◆新しい地上デジタル放送用中継装置の開発
〜高品質で安価な放送ネットワークの実現へ〜
（平成14年11月18日）

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○ＮＨＫは、高品質で安価な放送ネットワークを実現するために、地上デジタル放送用の中継装置を新たに開発しました。これにより、通常は雑音の蓄積により信号劣化が累積するために伝送が困難な多段中継ルートでも、放送波中継が可能になります。

○地上デジタル放送の親局の放送所から中継放送局への伝送手段の一つとして、親局の放送波そのものを受信して再送信する放送波中継があります。放送波中継は低廉なネットワークを構成できますが、放送波の伝播中に生じる信号のひずみやノイズが多段中継によって蓄積されると伝送が困難になるという課題がありました。

○今回開発した中継装置は特性の劣化した受信信号から高品質の送信信号を再生することが可能です。中継局で受信した電波から信号の歪を取り除く等化機能と、ノイズで乱れた信号の“0”と“1”を判定してきれいに整形する判定機能を組み合わせることで、Ｃ／Ｎ比（1）が40ｄＢ以上に改善されました。

○これにより、通常は雑音の蓄積により信号劣化が累積するため伝送が困難な多段中継ルートにおいても放送波中継が可能になります。安定で高品質かつ低廉なネットワークの構築に役立つと期待されます。

○受信アンテナを複数（2本〜4本）使用するダイバーシティ受信機能（2）も備えているため、海上伝搬などでフェージング妨害（3）が避けられない中継ルートにも広く使用可能です。また、ケーブルテレビ局の設備やギャップフィラー としての利用も可能です。

○今後、この装置を活用して条件の厳しい長距離伝搬や多段中継での実証実験を進める予定です。ＮＨＫは低廉で安定した地上デジタル放送のネットワークの実現に向けて積極的に研究・開発を進めていきます。

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（1）	Ｃ／Ｎ比：信号の電力と雑音電力の比のこと。雑音の大きさを表し、値が大きいほど雑音が小さい。
（2）	ダイバーシティ受信機能：複数の受信アンテナで信号を受信し、特性が良くなるように信号を合成または切り替える機能。
（3）	フェージング妨害：海面への電波の反射状態が変わり、受信した信号の電力が変動すること。
（4）	ギャップフィラー：地形や構造物のために電波が届きにくい場所に設ける小規模の中継設備。

＜外観写真＞

筐体寸法：480（W）×150（H）×500（D）

＜入出力信号のスペクトル（室内実験）＞
・ 受信信号は、ＤＵ比6dB、遅延時間1マイクロ秒のマルチパス妨害を受けた地上デジタル放送信号
・ 送信信号は、マルチパスの歪と雑音を改善した地上デジタル放送信号

中継局の受信信号スペクトル		中継局の送信信号スペクトル

＜詳細な説明＞
地上デジタル放送中継用等化装置の原理は以下の通りです
1. 本装置では、系統図1に示すように地上デジタル放送の数千本の搬送波からなるOFDM信号を受信し、フーリエ変換を行い搬送波1本1本のキャリアデータを取り出します（A）。

2. OFDM信号中に挿入されているスキャッタードパイロット（SP）を抜き出し、それを利用してキャリアデータを等化します（B）。等化機能により信号の歪は補正されますが、ノイズ除去はされません。変調が64QAMならキャリアデータの信号点は、雑音のためそれぞれ64の信号点を中心に分布します。

3. 次に、等化したキャリアデータの信号点と最も近い信号点を送信信号点と判断するシンボル判定を行います（C）。この時、雑音成分が完全に除去されます。

4. 最後に、シンボル判定したキャリアデータをフーリエ逆変換し、信号特性を改善した送信信号が生成されます。

5. なお、装置の信号遅延は、おもにフーリエ変換とフーリエ逆変換によるもので、およそ数ミリ秒となります。このため、この装置は、周波数変換を行うMFNの中継局に最適です。

（A）フーリエ変換後	（B）等化後	（C）等化・判定後
図2　地上デジタル放送中継用等化装置による信号の改善の様子

（DU比6dB、遅延時間1μ秒のマルチパス妨害を受けた受信信号を改善する様子を系統図（A）、（B）、（C）の信号のコンスタレーションで示した。等化判定後は、送信信号と同じように雑音のない信号点配置となる。）