2008年12月09日 (火)バレエダンサー 岩田守弘さん
岩田さんがスタジオで舞った。
ジャンプ、回転、次々とバレエの美しい踊りの技が、
目の前で繰り出される。
1~2mの距離だろうか、
こんなに近くで本格的なバレエを踊る人を見るのは
初めてだった。
近くで見ていて、ものすごく意外な発見があった。
それは・・・
「重量感」!
ステージで踊るバレエダンサーを見ていると、
大体、その軽やかさに驚く。
高く飛んでいるのに、重たそうじゃないし、
下りるときに音もしない。軽い!
・・・と、思っていた。
しかし、近くで見るバレエは、もっともっと、リアルだった。
筋肉のみで構成されているのではないかと思うような岩田さんの肉体が、
ギュッと力強く引き締まり、重量感を醸しだす。
重力に逆らって、力強く飛ぶ。
汗が飛び、呼吸があがる。
床に下りるとき、音はしなくても、
風圧のような、物理的な衝撃が伝わってくる。
おぉ・・・!
これは、紛れもなく、ハードな筋肉運動だ。
それも、ものすごくハードだ!
それを、わたしは初めて体感したのである。
その重量感は、
岩田さんがバレエに人生をかけていることの重みと
重なる。
岩田さんは言う。
「ロシアのバレエは、
ただのエンタテインメントでも、
ただ長く続いている伝統芸能でもなく、
『国の顔』なんです」
その「顔」のなかで、岩田さんは外国人として、踊ってきた。
2m近く背のあるロシア人ダンサーの中で、
岩田さんは166cmのダンサーとして、
自分の位置を探りながら、練習を続けてきた。
いい役がもらえない時期もあった。
そんなときの岩田さんの考え方に、わたしは共感してしまった。
「僕は、なんか自分の力じゃないものに動かされているなと思う。
大きな波があって、その波の上に乗っているなと感じることがすごくある。
いいときもあるし悪いときもあるんです。踊りもそう、なんでもそう。
自分にはどうしようもない。ほんとに波があるから。
そんなときに自分にできることは、同じことをずっと続けることだけ。
悪いときに一生懸命、同じことを続けるというのが大切。
悪いときにだめだと思って止めちゃったら、そこで終わっちゃう。
悪いときも続けてやっていると、必ずいいときがあって。
いいときに、ちゃんと自分が用意できていないと、
これはもうね、できないから」
ほんとうにそうである。
人生には必ず波がある。
その波にどう振り回されずに、淡々と歩んでいけるか、
大切なものを見失わずに日々努力を続けていけるかが本当に大事だと
最近わたしも思うのである。
当時、岩田さんがそう思いながら、
誰よりもハードな練習を続けていた姿が目に浮かぶようだった。
汗や踊りの重量感が、ずっしりと感じられる気がした。
そういうしんどい時期に支えになってくれたのは、
友達や親しい先生、そして家族だったそうだ。
その中でも、
同じくバレエダンサーだった岩田さんのお父さんの言葉。
「やっぱり僕も若いとき、
こうなりたいというのがすごく強いじゃないですか。
で、自分の父と会って、『僕だって王子で踊りたい』って言った。
だけどやっぱり僕、背がすごい小さいし、
ちょっとずば抜けて小さいですね、僕。
ロシア人は女の人だって170センチぐらいの人が、
トウシューズ履いたらさらに大きくなっちゃう。
そういう人って僕、相手役として合わない。どんなにうまくても合わない。
そしたら父は、
『それでいいじゃないか。道化でいいじゃないか。世界一の道化でいい』 と・・・。
ああ、そうだなと思って。
僕は僕のやれるもの、世界一の道化になればいい、と思った。
いい言葉だと思う。それは宝物。
僕ずっとこう、なんて言うかな、自分に言い聞かせてきた」
この言葉をきいて、わたしは涙が溢れてしまい、止まらなかった。
ここに、岩田さんのたゆみない努力も、
複雑な思いも、
