第3回「デジタル時代のNHK懇談会」議事録

辻井座長  議論を続けたいと思いますが、今までは主にNHKに対する質問だったのですが、不公平感に二種類あって、払っている人の中での不公平感と、払っている人と払っていない人がいるという不公平感の問題があると思います。この間、永井委員もおっしゃったように、世帯契約の図にもあるような不公平感の解消についての積極的な提案があったら伺いたいと思います。

家本委員  第1回の時にも少しお話をしたのですが、大学生に限らないのですが、私もまだ大学生ですが、やはり若い世代の、とくに一人暮らしを始めたくらいの世代の、受信料の支払いの状況はあまりよくないのではないか。これはまわりの実感ですが。
 たとえば、例を申し上げると、携帯電話のau、KDDIさんが最初に学生向けの割引を半額でやった。基本料も全部半額でやった。あれは何がおもしろいかというと、最初に学生を取っておくと、その後、必ず社会人になってくれるので、そのままauを使ってくれれば、契約が引き継げる。これは、非常におもしろいアイデアだと思っています。
 要は、最初にクレジットカードなり口座振替なり、支払う習慣を付けさえすれば長くても4年間で社会人になってくれるわけですから、そのまま払ってくれる。そういう層になってくれる。次々にそれが生み出されていくというようなアイデアは生かせないのかということを感じています。
 逆に、1コインでやればとか、500円くらいであればとか、千円札一枚だけかもしれませんが、それぐらいであれば、たぶん学生も払えるのです。直ぐにはなかなかむずかしいかもしれないけれども、長い目で見たときに必ず、日本の人口の問題を考えても、取り込んでおく必要がある世代だというふうに思うので、そういうものは考えられる。今の現行の規則、ルールの中でできるのかどうか、ぜひ伺いたいと思います。

小林理事  今の学生割引は、ある意味で、受信規約上明確にすれば、要は総務大臣の認可を得れば、放送法まで変えなくても可能ではないかと思います。
 NHKの場合は、実は学生契約といっても結構母数が多いのです。ちょっと割り引けば少なからず減収が生じてしまうということと、家本委員が言われたように、先々NHKのシンパになっていただいてお払いをいただくことを思えば、どっちを選択するのかということがあると思います。そのこともまさに、先程の単身赴任の問題も含めて、どうしていけばいいのか。まさにこれから議論をしていただかないといけないと思っています。

家本委員  都心でもたぶんワンルームマンションが増えていたり、それから独り暮らしをする率がどんどん高くなっているような気がするのです。
 たとえば、最近、大学によってはクレジットカードを大学と提携して発行するとか。電子マネーを学生のうちに持たせようというので、私たちの大学も学生証と電子マネーをくっつけてしまおうと考えているようですが、そういうところが増えてきている。そういうものから払えるとか、500円をそのまま払うのは手間が大変なので、そういう支払い手段をうまく工夫すると、もっといいのかと思います。今の学生割引はそんなに割引率は高くないですね。

小林理事  クレジットカード、あるいはデビットカードがありますが、それもやっとNHKは始めたところです。まだ一時払いしか認めないということがありますが、これからさらに継続的に利用できるなど、クレジットカードを使いやすい方式にします。今後より一層便宜を図っていきたいと思います。

小林委員  今の話は、皮肉っぽく言うと、実際に学生さんの層に非常に不払いの人が多いとしたら、かなり増収になる可能性があるし、すごい減収になるかならないか。もともとのデータがわからない限りわかりませんね。本当はわかっておられるのですか。

小林理事  もちろん把握しています。

小林委員  そうすると、さっき言ったときに、もう少しデータがでてきてもよさそうな気がするのですが。

小林理事  通常の世帯契約率、80%にしますと、そんなに多くはないですが、実は学生さんは下宿アパートでも最大4年しかいないのです。常に出入りしている中で、契約取次ぎでお金をいただく手数料は単価が高いわけです。そういうこともあって苦慮しているところです。先日も橋本会長が京都の大学に行って講演会を開くとか、いろいろなタイアップ活動をしている中で、我々としてはけっこういただいているという認識はもっています。でもさっき申し上げたように基本的な問題がございますので、それはまた別途検討します。

