2009年01月13日 (火)診療所医師 中村伸一さん
福井県おおい町名田庄地区の診療所で、
地域医療のプロとして、これまで15年間
住民の健康状態を見守ってきた中村さん。
中村さんに、あえて専門分野は?と伺うと、
こんな答えが返ってくる。
「名田庄地区に、医師になって3年目で赴任したので、
自分の得意なものとか、
自分はこれで勝負するんだというものを持たずにいったわけですよ。
何も知識も技術もない人間が、不十分な人間が、
ひとりで地方の診療所に行くと、もう態度で示すしかないんですよね。
一生懸命やっているという態度で、誠意で示すしかないんですよ。
一生懸命、皆さんの話を聞いて、かつ、
こちらもわかってもらおうとコミュニケーションを取る。
そこの地区にとって必要なことを、名田庄にとって必要なこと、知識、技術・・・
そういうことをあとから習得していったという感じなので、
だから、あえて言うと、『専門は名田庄』なんでしょうね。
そうですね、『名田庄科で』すね、『名田庄科』(笑)」
総合病院の医師が、病気という、患者さんの非日常と付き合う立場だとすると、
地域の診療所医師は、患者さんの生活という、日常に寄り添う仕事なのだという。
ある人生の危機的な一点だけを支えるのではなく、
一生という線をサポートする。
これは、言うほど簡単なことではない。
ふだん、わたしたちは自分の人生の選択にも迷うのに、
人の人生のことなんて、
ぱぱっと決められるはずがない。
責任が重いし、考え出すとものすごく悩んでしまう。
でも、中村さんは、
名田庄地区の人たちの人生の「線」を、
「面」あるいは「立体」として捉えられるまでに
たくさん話を聞き、時には足を運び、たくさん観察し、考え、
患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)をサポートする。
例えば、スポーツが生きがいになっているお年寄りが
「ひざが痛い」と診察にきたら、
膝のことだけを考えて闇雲に「安静にしてください」というのではなく、
できるだけ生きがいを持ったまま、心元気に生活できるように、
痛み止めとか、他の生活改善の方法までをも考えるのだ。
話を伺っていて、
あぁ、そうだわ、わたしたちは人間なんだもの、
という思いが、ふと巡る。
機械であれば、病気や老いに局所的に対処していけばいいのかもしれないが、
わたしたちは人間だ。
感情や思考があり、家族がいて、社会に生き、いろんな事情や思いを抱え、
時には論理的には説明のつかない理由で行動し、喜びを得て、
生きていることを実感する。
ある大きなものを犠牲にしてでも、
別の小さな幸せをつかむことが、最大の生きがいとなることもある。
人から見てどう映るかとは別のところに、
本人はレゾンデートル(存在理由)を感じていたりする。
患者さんの最期を看取り、
看取るご家族のサポートをすることも、中村さんの大切にする仕事のひとつだ。
人の一生に寄り添うということは、確かにそういうこと。
そうした看取りについて中村さんが感じている話を伺うと、
さらに、思いは強まる。
「ここ1~2年、看取りがだんだん、ものすごくつらくなってきましたね。
わたしが赴任したときはとても元気だった人、病気でもなかった人、
あるいはわたし自身がお世話になった近所の人、役場の方だとか、
そういった元気のころのお付き合いがあった人が
その村に行って十数年経つと、亡くなっていくんですよね。
わたしの中の精神状態も普通の仕事としての看取りとは、もう言い難くなりました。
亡くなっていく人を見ると、
すごく元気であったとき、
わたし自身がお世話になったとき、
その人のガンを見つけてしまったとき、
だんだん衰えていくとき、
ぜんぶ、見ちゃっているんですよね。
自分の中で『医者を演じなきゃいけない』と一生懸命思うんですけど
演じきれないんですよ。
もう、とても演じきれないですよ。
四十半ばになるいいおっさんが、
患者さんが亡くなるといっしょに泣いちゃうんですよ。
全然これはプロ意識から逸脱していて、
ちっともプロフェッショナルじゃないなと思うんですけど、
でも、ほんとそうなんですよ。
もうその人の人生というのが、自分の人生の中に入り込んじゃっているんですね。
仕事としての関わりだけじゃないですから。
そういう看取りをやって、ものすごくつらいなと思うので、
できたらほかの土地に移ったほうが気が楽なんじゃないかとか、
時として思うことがありますよね。
だけど、恐らくその人たちは、僕を信頼して『家で死ぬ』という選択をして、
