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これまでの放送

第10回 2006年4月6日放送

自分は信じない 人を信じる プロデューサー・鈴木敏夫


仕事を“祭り”にする

 「仕事を仕事と思っていたら、バカバカしくてやってられない」と、言い切る鈴木。そこで鈴木は“仕事”をみんなで楽しむ“祭り”に変えてしまう。その根底には「仕事を忘れない限り、いい仕事は生まれない」という信念がある。スタッフ1人1人が主体的に、心の底から楽しんで仕事に取り組んだとき、メガヒットは生まれると考える。
その姿勢は、億単位のカネが動くビジネス交渉の場でも変わらない。鈴木は、タイアップ企業の幹部をいきなり、製作現場に案内するなど、あえて自らの手の内をさらすことで、いつの間にか“祭り”に巻き込んでいく。こうしてできた1000人を超える“仲間”とともにメガヒットを狙う。

写真鈴木の会議には、笑顔が絶えない


鈴木流 通勤の楽しみ方

鈴木はほとんど毎日、車通勤(週1度は電車通勤)。午前9時に自宅を出発し、東京都郊外にあるアニメスタジオに向かう。この1時間の通勤時間が鈴木にとって、貴重な時間だという。
まず、鈴木にはお気に入りの道がある。桜並木の美しい道、静かな公園の脇道、トトロが住んでいそうな家…。どれもたわいのないものだが、鈴木はいたって大まじめ。日常のなかで小さな楽しみを見出すことが、仕事を楽しむ第一歩だと言い切る。鈴木はこうした運転中に思いついたことを車内に常備したメモ帳にその場で書き込む。こうした何気ない発想から、ヒントが生まれることも少なくない。

写真路地で迷うこともしばしばだ


盟友・宮崎駿監督

 鈴木にとって、常にプロデューサーとしての力を試される相手、それは宮崎駿監督。しかし、宮崎監督と向き合うとき、鈴木は決してせかそうとはしない。「無理矢理に作っても、いい作品は生まれない」。それが鈴木の考えだからだ。
鈴木は宮崎と毎日のように顔を合わせ、そっと寄り添うにして、宮崎の話に耳を傾ける。そうして宮崎の考えていることを理解するよう心がける。鈴木は、監督とプロデューサーの関係を、犯人と刑事になぞらえる。何か事を起こそうとする監督(犯人)の意図を、プロデューサー(刑事)は読み解こうとするわけだ。2人はこうして付かず離れずの堅い信頼関係から、20年以上にわたって、メガヒットを生み出しつづけてきた。

写真「互いになくてはならない存在」と語る宮崎駿監督


半径3メートルで仕事をする

 鈴木は、新聞・雑誌・テレビをほとんど見ない。情報を仕入れるのは、常に身の回りの人間からだ。「生ネタが好き」と語る鈴木の仕事場はいつも「半径3メートル」の中に収まるという。何か壁にぶち当たったときも、自分で考えるだけではなく、周囲の人間に解決策を求める。
 新作映画の挿入歌をどう売り出すか。この課題を抱えたときも、知り合いの音楽関係者を集めて、知恵を出してもらった。そして、新作映画をどう宣伝していくか。どのシーンを強調すれば、お客の心をつかめるか…など、鈴木は常に「なぜ?」「どうして?」と、直接、周囲に聞きまくる。その際、相手の年齢や肩書きはお構いなし。取材班にすら、率直な意見を求める。こうして集めた数多くの意見をもとに1つの方向性を決めていく。そこには「たった1人の人間が考えることはたかが知れている」という、鈴木の強い信念がある。

写真「1+1は100になることもある」。鈴木の信念だ


プロフェッショナルとは…

プロフェッショナルですか…、これ難しいなぁ…、ほんと難しいですね…。やっぱり、みんなの期待に応える。そうかな…。そういう気がします

鈴木敏夫

The Professional’s Tools

雪駄(せった)

会社にいるとき、鈴木はいつも、はだしに雪駄(せった)。出勤すると、まず靴下を脱ぎ、はだしになって一息つく。雑誌記者をしていたころからの慣習で、はだしの方が気持ちいいのだという。
スタジオ内を歩けば、「ペタペタペタ…」と雪駄の音が鳴り響く。この独特の音で「アッ!鈴木さんが来た」と気づくスタッフも少なくない。しかも、他社の重役などが会社を訪れた際も、このスタイルは変わらない。雪駄は「いつも自然体でいたい」という鈴木の象徴でもある。

写真 真冬でも、このスタイルは変わらない


モバイルパソコン

雪駄などから、“アナログ”なイメージが強い鈴木だが、手放せないほどパソコンを重宝している。製作中の新作の絵コンテを取り込み、空き時間を利用して見たり、人に見せたりして、宣伝のヒントなどを考えている。
なかでも最も使うのが“メール”。1日数十件のメールに、どれだけの時間がかかっても鈴木は全てに返事を書く。そして、文末にお気に入りのマークを付ける。それは“(笑)”。「デジタルなツールでもアナログな付き合いをしたい」。そんな鈴木の思いがひっそりと込められている。

写真海外に行くときも欠かせない必須アイテム
写真新作映画の絵コンテを取り込んだもの


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