吉岡委員  学生で受信料を払っていない人というのは、統計上では未契約世帯に入っているのですか。

小林理事  契約していない人は未契約です。

吉岡委員  この数字でいうと、853万の中に入っているという意味ですね。

小林理事  そういうことです。

永井委員  私も、学生の友人といっても10歳くらい年下ですが、何人か聞いてみるとほとんどの人が払っていないのです。「だって見ないもん」というのです。だいたい見るのは、と聞くと、民放8、6、4、10(チャンネル)という。「見ないものに払わなくてもいいじゃないですか」というのです。「この間の新潟県中越地震のときにどうした?」と聞いたら、「NHKを見ましたね」という。「見たのならNHKは必要ではない?」、「必要だけどいつ来るかわからない地震のためにお金を払いたくない」と。これはただの笑い話ではなくて、完全に彼女たち彼らというのは、番組対価でお金を払おうとしています。
 それは負担金という発想がまずない。家で受信料を払ってきて、突然独り暮らしを始めたからといって公共放送が何たるかというものがわからないのがあたりまえ。だとしたら、今の家本さんの意見はすばらしいなと思ったのは、まず公共放送が何たるかというのを、たとえば会長自らでも結構ですし、どなたか放送文化研究所の方ですとか、そういう方々がボランティアで大学で講義を持つとか、公共放送とは何かというのを、たとえば特別講座などを大学1年生のために、講義として持っていくのはいいことだと思います。
 ジャーナリズム論としても成り立つし、マスコミ論でもいいですし、そういうところから若い世代の人たちに知ってもらうことによって、将来クレジットカードを持つ人が増えるような発想と同じように広めていくことは可能だと思います。
 会長が番組対価ではないとおっしゃられたのは、たぶん地上波のことだけだと思われますが、そこの議論は、またここの会ではしていくことだと思いますけれども、その発想は今の若い人たちには全くないというところも、お知りになっていただいた方がいいかと思います。

橋本会長  今のお話にありましたように、先週、京都の大学の連合体の中で、社会学を専攻する学生向けの講座がありまして、NHK講座と銘打って、私が500人くらいの前で話をしました。その中でいろいろ意見もいただいて、すべての学生さんからアンケートをいただいて帰ってきたのです。
やはり基本的には、学生さんはこれまで、今も話にありましたように、ご家庭にいるときには親御さんが払っているものだから、自分が払うという概念はほとんどないわけです。
 自分のお金から払うという気持ちがほとんどない。一本立ちしている中でも、自分が何で払うのか、払わないといけないという気持ちは全くない。しかし、番組を見ることはある。それからNHKというものがそういうかたちで成り立っているというのは知らなかった。正直言って国営放送だと思っていたと。そういう中でNHKというのはそういう制度かということがわかったから、払う気持ちになったということもあります。
そういう面ではかなり肯定的な意見を寄せていただきました。850万件の中の僅かかもしれませんが、学生さん向けの開拓をやれば、この層をこれからつなぎ止められると思います。
 しかし、その場合に必要なのは、訪問してお金をいただくということだけではとても十分とは言えない。たとえば携帯電話というツールもあるわけで、そういうものの集金システムを活用させてもらうことができないかとか。IT技術や、インターネット契約とか。そういう学生さん向けの集金システムを考えないといけないと思っています。
 ただ、やはり今のアナログのテレビだと、なかなか捕そくはむずかしいので、IT技術が活用されるフルデジタルの時代には、携帯電話などとの連携はすごく重要になると思います。

梶原委員  これも不公平感の一つですが、いろいろな人と話をしていると、「おれは若い時から続けてNHKに受信料を払っているけれども、何もいいことないんだよね」とか、「何もNHKはくれないんだぞ」という声を聞くことがあります。車の保険は長期加入をしていると支払い額がだんだん安くなるように、NHKでも、長期間受信料を払い続けている人たち向けにファンサービスをやってもいいと思うのです。
たとえば、過去のいい番組のDVDとかビデオを差し上げますとか。あるいはNHKホールの公開番組に招待しますとか。何か目に見えるものを出してもらうといいのではないか。要するにまじめに営々とお金を払っていても、何も褒めてもらえない。これも不公平だと思う。何十年も払っている人にもっと目を向けてもいいのではないかと思いますね。NHKホールなんかどうですか、ちゃんと払った人しか入れないとか。

小林理事  実は、これまでNHKというのは聖人君子のように振る舞わないといけないという言われ方がありまして、契約していただいていない方、払っていただいていない方に対しても、ある種平等に扱わないといけないというものがありました。現実にNHKホールなどの公開番組の応募についても、払っている、契約していることと関係なく当落の葉書を差し上げていました。
 そういう中で、やはり梶原委員のご指摘のとおりでありまして、本当にきちっと支えていただいている方に対して何をやってきたのかという反省もございまして、これからは優遇サービスをやっていこうということで、いろいろな検討を進めています。
 端的にいえば、NHKホールの入場の話もそうですし、NHKアーカイブスの話もございましたが、たとえば、インターネットのブロードバンドが普及していますので、いながらにして受信料の領収書番号をもっている人は、アーカイブスに入れて無料でVODができる。それも場合によっては可能でありますので、そういったことを含めていろいろ多角的に検討しています。