バレエへの愛も、
親子の絆も、
すべて凝縮されていたから。
岩田さんは、舞台で、めちゃくちゃ輝いている。
収録の後日、岩田さんが道化を踊る「白鳥の湖」の東京公演を観に伺った。
「世界一の道化」は、大喝采を浴びていた。
たまたまその日、岩田さんのご両親も観にいらしていて、
楽屋でお目に掛かった。
お父さんは多くを語らず、「みなさんのおかげなんです」とおっしゃるばかりだった。
でも、わたしには、
岩田さんを見守っていた優しい瞳が、
ものすごく多くを語っているようにみえた。
投稿者:すみきち | 投稿時間:19:29
コメント
すみきちさん、こんばんは。
岩田さんの奮闘ぶりに感動しました。
クラシック界で活躍する日本人が共通して口にする人種の壁。
立場を変えてみると、日本の歌舞伎を外国人が演じるようなものなのかも知れません。
岩田さんは、これからも挑戦し続けて行かれると思いますが、心よりご活躍をお祈りいたしています。
私は今から徹夜仕事をしなければならないのですが、岩田さんに頂いたエネルギーで頑張りたいと思います。
なお、すみきちさんの大ファンなのでこれからもがんばって下さい。
投稿日時:2008年12月09日 23:10 | みみずく
私も、
自分の弱みを逆に最大の武器になるように
磨いていきたいと思います。
私の目指す道はバレエの道ではありませんが、
私の目指す役(目標・チャンス)を得るために、
できる限りをつくして
私にしかできない演技(仕事)をしていきたいと思います。
舞台の濃縮された瞬間の中で
最高の演技をだすために、
そのひとつひとつの一瞬のために
何万回もの稽古を繰り返すのが
岩田さんのプロフェッションならば、
私は、自分の毎日の仕事の一瞬一瞬が
試されている舞台なのだと思って
自分のプロフェッションを築いていきたいと思います。
仕事も結婚もすべて行き詰って
鬱と診断されました。
でも、私はもう一度舞台に上がりたい。
私の目指す舞台に。
いま、人生の中のこの様な時に、
岩田さんの姿を拝見することが
できて大変幸せです。
ありがとうございました。
投稿日時:2008年12月09日 23:49 | わか
バレエは優雅に見えるが大変な肉体運動ですね。
ご両親がお見えになった白鳥の湖とは12月5日の東京公演でしょうか。当方も見に行っていました。
岩田さんの道化すばらしかったですね。
モスクワ駐在中にボリショイに通い岩田さんが出演されるバレエはなるべく見るようにしていたのが改めて今日の番組でプロフェッショナル振りと今の立場を得るまでの御苦労が良く判りました。
投稿日時:2008年12月09日 23:56 | bolshoi1ken
岩田さんの言葉や表情一つひとつが真直ぐ届き、感動しました。
バレエの本場で38歳になるまでのたくさんの苦労。
でも腐らず弛まぬ努力を清々しく今も続けていました。
両親や家族、友人らの愛を信じ尊ぶ素直な心が
逆境の中でも彼を孤独にせず、奮い立たせてきた様に感じました。
(すみきちが号泣きしたとき私もTVの前で泣きました)
まずは便所掃除から的な・・目からウロコの言葉、
生きていく姿勢と愛情の深さに本当に感銘しました。
これからも岩田守弘さんのこと応援し注目してます。
ありがとうございました。
PS:ロシアという国にも興味が持てました。
投稿日時:2008年12月10日 00:42 | はんじろう
毎週番組を楽しみにしています。
登場するスペシャリスト達の哲学・技量・人生に
毎回感銘を受けています。
今夜はアーティスト系なので仕事を優先させようと思いつつ
最後まで見てしまいました。
しかしアーティスト、アルティザンに関係なく
あらゆる道を究めようとする人・究めた人の話はためになります。
特に「悪い時にこそ一生懸命・・・」のくだりは、
自分に照らし合わせて聞いていました。
