きになることができたと思います。
旭川に戻ってからも、困難に背を向けず、少しずつプログレスできるよう頑張りたいです。