藤井委員  受信料の徴収は、やはり世帯単位のままでいくのか、あるいは個人を単位にしていくのか。たしかに民法では家族制度が厳然とあって、これはしばらく変わりそうにありません。しかし現実は個に分かれつつある。だからたしかに現段階では世代単位というのでいいと思うのですが、家族が分かれてきているという流れの中で、そこにどうやってメスを入れるのかが重要になってきます。
 たとえば、いきなり個人単位というわけにはいかないので、選択制にしてはどうか。つまり世帯単位で支払いというこれまでの方式か、または個人単位で払うという方式を選ぶことができるようにする。トータルに計算して、どっちを選んでもNHKに入るお金は変わらないという図式を作った上でやってはどうか。
単身者の家も、相当に大きな家族の家もみんな一緒、あるいは事業所にしても、5人未満も、大事業所も一緒だと、何となく今の社会の大きな変化とフィットしていないように感じます。その辺の根本問題を考えないと具合が悪いのではないか。
いきなり世帯単位から個人単位へ変えるというのは無理にしても、いろいろと考えてみる必要があると思いますが、たとえば両方の選択制、あるいはハイブリット方式などはどうでしょうか。そうした検討・研究をしていく必要があるという問題提起をしておきます。

音委員  今までのお話をお聞きしていて、現行制度でいけるのか、それとも、たとえば、世帯単位から個人単位にというように制度を変えなくてはいけないのかという議論でいいますと、制度を変えるというのは、先程の短期、長期のような分類でいえば、ちょっと先の話だと考えるべきだと思います。それよりも先程の小林理事からご説明がございました、支払い再開理由ということで挙げられた項目の中で、1番目の「反省を促したであろう」というのが29%。それから「経営陣が変わった」という3位の12%。「体制が変わった」10%弱。これらは去年から今年にかけての不祥事の問題に対して、NHKの体制はある部分直ってきていると視聴者が見はじめたことに表れではないかと思います。
 気になったのは、2番目のところで、「担当者が熱心である」。つまり担当者が来てくれて、よく話をしたら今の制度に対してはポジティブな評価をして支払うようになったという項目です。これは逆の言い方をすると、説明が今まであまりなされていなかったのではないかとも取れるわけです。
 私がもっと気になりましたのは、「番組がよい」というが10%です。NHKの最大の商品は番組であって、いい番組を届けることが大事だと思うのです。よい番組が視聴者に届けられて、それが視聴者に評価される、先程の受信料を払うことによる対価としての満足感を視聴者が得られることが大切だと思うのです。それはひょっとすると自分が見ていないかもしれないけれども、いまの社会で放送されることが非常に意味がある番組、私たちの住む社会にとっていい番組だという意味も含めてです。そう考えると、「番組がよい」が、10%しかなかったというのは、問題だと思うのです。もっと「番組がんばれ」と言わなくてはいけないのではないかと思ったのです。
 あえてそのことを申し上げたのは、現行制度の中で、どこまで立ち直れるのかの見極めにつながると思います。私ももちろんマンションのロックの話なども十分わかっているつもりですが、その次のステップとして、長期的な流れの中で、その先の問題としてどう変革していくのか、議論をされなくてはいけないと思います。

山内(豊)委員  中身の違う質問を2つさせていただきたいと思います。制度改正は仮にやろうとしても時間がかかるというお話でしたが、実際問題として急速な技術革新、あるいは放送と通信の融合の世界という中で、携帯電話やパソコンでテレビを見る時代は、あっという間に来て、それが大半の世代に行き渡る。ものすごいスピードで個人に行き渡ると思います。
 そういう状況に対して、パンフレットにあるように、世帯単位でとか、あるいは契約種別とかで、そういうことに対応していけると、あるいは対応していくしかないと考えておられるのか。そういうことがあるから、やはり制度論も含めて検討を急がなければ対応できないと考えておられるのか。第一点として、そのことをお尋ねしたい。

橋本会長  これは最後の「参考」のところにありますように、「受信設備を設置した者は」ということがあります。受信設備というのは、広くいえば携帯電話であろうとパソコンであろうと、放送を受信できる設備であれば契約をしなければならないということですから、そこでいえば制度そのものは変えなくてもいいのではないか。もっと下のレベルで本当にテレビ受像機なのか携帯受信機向けのサービスなのか、運用上の仕訳はあろうかと思います。
 現行制度の中で、そこは私としては対応できるというふうに思って、しかし、実際にパソコンや携帯でご覧になっているお客さんをどう捕そくするのか。これが一番むずかしい問題で、したがって、そこは別のIT技術、個人認証の問題だとか、そういう手段がこういう伝送路の中に入ってくるかどうかということが、現実的に受信料が集まるかどうかの鍵になると思います。