それで僕が看取っているわけですから、
その人たちの期待に僕は応えていることになるんですよね。
若いころ、右も左もわからない時代の自分を医者として一人前に育ててくれた
その人たちに対する恩返しが、看取りなのかなというような気もしてきて、
だんだん仕事としての看取りから・・・何か恩返しなんですかね。
もしかすると僕自身の心から言えば、修行なのかもしれませんね。
とてもつらいけど、うまく表現できませんね、
つらいんだけど、充実感があると言えばあるのかな・・・。
うまい表現法が見つかりませんけど、とてもつらいですね」
結局、患者さんも人間なら、医師も人間。
みんな生まれ、生きて、いつか死ぬ。
そして、ひとりの人間が生きることと死ぬことは、
ただ数十キログラムの肉体という物質が地上に現れて、無くなる、
という以上のインパクトがあるのではないかと思う。
そんな人間同志だから、
社会的立場、肩書きをはぎ取り、役割を超えたところで関わり合う。
なんて、切なく、なんて、すばらしいことだろう。
中村さんのお話を伺っていると、
都会でドライに生活していると忘れてしまうことがある
人間の、生身の生き物らしさを、
今一度、心の中心に呼び戻したくなるのだ。
中村さんのことばで、忘れらないひとことがある。
「几帳面な人は、几帳面に亡くなるし、
穏やかな人生を生きた人は、穏やかに亡くなっていく。
死にざまは、生きざまなんです。
人の命ということ、人が生きるということ、死ぬということは、
どう言えばいいかな、
知性で学ぶことでなくて、感性で感じることなんです」
わたしは、瞬時に
10年前の、自分の父の死にざまを思い出し、
それまでの父の生きざまを思い出し、
それから、いま周りにいる大切な人たちの生きざまに思いを馳せた。
自分の身体のなかで、
ぐるぐると、台風のように激しく感情がめぐった。
ちょっと、ふらふらと、めまいがした。
でも、それでいいのだ。
むしろ、それでいいのだ。
中村さんにそう言われている気がした。
投稿者:すみきち | 投稿時間:13:55
コメント
自分の一日殆どをその医療に携わっていること。
言葉がないです。
自分自身のことに振り返り
これからの生き方を考えました。
中村先生,お体大切にされ
ご活躍ください。
あなたの生き方そのものが
多くの人の力になっています。
投稿日時:2009年01月13日 22:37 | ゆきまち
こんばんは。先ほどテレビを見て・・・感動して、中村先生に感動して、何故か涙だ出そうになりました。
過疎まではいかないけれど、私の町もこれから先、向ける分野は違っても、中村先生みたいな志の方がいるといないとでは大違いですよね。
中村先生と話がしてみたい、そう思ったのです。
投稿日時:2009年01月13日 22:59 | coco
どれだけ高齢化するのか想像もできませんが、
そう遠くない将来に、日本の医療体制は
こうならざるを得ないのではないか、という気がします。
幸せに生きたい、という率直な願望から言えば、
とても自然で、当然のことなのではないか、そう思えます。
そして、先生にお願いできるとすれば、
同じ志の医師を一人でも多く、育てて頂きたいな、と思います。
大変感動いたしました。ご自愛ください。
投稿日時:2009年01月13日 23:15 | kid A
院内学級の教師をしています。
教育現場と医療現場の両方で仕事しているため、医療全般、地域医療もいろいろ考えるようになりました。
今回のプロフェッショナル診療所医師 中村伸一さん 地域医療を支える姿に、感動を覚えました。こういう人が、地域医療を支えているんだなと実感しました。
私の住んでいる地域では、まだまだですが、いつの日か、日本でも津々浦々地域医療が充実し、住みやすい、みんなが安心して生活できる国になるように願うばかりです。
本当に、感動できる番組ありがとうございました。
これからも、プロフェッショナル期待しています。
投稿日時:2009年01月13日 23:20 | 鈴木康雄(すーさん)
こんばんは。すきみちさん、お疲れ様です。
やっぱり、すきみちさんはステキですね。
前回、大谷るみこさんの回で初めてコメントさせていただきました。
介護の仕事をしており、また、母の介護をしています。
だから、介護や医療のお話は特に力が入りながら見ています。
今回も。
すみきちさんのようにしっかりとした感想は投稿できないのですが、
私は、五感で生きたいと思っていました。
人間くさく生きたいです。
仕事では人間くささは・・・・時に孤立してしまいます。
でも!