また、自分に無い物を追い求めるより、
自分の良いところ・特長を育てる事の大切さを教えられました。
自分も職人の端くれとして、少しでも彼らに近づける様、
自分の道を進んでいきたいと思います。
ま、仕事をほっぽってテレビを見ているようじゃ、
職人不合格ですね。
まだまだ道程は長いです。
投稿日時:2008年12月10日 02:56 | よしお
今週も拝見しました。
岩田さんのジャンプ後着地した時の重量感がTV画面からも伝わってきました。体中の隅々まで神経が行き渡っている様子も伝わってきました。
住吉さんが涙されたお話しの部分とても共感しました。
『自分の人生を生きるのは自分なんだ、自分しか自分の人生を生きられる物はいないのだ、と』
自分を生きるということになんと真摯にむきあっていることかと、今回も深い感動を頂きました。
明日への励みです。ありがとうございました。
投稿日時:2008年12月10日 11:47 | 北村かほる
--わかさんへのメールをこの場を借りて書くのは
不適切かもしれませんが
このメールを検定している方の判断に任せます。--
(私は毎回この番組を楽しみに見ている者ですが
たまたま今回このブログに行き当たり
コメントを載せたのでわかさんのコメントも拝見しました。)
端的に言うと今は私も鬱です(自分の中では)。
私はワインの醸造、ブドウ栽培をしています(小規模ワイナリー)
8月から今月末まで休みは取りません。
なぜなら自分が止まると、
会社の全ての機能が止まってしまうからです。
しかし醸造で忙しく、8am~5amと言うような日々を送り
体力的、精神的な行き詰まりを感じている今日ですが
品質・経営共に重要な判断をしなければならない事が続きながら
ハッキリとした答えが出せない事が多く焦りがあります。
ただ、今この時期に躁であるなら鬱でありたいと
感じている自分もいます。
なぜなら病的に一つの事を考える事も必要だし、
その為の作業、一手間も必要だと考えるようにしています。
岩田さんが伝えたかった事の一つに
「悪い時こそ最前の努力を・・・」
それこそがわかさんがつかみ取るチャンスを
生かす糸口に成る事だと思います。
訪れるチャンスではなく、つかみ取るチャンスです。
私の専門ではないのですが
医者は鬱・平常・躁と簡単な区分で考えてるかもしれませんが
人間の心は繊細で傷つきやすいけど力強い物です。
あなたは今を自分と向き合う時間、
内向的に学習するチャンスと考え
次へのステップと考えられるのなら
違った物の見方になると思います。
それこそが岩田さんがボリショイで行ってきた事だし、
番組を通して伝えたいメッセージなのかもしれません。
私も岩田さんの伝えたかった事を
ちゃんと受け止めていないかもしれません。
しかし、明日への希望を信じるから、
今日を生きる事が出来ると思います。
一つの道を究める事は長い道程だと思います。
気負わず、焦らず、しかし着実に前へと進む。
その努力が番組で紹介されるようなスペシャリストを
生むのかもしれません。
それが一番難しい道なのかもしれませんが、
それこそがおもしろい生き方だと思える自分は
幸せなのでしょう。
投稿日時:2008年12月11日 03:50 | よしお
岩田守弘さんという人間を知ることができとても大切なものをもらった気がします。今日もどこかで、力強く自分の踊りを踊っている岩田さんの存在を思い浮かべると背筋がピンと伸び、頑張らなくっちゃ!と思います。
投稿日時:2008年12月11日 05:51 | ムッシュ
番組拝見しました。
岩田守弘さんは、とても印象的なしゃべり方をする人だと思いました。