山内(豊)委員  しかも、その対象となる人たちは若者を中心にした層だと思いますので、これは非常に大きな部分だと思います。

橋本会長 そうですね。

小林理事  世帯単位の契約ですと、家で一件契約していれば、家族が何人いても、テレビ付き携帯電話やテレビ付カーナビのある自動車を何台もっていても、全部一契約でいいわけです。ところが20代、30代の方の家での契約は、先程あったように確かに低く、そういう方は、これから外で携帯テレビをご覧いただく率が高くなってくるのではないかと思います。
 そうすると、会長が申し上げたように、どうやって契約をとるのだというところは非常に物理的な困難性があるものですから、努力の問題を抜きにしても、どうしてもそういうことは発生する。電車の中で、携帯でテレビを見ている人に、「あなた契約していますか」とは確認できません。いわばそういうことです。
 どうやっていくといいのか、新しい技術を活用したツールをもってやるのか。そこは大いに検討しないといけません。

橋本会長  この未契約の 853万をどう補そくするのか。これも引っ越しだとか、移動とか、使っている端末がどういうものかということも含めて、補そくできないというのが800万を越えるような数字になるわけです。これは今日的な時代としての問題になってくる。デジタルで、多様な端末がでてくる中で大変問題になってくると思います。

山内(豊)委員  そのことは、そこまでで結構です。もう一つは、また違う質問ですが、支払い拒否と保留の総数が累計で 117万にも達して、それによる減収が新聞報道にあるような額に上っている。予算で計上した収入予算と対比して、件数、金額とも倍以上、たぶん3倍くらいにいっているのではないかと思います。そういったレベルに達していると思います。
新聞をみますと、それに対してどう対応するかという部分があまり報道されていないのですが、せいぜい辞めた理事とか幹部の退職金を当面減らすとか払わないという部分だけクローズアップされています。やや目くらましで、そこのレベルまでいくと、やはり予算上の非常な困難をきたしているのだろうと思います。
 それに対しては、当面、経費節減でがんばる一方で、支払い拒否・保留の人たちには一生懸命働きかけて払っていただくようにするレベルで止まっているのかもしれませんが、実際は、経費節減で本当に対応できるのか。やはりNHKとしては公共放送の機能を維持・強化するためにがんばっていくうえで、そろそろ「このペースでいけば対応しきれなくなる」ということも率直に言わざるをえないという場面がくるのではないか。
 その時には、何をしなければいけないかを検討しなければならない時期がくるのではないかと思います。「経費削減をします」「今までやっていなかったんじゃないか」ということではなくて、「こういう問題があるのだ」と、視聴者に実態を語るべきだと思います。一人一人が支払い拒否を続けて量としてここまでくる。「公共放送としての機能が支障をきたすということだってあるのだ」ということを率直に語れば、開き直りではなくて、公共放送の機能を考えてもらうきっかけになると思います。そのへんは、あまり我慢しないで、率直に言わざるをえないときは言うべきだと思います。
 公共放送といっても、非常に範囲が広いですから、ベーシックな部分と、一部の人たちのためにサービスをしている部分とがあると思います。そのために非常に大きな金額を使っている部分もあると思います。たとえば、こういうものを止めることだって、検討対象になりうるということでもいいと思います。そういうことを提起するとリバウンドがあると思いますが。
やはり公共放送の機能を維持・拡充するとはどういうことか、自信をもってリアクション覚悟で言ってもらうことも必要ではないかと思います。経費節減、あるいは退職者の支払いを少し止めるとか。そういうことで本質的なところから逃げるような印象があると思います。

橋本会長  おっしゃるとおりでありまして、いずれかのときには、実は「新生プラン」の発表というのが一つのタイミングになってくると思います。構造改革ですが、具体的な番組制作力、あるいは番組の放送料、そういういろいろなパラメーター、放送業としての構造というのはあると思います。
 おっしゃるように、これまでは根本的なところに加えて、いわゆるオプション的なとでもいいますか、ある特別の目的をもって強化してきた、たとえば、字幕放送とか、ある特定層に対するサービス補強というものもありました。そういうところを一つ一つ点検して、構造改革をせざるをえないという状況であります。そういう構造改革にともなう要員のスリム化も必要になってくるということも考えております。改めてまた「新生プラン」の説明をして、ご意見をいただきたいと思っています。


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