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技術情報

 
高性能な液晶駆動用有機トランジスターの試作に成功
〜丸められる超薄型テレビの実現に向けて〜
(平成15年4月9日)


○ NHKは、将来、軽量で丸められる超薄型テレビとして有望なフィルム液晶高分子有機ELを駆動するための素子として有機トランジスターの研究を進めており、今回、低電圧で液晶を駆動する有機トランジスターの試作に成功しました。
○ これまでも有機トランジスターと液晶を一体に組み合わせて、有機トランジスターで液晶を駆動する試作例はありましたが、実際のディスプレイに応用するには駆動に必要な電圧が高いなどの難点がありました。

○ NHKでは、すでにタンタルという金属を用い、陽極酸化法という低温で絶縁膜を作製する技術を応用して、柔軟なプラスチック基板上で良好に動作する有機トランジスターの開発に成功し、その特性改善を進めてきました。

○ 今回は、これまでの作製技術を改良して、有機トランジスターの動作をより低電圧で実現するなど高性能化するとともに、液晶の表示部と有機トランジスターを分離する2層の保護膜を新たに開発して、有機トランジスターと液晶の一体型の素子を試作しました。

○ 今後は、プラスチック基板を用いて有機トランジスターと液晶の一体化を進め、さらなる特性改善を行い、多画素化を進めるとともにフレキシブルディスプレイへの応用を目指します。

試作した有機トランジスター駆動液晶セルの構造
試作した有機トランジスター駆動液晶セルの構造
  (実際には、トランジスター部は液晶表示部の1/25程度の面積)


(今回のデバイスの定量的性能)

○ 有機トランジスターの動作電圧
 今回の試作では、動作電圧3Vで有機トランジスターが動作することを確認しています。

○ 駆動電圧
 液晶ディスプレイでは、2枚のガラス板に挟まれた液晶に電圧を加えて、液晶分子の向きを変化させます。アクティブ駆動方式では、この液晶分子の向きの変化に必要な電圧と、トランジスターの制御に必要な電圧の和が駆動電圧となります。
 駆動電圧が大きいと絶縁破壊を起こしやすくなり、表示パネルの薄型化や回路部品の小型化の点で不利になります。また、モバイルディスプレイとする場合には、電源電圧が小さい方が望ましい。また、有機ELの場合は、駆動電圧の低減は省エネルギーの効果も大きいです。今回の試作では、駆動電圧11Vが得られており、従来の30〜60Vに比べて大幅な改善になっています。

(キーワードの説明)

○ 有機トランジスター
 フレキシブルディスプレイを実現するためには、駆動用トランジスターをプラスチックの基板上に作る必要があるので、室温程度で作製できるトランジスターが必要です。また、ディスプレイ材料だけでなく駆動用トランジスターにも柔軟性が求められます。これを実現する手段として、有機トランジスターが注目されています。

○ フィルム液晶:
 当所が開発したディスプレイ用の材料で、通常の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)が2枚のガラス板の間に液晶材料を入れて表示するのに対して、フィルム液晶では、ガラス板の代わりにプラスチックの板を用いるので、自由に曲げたりすることができます。プラスチックの板を曲げても液晶が潰れないような構造上の工夫がしてあります。

○ 高分子有機EL:
 電圧を加えるとそれ自身が発光するディスプレイ用材料です。応答速度が速く、材料自体が柔軟性に富み、発光する部分は非常に薄くてよい(100万分の1cm程度)ので、軽量・超薄型のフレキシブルディスプレイ用材料の候補として期待されています。当所では、この材料の高輝度・低消費電力化、長寿命化などの抜本的な課題に取組んでいます。(丸めることが難しい低分子有機ELは携帯電話などに製品化されています。)

○ タンタル:
 金属の一つですが、この金属を酸化して絶縁物とするとトランジスタ−用材料として有力な特性を示すので今回着目しました。

○ 陽極酸化法:
 金属やシリコンなどの表面を酸化する技術の一つです。室温に近い温度でできるため、プラスチックを用いた有機トランジスター用絶縁物(酸化物)作製に適しています。

○ アクティブ駆動方式、アクティブ駆動素子
 ブラウン管では、電子ビームで走査しながら画素を順番に瞬間的に光らせています。しかし、液晶や有機ELなどのディスプレイでは、明るさが足りないので、一つの画素をテレビの1フィールド(1周期)の間、光らせておく(発光を保持する)ことで明るさを確保します。このために、トランジスターでできたスイッチを画素毎に配置して、発光を保持します。この駆動方式をアクティブ駆動方式、このトランジスターをアクティブ駆動素子と呼びます。

○ PVA
 ポリビニルアルコールという材料名の略。液晶からの汚染を防止して有機トランジスターを保護する膜として形成しますが、これだけでは防止が不十分ですので、今回は、さらにその上に防止能力の強い紫外線で硬化する膜を設けています。



 











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