ちかごろ、テレビで人がしゃべっているのを聞くと、語尾をくねくねと曲げて、じぶんの言葉をじぶんで引き受けないしゃべり方をする人が多いなあ、しばしばと思うのですが(たとえば、じぶんの考えや感想を言うのにも、「〜です。」とは言い切らずに、「〜ですよね。」というふうに、漠然とした同意の雰囲気の中に言葉を紛れ込ませて、自分の言葉を、自分が言ったものとして引き受けない、というような。)、
岩田守弘さんは、自分が口から出した言葉は、自分が出したものとして我が身で引き受ける話し方が、ごく自然にできる人だなあ、と思いました。
舞台では、たったひとりで自分を、裸にしてさらけ出さなければならない。舞台の上で自分のしたことは、その場で直接、ぜんぶ自分にかえってくる。
そういう場所で自分を鍛えてきた人なればこそ、あのような言葉の使い方ができるのだろうか、などと考えをめぐらせました。
投稿日時:2008年12月11日 11:34 | コスース
岩田さんってこんなに素敵な人だったんだ!それが番組を見て最初に感じたことです。私はバレエ教室でピアノ伴奏をしているバレエピアニストです。バレエ観賞暦はもう30年以上になります。そして私自身も大人のバレエを楽しんでいます。
番組での岩田さんのお話は一言一言が重く深いものでした。バレエに本当に真摯に打ち込むプロフェッショナルの姿。
さらに番組での実演で、茂木さんが上半身がきれいとほめた時のあのうれしそうな少年のような笑顔!あの踊りが岩田さんの心そのものをあらわしてましたね。ピュアで優しくて、強くてバレエを愛している岩田さんが浮き彫りにされていました。
番組放映の一週間前に11月24日に、滋賀県のビワコホールで「明るい小川」を観たんです。アコーディオン奏者の役を生き生きと踊っていた岩田さんの姿は今でも目に焼きついています。日本初演のこの日に
故郷で、ボリショイのソリストとして踊れる・・その喜びが溢れていて、こちらまで誇らしいような気持ちになり、胸が熱くなり、涙がでました。二年前のファラオの娘の公演も観たんです。その時着ぐるみの猿だった岩田さんの顔を見る事が出来なかっただけに感無量でした。
バレエ観たことがない人にも勇気と感動を与えた番組だったと思います。
投稿日時:2008年12月18日 01:38 | ケイコ
ものすごいプレッシャーの中で、一人奮闘されて
いる姿に感動しました。
努力すれば報われる、必ず誰か見てくれてる人が
いるという事を思いました。
投稿日時:2008年12月18日 14:53 | 清水修一
先日番組を拝見させていただき、深く感銘いたしました。
私が岩田さんの踊りを初めて見たのは、今から20年ほど前、日本で行われたローザンヌバレエコンクールででした。私も彼と同年代ですが、その時にはまだまだ若く、お世辞にも素晴らしい、とは言い難い印象がありました。ボリショイバレエ団に入団した、ということは知っておりましたが、今回NHKで放送されるまで彼がどれだけ人間として、バレエダンサーとして成熟していたのか全く知りませんでした。ボリショイに入団し、ファーストソリストとして活躍するまでに沢山の苦労と努力をされたのだと思いますが、人間はあれだけ変われるものなのだ、と岩田さんの生きざまが教えてくれたように思います。
同年代の一人として、私自身も自分を律し、周囲に感謝の気持ちを忘れず豊かに人生を歩んでいきたいです。
投稿日時:2008年12月18日 18:24 | sakuragi mariko
すみきちさんのブログですみきちさんのファンになりました。
その高い洞察力が素敵です。
話を聞く姿勢だけで
プロフェッショナルの方の魅力を引き出し、それを視聴者に伝える。
聞き役としてプロフェッショナルな仕事をしているように見えます。
是非、住吉美紀のプロフェッショナルを見てみたいです。
ちなみに茂木さんの学者っぽくない感じも好きです。
「脳を活かす勉強法」買っちゃいました!
投稿日時:2008年12月28日 22:15 | 和志

