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第26回 2006年9月14日放送

医者は人生を手術する 脳神経外科医 上山博康


覚悟をもって言いきる

 脳動脈瘤(りゅう)は必ず破裂するとは限らないが、ひとたび破裂すれば半数が死にいたると言われている。破裂を未然に防ぐために手術することもできるが、その判断は簡単ではない。手術にも後遺症のリスクがある。手術を受けるかどうか、患者や家族に判断が委ねられるため悩む人が多い。だが上山は、不安を抱えた患者に対して、「大丈夫だ」と言い切る。手術のリスクを説明したうえで、後遺症なく治すことを約束する。手術の結果に責任をもつことで、患者の負担を和らげる。
 一方で”言い切る“ことには覚悟がいる。万が一の場合、患者側から訴えられる可能性も否定できない。だが、上山は言う。「患者は人生をかけて医者を信頼する。その信頼に対して医者は何ができるのか。自らもリスクをとって五分と五分の関係を築くこと、それが礼儀だと思う。」

写真後遺症なく治すことを約束し、患者の不安を和らげる


目の前のことだけに集中する

 上山は、集中力は無心から生まれると考えている。手術は一つ一つの作業の積み重ね。例えば、「血管を吻(ふん)合するときは、血管を吻合することしか考えない」という。次の手順や、不安な気持ちなどにとらわれると迷いが生まれる。まずは一つ一つ、目の前の作業をしっかりとこなすことだけを意識する。

写真手術の時は冷静そのもの 一切の迷いがない


患者は人生をかけてやってくる 

 上山のもとには手術を依頼する手紙やメールがひっきりなしに届く。その数は、月に100通近くになることもある。上山は仕事の合間を利用して、その全てに目を通す。患者からの手紙には、人生の歩みや家族への思いなどがつづられている。人生をかけてやってくる患者に対して、上山は正面から向き合うことを信条としている。返信も人任せにはしない。仕事を終えた深夜の時間を利用して自ら返事を書く。睡眠時間は一日4時間。上山は、そんな生活をもう30年も続けている。

写真月に100通近くの手紙やメールが届く


プロフェッショナルとは…

過去から通した生きざまで、自分を好きでいられる生きざまを貫くこと。それが僕は本当のプロだと思っています。自分を偽らないということですね。

上山博康

The Professional’s Tools

鋏(はさみ)

上山の手術道具には、オリジナルデザインや独自に開発したものが多い。道具の良し悪しが手術のクォリティーに直結すると考えている。特に、上山の「鋏(はさみ)」は、狭い空間にも対応できるよう特徴的な薄さをしている。それを可能にしたのが刃の曲線。挟まれたものが滑るように動くため、切りやすい。妻が盆栽をしている時に、剪定(せんてい)の鋏をみてひらめいたという。

写真上山が独自に考案したデザイン


針と糸

脳外科手術はミクロの世界。当然、使われている道具も小さくて細かい。写真は手術用の糸。直径0.02ミリという細さで、肉眼では確認することさえ難しい。上山はこの糸を使い、0.5ミリの血管まで吻(ふん)合することができる。

写真手術用の針と糸


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