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会長 年頭挨拶要旨 2013/01/04
 
(松本会長)
 明けましておめでとうございます。新しい気持ちで新年を迎えたことと思います。

 昨年は、新しい3か年経営計画のスタートを切る年だった。公共放送の原点をふまえた骨太の門構えである経営計画の基本方針として「信頼される公共放送として、放送機能の強化と放送・サービスのさらなる充実を図り、豊かで安心できる社会の実現と新しい時代の文化の創造に貢献」という方針を掲げ、その行動理念として「公共」「信頼」「創造・未来」「改革・活力」という4本の柱を定めた。
 この経営方針や理念を、全局をあげて確実に実行し、視聴者の皆さまの期待に応える努力をしてきた。
 今年は、テレビ放送開始から60年を迎える。これを記念して様々な番組で、これまでテレビが果たしてきた役割とこれからの未来についてお伝えする。私たちも、様々な文化を発信し社会貢献を積み重ねてきた60年の重みをしっかりと受け止め、改めて高い志を持って次の時代にふさわしい放送サービスを切り開く「新しい出発の年」にしていきたいと思う。
 心に留めておくべき点について、4つほど触れておく。1つ目は「公共放送の原点に立脚し、NHKの総合力を結集する」ことだ。NHKが視聴者の皆さまからの信頼と受信料収入に支えられ、放送法の求める公共放送の目的や考え方という基本に立ち、経営計画に定める「4つの骨太の柱」に基づいて、一致して全局体制で整然と業務を遂行する、その構えが堅固な形で作られて初めて、使命と役割を果たすことができる。
 2つ目は「期待されるところにきちんと応える」ことだ。公共の福祉という大きな枠の中で、国民の安全・安心を守るため、いかなる災害時にも対応し、必要な情報提供を行う。日々のニュースや番組を通じて視聴者の皆さまの判断に資する素材や情報を、正確・迅速・公平・偏りなく提供する。質の高い「NHKならでは」の番組や、伝統芸能・各種イベントなど「NHKしかできないこと」をきちっとやる。営業活動においては「NHKらしい丁寧な対応」を続ける。まとめると「NHKブランド」を大切にするということだ。
 3つ目は、「公共放送の価値を最大に高める経営を行う」ことだ。「維持・充実プログラム」と「成長プログラム」の2つのプログラムを進めながら、一方で視聴者の皆さまの評価を受けてPDCAを回し、NHKの存在感そのものを確固たるものにしていく。
 4つ目は、NHKを支える「受信料制度を本当に大切にする」ということだ。受信料制度は「NHKの存在意義」と「視聴者の負担」というバランスの上に成り立っていることに留意し、「受信料の公平負担」を丁寧に進め、支払率の向上に努めていくことが重要だ。
 次に、今年どんなことに重点的に取り組むかを何点か述べたい。
 1つ目は、3か年経営計画の2年目となる今年、「前倒しして行える計画は、できる限り前倒しする」ということだ。例えば、安全・安心に関する施策では、去年8月に東海・東南海・南海地震の被害想定が見直されたことを踏まえ、設備の強化対象の拡大や体制整備など、公共放送の機能強化に早めの対応を行っていく。また、受信料値下げの影響で来年度は税込みで460億円の減収となり、47億円の赤字になると見込んでいた。これを経営努力、増収努力を前倒しすることで、早く収支均衡に近づけ、26年度には黒字が出るよう努力したい。大変厳しい目標だが経費削減や増収努力を行い、3か年で税込み810億円の受信料収入をリカバーする「プロジェクト810」を積極的に進め、営業部門はもとより、放送、技術、管理すべての部門を含めた「全員野球」で取り組んでいきたい。さらに東日本大震災をふまえて、渋谷の放送センターの機能を早く強化することが喫緊の課題になっている。前倒し努力により建設資金をできる限り早く多く積み立て、新放送センターの早期実現に結びつけたい。
 今年の取り組みの具体的な2点目は、「評価システムの活用を定着させる」ことだ。新しく取り入れた評価システムでは、例えば、公平・正確といった14の指標ごとに視聴者の皆さまの「期待度」とNHKの「実現度」を基本に、経営計画や基本方針の達成状況を測ることにしている。番組編成や予算編成は、3か年計画に示す価値観や方向性をもとに策定するが、新たなシステムによる評価結果を検証することで実現度をさらに高め、放送サービスの立ち位置が間違っていないか、NHKにとっての「座標軸」を確認していく。こうした考え方を組織の隅々にまで浸透させ、全役職員が価値観を共有しながらPDCAサイクルを回し、経営目標を確実に達成するために活用していく。
