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これまでの放送

第25回 2006年9月7日放送

楽しんで学べ 傷ついて育て 中学教師・田尻悟郎


教師=エンターテイナー

 田尻が英語を教える相手は、中学生。「英語」という未知の世界に触れる生徒たちと向き合うとき、田尻はまず、「楽しませる」ことを大切にする。そのためには、あらゆる手を使う。ゲームやクイズ、歌や映画、そしてときには屋外での特別授業。巧みな話術と面白おかしい小道具、そして大げさなリアクションで生徒たちを盛り上げる田尻。その姿は、まるで大道芸人のよう。
 しかし田尻の目的は、生徒を遊ばせることではない。授業を楽しませ、夢中にさせることで、慣れない英語を生徒たちの身近なものにしていく。田尻は言う。「英語を勉強することは苦い良薬みたいなもの。そこに楽しさという糖衣をまぶすことが先生の重要な役割だ」

写真舞台は教室、観客は生徒、演者は先生


1対1で向き合う

 子どもたちと一人ずつ対話する場面を意識的に作らなければ、彼らからの信頼を得ることはできない、と田尻は考える。しかし、一クラスの生徒はおよそ40人。どうやってその時間をねん出するか。
 解決策として田尻が考え出したのは、1対1で行う口頭の小テスト。単語の発音や会話の練習、あるいは短いスピーチなど、生徒と1対1で向かい合ってテストをする。そのなかで会話を重ね、その子のやる気を引き出していく。数十回の小テストをクリアして実力がついた生徒を、田尻は「先生役」に指名して、ほかの生徒の小テストの相手を任せる。生徒同士での教え合いが始まるのだ。複数の「先生」を教室につくることで、田尻自身は、それまで面倒を見られなかった生徒と1対1で向き合うことができる。

写真田尻の授業の名物、個別に行う口答試験


熟していない実は、摘み取らない

 田尻の仕事は、英語の知識を教えることだけはない。田尻が教えるのは、思春期の真っただ中に立つ生徒たち。子どもから大人へと成長していくこの時期の生徒たちと日々、接するなかで、田尻は授業を通して「大人になるための練習」を課す。
 しかし田尻は、頭ごなしに生徒に「指導」することはしない。大切なのは、本人が気づくかどうかだと考えるからだ。それまでは、ただ待ち続け、生徒を信じ続ける。友だちとトラブルを起こしたときや本人が気落ちしたときこそが、機が熟したとき。そのとき初めて、田尻は動き出す。

写真信じて、待ち続けるのが田尻流「人間育成法」


プロフェッショナルとは…

僕にとっては、やはり常にいろいろな場面でベストな判断ができる人だと思います。そのベストの判断ができる人は、失敗を繰り返してきて、消去法で答えを見つけられる力がある人だと思います。だからチャレンジをし続ける。失敗を恐れない。

田尻悟郎

The Professional’s Tools

カルタとハエたたき

「楽しませ、学ぶ意欲をかきたてる」―― 田尻のその流儀を授業で実践する定番アイテムのひとつが、カルタゲーム。例えば、“bag” (カバン)と“bug”(虫)などように、発音の似た単語を紛れ込ませているのが、ポイントだ。生徒たちは、カルタを取りたいという一心で、勉強だということも忘れ、微妙な発音の違いを聞き分けるようになっていく。

写真カルタは、田尻の授業には欠かせない


カニと干物

田尻の授業の「教材」には、時折、どう使うのか見当もつかないようなものが登場する。これは、北海道旅行の際に、札幌のテレビ塔の土産物コーナーで購入した「カニ」と「干物」。授業に使える物がないか、生徒が喜ぶものはないか、田尻の頭は休みの日も、常にそのことでいっぱいだ。百円均一の店やホームセンター、本屋やテーマパークが、田尻の授業の発想の源だ。

写真これは、一体、どうやって授業で使うのか?