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これまでの放送

第22回 2006年8月3日放送

恋して泣ける技術者たれ ロボット技術者・小柳栄次


開発に、タブーはない

 小柳の発想は、とにかく型破りだ。ある日、ロボットに組み込みたい部品があると言い出した。それは、ホームセンターで見つけた「ビット」と呼ばれる電動ドライバーの付属品。この「ビット」に加工を加え、新型ロボットのシャフトとして使おうと考えていた。
小柳いわく、「ビット」は、電動ドライバーの強力な回転に耐えるように設計されているため、自分たちが今使っている部品よりも、強度の面で優れているという。しかも、価格は当初使う予定だった部品の、8分の1。
結局、この部品は、使われることはなかった。しかし、開発のスピードを上げ、コストを下げるためならば、常識にとらわれず、できることを探し続けるこの姿勢。それこそが、ロボット技術者・小柳栄次の大事な流儀である。

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恋して泣ける技術者たれ

 小柳は、40代まで、工業高校の機械科の教師。ロボットに魅せられ、教師を続けながら技術を学び、51歳で博士号を取得したという異色のキャリアの持ち主。
その口癖は、「技術者ならば恋をしろ」。
そこには、「ロボットは研究のためにではなく、使い手のために開発されるべきだ」という、小柳の考えがある。レスキューロボットが使われるのは、極限状態の災害現場。だからこそ、レスキュー隊にとって使いやすく、壊れにくいロボットでなければならない。開発段階から、使う人、そして使われる状況を想像する力が、技術者には問われると考えている。
休む間もなく作業が続く開発現場を引っ張りながら、小柳はその背中で、自らの信念を若者たちに語り続けている。

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可能性は、自ら生み出すもの

 最先端のロボット開発の現場では、不測の事態が次々と起こる。
新型ロボットのモーターを自動制御するための装置が発熱し、壊れるトラブルが頻発した。初めて取り組む技術だけに、原因がなかなかつかめない。こうした中、小柳は思い切った提案をした。「モーターを制御するベースクロック(周波数)を下げる」という。そうすれば、制御装置にかかる負担が減り、発熱を抑えられると考えた。
ただしこの方法には、モーターが動かなくなるというリスクあった。メンバーは、うまくいく可能性は低いと反対した。
しかし、小柳は譲らない。
それを支えるのは、「可能性は自ら生み出すもの」という信念だ。どんな小さな可能性でも、試してみなければゼロと同じ。未知の領域に挑む技術者は、挑戦し続けることが大切だと、小柳は信じている。

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プロフェッショナルとは…

やっぱりいい価値観と尺度とあとは信念。これでいいんだと、それに対する責任をもつ。それがプロなんじゃないですか。

小柳栄次

The Professional’s Tools

がれきなどの障害物を乗りこえていく技術

レスキューロボット 「通称:03(ゼロサン)」
去年、ロボットコンテスト世界大会を制したロボット。小柳が開発を初めて通算3台目。様々な技術を盛り込み、世界の関係者を驚かせた。

 「03」の最大の強みは、キャタピラーの付いた前後4本の腕。この腕を、地形に合わせて動かすことで、様々な地形を走破することが出来る。
 例えば、後ろの腕を使って立ち上がれば、全高の2倍以上に当たる40センチの段差を乗り越えられる。また、前後の腕を内側にたたんで車高を上げれば、深さ25センチまでの水たまりでも進むことが出来る。さらに、腕に付いた爪を使えば、傾斜45度の坂や階段を登ることができる。

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発見した人の生死を確かめる技術

がれきなどを乗り越え、人を発見。ここからは、ロボットに搭載されたセンサーの出番。
まず使用するのは、遠隔操作のカメラ。これで、人体に動きがあるかどうかを確認する。
さらに、熱センサーを使って体温を測定。パソコン画面上に示される、サーモグラフィーの映像を頼りに、人の生死を確かめることもできる。

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レスキュー隊を支援する技術

現在のところ、レスキューロボットは、災害現場で人を直接救出することは出来ない。可能なのは、現場の状況を後続のレスキュー隊員に知らせ、迅速な救出を手助けをすること。
そのために搭載されているのが、周辺の状況を把握するレーザー・センサー。このデータをコンピューターで分析し、要救助者のいる現場に至るまでの経路を、自動で地図として書き出す。

多様な技術を盛り込み、複雑な仕組みにもかかわらず、厳しい現場で壊れずに動く「信頼性」が、小柳のロボットにおける最大の強みとなっている。

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