やっぱり!
人間くさい!ちょーくさい!!仕事をしたいと思いました。
だって、すみきちさん、人間くさいから、
だから、すみきちさんのお仕事しているお姿、私、大好きなんだな。
投稿日時:2009年01月14日 00:10 | たまいりえこ
中村先生の地域医療に懸ける信念、執念を心地よく感じながら拝見させて頂きました。巷ではともすれば”医は算術” あるいは総合病院の勤務医の過酷な余裕のない勤務体制等を見聞するにつけ、このような崇高な精神を持たれる若い意欲的な医師が一人でも多く僻地医療に携わられる事を強く念願するものです。感動しました。(1/14 S.M)
投稿日時:2009年01月14日 15:53 | 政中 智
番組見ました。
中村先生に打ちのめされた。
で、このブログ見て、
すみきちさんに頭が下がった。
『死にざまは、生きざま』
両親が年老いていくにつれ、
安らかに逝ってほしいとの願いが強くなります。
苦労して、誠実に私達を育ててくれたのだから。。。
もちろん長生きしてほしい。
早く恩返ししなきゃ。
最良のドキュメンタリーでした。
再放送も見ます!
投稿日時:2009年01月14日 17:02 | ろびんそん
番組中の住吉さんの表情がとても好きです。
患者さんが先生だとおっしゃっていた中村さん
「先生、頼りにしていますから」と穏やかな表情を
見せておられたお年寄りの皆さん、安心して暮らす、
生きるということを感じました。
投稿日時:2009年01月14日 20:34 | わくらく
先ほど放送を見たばかりです。
もうずっと涙が止まりませんでした。
中村先生の生き様に、名田庄の人々の柔らかい表情に、理想的な医療体制に、、、。
感動の涙あり、羨望の涙有り。
人生全てを捧げて、逃げ出したくなるほどの責任を抱え込んで、なおかつそれを充実しているといえる先生の生き方をみて、自分の人生のなんと薄っぺらな事か、抱え込んでいる問題のなんとちっぽけな事かと考えさせられたり。
診察だけでも、多忙のはずなのに、介護サービスや、近隣の総合病院、自治体との連携など医療システムを構築するのは、想像を超える忍耐と努力、時間が必要だったに違いないと思います。
この放送を見て、一人でも多くの若い先生たちが将来自分の進むべき選択肢の一つとして、中村モデルを考慮にいれ、一つでも多くの地域がこうした理想的な環境が整えばいいのにと願うばかりです。
私は今海外に住んでいて、老後をどこで送るか、考えることがあります。
日本から聞こえて来るニュースは犯罪の増加、年金、介護、大都市と地方の格差など余り明るいものではない事が多いので、郷愁に浸る事も少なかったのですが、
名田庄の方々や協力体制を見て、やはり都会の人が忘れてしまった大切なものを見たような気がし、人間にとって、何が大切なのか、幸せなのかなんていうことも考えさせられました。(なんか、話がぽんぽん飛んでしまいましたね.)
