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これまでの放送

第17回 2006年6月1日放送

勝つことより大事なことがある 教師・大瀧雅良


自分で考えた答えだけが 自分のものになる

 「お前の弱点はなんだ?」「あの生徒はどうしてそのポジションにいるのか?」大瀧は練習の際、徹底して生徒に質問をする。自分が答えを教えることは、極力しない。教師がすぐに答えを教えると、生徒は考える事をせず、身に付かないと考えているからだ。
 その質問のしかたは、必ず一人一人の生徒に対して。全体に話しかけると、生徒たちは自分の問題としてとらえない事が多いからだ。一人一人の悩みを見つける事は時間がかかる。しかし、それでも心に届くように、大瀧は個別に話しかける。

写真大瀧は常に一人一人の生徒の目を見て質問を投げかける


勝つことより大事なこと

 大瀧は簿記や会計などの「商業」を担当する教師。高校サッカーの監督に体育教師や監督専門の人間が多い中、異色の存在だ。大瀧自らを監督ではなく、教師と位置づける。伝えるのは、サッカーの技術だけでない。服装やあいさつなど、人として当たり前の事を大瀧は大切にする。かつてはルールを破った主力選手をインターハイ予選で試合からはずしたこともあるという大瀧。ルール違反で勝っても意味はない。
 勝つことより大事なことがたくさんあるという。

写真大瀧は30年以上「商業」の授業を受け持ち、教室でも生徒を見つめる


衝突を恐れるな

 チームの和が大切と言われることの多い中、大瀧は選手同士に、相手のミスを指摘し、本音で文句を言わせる。相手の悪いところを指摘し合わない限り、チームの力は上昇しない。問題をそのままにしないことこそが、相手に対する優しさだと考えている。
 その厳しさゆえに、生徒同士のけんかやいざこざが起きる事もある。しかし大瀧は、選手それぞれが本気で練習に取り組み、意見をぶつかり合わせる方が友情も芽生えると考えている。

写真グラウンドでは、生徒同士が高め合うための声がいつも聞こえる


悩みの先にしか、答えはない

 壁にぶつかっている生徒たちは、思い悩み、答えを見いだせない事が多い。その際には、大瀧はあえて開き直らざるを得ない場面に追い込み、背中を押してみる。
 大切なインターハイ予選中、生徒の一人が思い悩んでいた。大瀧は練習をほとんどしていない生徒をあえて実戦に放り込む決断をした。大切な公式戦で、試合勘が戻っていない生徒を使うのは大瀧にとっても賭けだ。
 だが、がむしゃらにやればきっと何かがつかめると、大瀧は送り出す。

写真大瀧に背中を押され、悩む生徒が走り出した


プロフェッショナルとは…

僕もよくまだわからないのですが、何かを突き進めていっても、まだやり方が何かあるのではないかなと。もっといいものがあるのではないかなという求めていく欲みたいなものを持っているということだと思うのですけれどもね。

大瀧雅良

The Professional’s Tools

大瀧の育てた日本代表たち

大瀧はこれまでサッカー日本代表を13人、育てている。今年開かれるワールドカップ・ドイツ大会には現在、小野伸二、川口能活が招集されている。

 小野は大瀧について「自分は言われるとすぐにカチンときがちなのだが、大瀧先生は言葉と行動に矛盾がないから、素直に聞ける」と信頼を寄せる。
 また、川口は「大瀧先生には生き方や考え方といった人間として大切な事をたくさん教わった」と感謝する。

 卒業した後も、OBがピンチと見るや大瀧は連絡をする。
 99年のシドニーオリンピック予選中、後ろから危険なタックルを受け、選手生命を脅かすケガを負った小野伸二。同情の声が多く寄せられる中、大瀧は小野が気を抜いたからと、「ケガをして当然」と小野に電話をした。
 小野は「はい上がろうという気持ちになった。どんな時にも厳しくしてくれるから、甘える事なくプレーできる」と語る。

 またワールドカップフランス予選を戦っていた川口を救ったのも、大瀧からのFAXだった。最終予選前半4試合で1勝と本大会出場が絶望的だった日本代表に大瀧からFAXが届いた。「厳しいとき、苦しいときー力を発揮するのが日本男児。逃げるな、正面から戦え。自分を信じて、仲間を信じて・・・」。川口はそのFAXを読んで泣いた。
 川口は語る。「涙がでてきました。僕たちはこんな事も忘れていたんだなと。まだまだこれからだよ、という大瀧先生ならではの言葉でした」

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