 3点目はNHKブランド、すなわち「NHKらしい番組作りに取り組む」ことだ。東日本大震災から間もなく2年になろうとしている。今年も復興に役立つニュースや番組、イベントをはじめ、被災地の方々を元気づける取り組みを行っていく。3月の震災2年のタイミングを中心にNHKスペシャルなどで震災関連の番組を集中的に編成するなど、震災や防災、被災地の今を伝える多角的な番組を編成する。新たな取り組みとしては「公開復興サポート」と題し、1月から2月に福島と仙台を舞台に大がかりな復興支援イベントを開催する。
 4月から始まる新年度の番組編成では、国内外の課題を伝える公正で正確なニュースや、家族で楽しみ考える番組、NHKの高い技術で撮影に挑む「大型シリーズ」、「文化」「芸術」「教養」分野の番組など、NHKらしく、質にこだわり、多彩な番組を届ける。全国の放送局は、地域の再生や活性化へ貢献するために、雇用、観光など、地域社会が抱える問題と向き合っていく。国際放送はニュース時間の拡大やコンテンツの充実などにより、日本への理解、国際発信力を高める。1月6日(日)からは大河ドラマ「八重の桜」が始まる。「日本を元気にしたい」という思いが込められている。朝ドラは日本の朝を楽しくする番組だ。大河ドラマと朝ドラはNHKの看板番組であり、多くの視聴者の皆さまに見ていただくことで期待に応えたい。「NHKらしい」「NHKだからできる」質の高い放送の提供に努め、その積み重ねで、民放とは異なる「NHKブランド」を、さらにしっかりと確立していきたい。
 取り組みの4点目は「新サービスへの取り組みを加速させる」ことで、そのひとつが放送と通信を連携させる「ハイブリッドキャスト」だ。サービスはまだ開発途上だが、放送に通信で提供される様々な関連情報を組み合わせて面白く分かりやすくしたり、双方向サービス・災害情報など公共放送の役割を豊かにする。このハイブリッドキャストの将来につながるサービスを、今年はいくつかの番組で試行的に行う。
 もう1つが「スーパーハイビジョン」だ。NHKはこれまで、2020年を目指して研究開発を進めてきたが、技術の進展や早期実現への要望をふまえ、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックに向けて、実用化試験放送を開始できないか、検討を進める。国内外の放送関係機関などとも連携し、実用化へのプロセスをにらんで内外の環境を整え、取り組みを進めていきたい。
 5点目は、「全体最適」をふまえた「安定的に循環する業務体制」だ。「全体最適」とは、将来にわたって公共放送の使命を果たすため、現在の業務を見直し、最適な経営資源の再配分を行うことだ。昭和55年以来、NHKは職員数を1万7千人から1万人あまりに約4割削減する一方で、衛星放送の開始や新しいサービス業務などで放送時間量はおよそ3倍になっている。そこで、現在の経営計画を着実に実行しながら、業務の内容や要員全体の配置がより適正になるよう検討している。それらを前提に全国のネットワーク機能を維持し、本部・拠点局・放送局の業務のあり方を整理し、最適化を図っていく。その中でさらに余力を生み出す努力をして、今後ますます予想されるデジタルサービスや通信との連携サービスの業務量増を吸収し、公共放送NHKの役割を将来に向かってきちんと果たしていく。これが「安定的な循環体制」ということだ。
 もう一点、「給与制度」についても触れておく。公的な組織に対する厳しい見方が広がる中、昨年春の24年度NHK予算の審議に際して、総務大臣意見や衆・参両院の総務委員会の附帯決議で、「給与等について説明責任を果たしていくこと」という文言が初めて盛り込まれた。職員一人ひとりが協会を取り巻く厳しい環境を理解し、受信料制度の重みを改めて認識しながら自らの手で改革を進め、努力した人は評価されるという、透明性の高い制度に見直していく必要がある。そして、視聴者・国民の皆さまに対する説明責任をしっかりと果たしていくことが重要だ。
 最後にNHKの歴史を振り返ると、NHKの経営は、放送の充実、そして技術の発展と受信料収入の増加により支えられてきた。ラジオから白黒テレビ、カラーテレビ、衛星放送、ハイビジョンと、NHKの技術開発と変化に対応する協会全体の努力が、放送の新たな魅力と役割を高め、日本だけでなく、世界の放送文化をリードする役割を果たしてきた。こうした歴史を積み重ねることができたのは、ひとえに視聴者の皆さまのNHKに対する信頼と受信料制度による支えがあったからだ。このことに感謝しなければならない。NHKがテレビの本放送を開始して60年。いわば還暦となる今年を、将来の公共放送の基礎をつくるためのスタートの年と定め、すべての役職員が一丸となって、さらに豊かな放送文化を創造していくという決意を申し上げて、年始のあいさつとしたい。  


 
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