最後に、すみきちさんのブログに書かれていた、先生のことばの中で、
人の死に様は、生き様である。
鳥肌が立ちました。
中村先生、テレビで拝見した限りでは、
お忙しさのあまり、ご自分の食生活があまり充実していなかったようにお見受けしました。
どうか、どうか、名田庄の皆さんの為にも、ぜひご自愛ください。
投稿日時:2009年01月15日 00:01 | るり
ビデオに撮っておいたものを先ほど見ました。
とても感動しました。
住吉さんも茂木さんもとっても好きですし、いつも拝見してます。
中村先生のような志を持つ方を思いがけず目の当たりにし、
「こんなに頑張っている人のためなら、
自分の仕事を捨ててそばでサポートしたいかも…」
なんていう気持ちがふっと沸き起こりました。
それは現実味がないとしても、私は
「志が高く、他のために頑張っている男性に惹かれる」
ということを改めて認識しました。
投稿日時:2009年01月15日 20:40 | メーテル
私も中村先生と同じ45歳。そして、地域医療・在宅療養の支援に日々駆け回っております。以前は人口7,000人の村で保健師の仕事をしていました。中村先生のように、まさに村に育ててもらったわけでして...TVを見ていたら共感できるところだらけでした。
今は、自分が生まれ育った所で仕事をしています。最近落ち込みやすく、例えば「友人のご主人を看取る」「癌末期の患者さんが自分より年下」「家族の崩壊や虐待」等々、身体を奮い立たせて働きつつも心が固まることが次々ありました。村を辞めた時も燃え尽き症候群のような状態だったので、ちょっと危ない傾向だと我ながら気になっていました。この番組で中村先生のお仕事を拝見して、気持の奥底から和らぎ、とても元気になりました。ありがとうございました。
投稿日時:2009年01月16日 00:27 | 奈翻子
地域の人々と寄り添いながら生きていく。
周囲の人を医療を通して支えながら、その周囲の人から支えられている。
それは、どの仕事でも、どの職場でも、どの社会でも、実は全く同じなのかもしれないですね。
患者の点だけでなく、線を診て、見ていく。
患者の死、遺族の心のケア(喪の作業?)。
もしかしたら、先生ご自身も、患者や遺族のケアをすることで、先生ご自身の心のケア(喪の作業)をしているのでしょうか?
(論点がずれて、すみません)
日本人日本社会で失われつつある、日本人(社会)の本来あるべき姿があるのかもしれないですね。
とても素敵な一時間でした。
投稿日時:2009年01月18日 13:09 | marginal_utility(cost)_K
この番組は、”みんなのお手本をNHKが探してきてくれて、
みんなに見せてくれている”と思っており、とても好きです。
プロフェッショナルの精神と共に、
仕事を通してその人の生き方が表れていて、
その意味でもお手本を見ることが出来ていると感じます。
中村先生の回、2度見ることが出来ました。
また、中村先生の含蓄があり重みのある言葉に頷いている時に、
住吉さんがいい表情をされているなと思いました。
”どう受け止めているか”と”住吉さんのお人柄”が表れていて、とても好きです。
投稿日時:2009年01月20日 02:20 | 医楽
中村先生、こんなにも素晴らしい生き方をされている、
それぞれのシーンにおいて感動が抑えきれませんでした。
人を愛せば愛すほどご自分を犠牲にしなければならない現実、
多くの困難を一人で抱え込まなくてはならない場面で、
孤独との戦いも相当なことかと思いますが、
ご自分との感情ともバランスを取りながら、
医師としての仕事を確実に突き通そうとされている誠実な行動力。
多くを学び考えさせられました。番組にも本当に感謝します。
お忙しい中村先生のお体が気掛かりですが、
患者さんの為に晩酌を我慢しなくてもよい日が続くことを祈っています。
名田庄のお年寄りの方たちの底抜けに明るい笑顔がとても印象的でした。
投稿日時:2009年01月21日 12:04 | まさこ
これまで医療関係の仕事に携わってきた者として、こんなに誠実で
行動力があり患者さんの事を考えている先生はいませんでした。
中村先生と話しているときの患者さんの安心している顔、全てをおまかせできるという信頼感。
感動しました・・・
自分の人生を捧げ名田庄のみなさんの人生を請け負う
並大抵の精神では出来ることではないと思います。
こんな中村先生のもとで、一緒に働けたらいいなと感じました。
忙しく自分の時間もないかと思いますが、先生自身お体に気をつけていただきたいと願っています。
そして、中村先生の事をたくさんの方に知っていただきたいと切実に思います。
投稿日時:2009年01月21日 17:25 | りこ
今推薦入学ですでに大学が決定している生徒に今まで放送したプロフェッショナル仕事の流儀を見せています。
時間も限られているので、私が特に感動した放送を選んで見せています。
昨年末に集めて予定を立てたのですが、今回の中村先生の放送を見て感動したので、急遽見せることにしました。
最初放送を見たときは涙が止まりませんでした。このような生き方を選択された医師もいることを知り、勇気が湧きました。
医師と教師は技術はもちろんのこと心のつながりを大切にしなければならない仕事なので大いに共感しました。
そして番組から伝わっては来ますが、すみきちさんのブログからより暖かみのある中村先生の言葉を聞くことができ、非常に嬉しく思います。
この番組を見て私自身変わりました。
定年で教壇を離れる日まで進歩していきます。
投稿日時:2009年01月22日 23:24 | 中村

