第3回「デジタル時代のNHK懇談会」議事録

吉岡委員  昨年来のいろいろなことがあって、こういう調査をぜひしなければならないとお考えになったと思いますが、こういう調査をされて、どういう実感を持たれているかお伺いしたい。
調査をされて、これまでのNHKの受信料体系でやっていけるというふうに、現場で営業されている方は思われたのでしょうか。それともこのままではもうやっていけないかもしれないという、ある危機感を持たれたのかどうか。
それは不祥事に直接関わってそうなのか。あるいは不祥事に関わらず、たとえば、今まで世帯単位で行動をしていた、生活をしていた人々が、ライフスタイルの変化に伴ってどんどん個というものになっていったときに、今の受信料体系ではやっていけないと思ったからなのか。調査なさった中で実感として、皆さんがどのようにお感じになったのか伺いたいのですが。

小林理事  なかなかむずかしい答えになりますが、この不祥事が起こる前から、問題はなくて、受信料制度は未来永劫続くものという認識かどうか。まずそこから捉えていくと、現実には、なかなかむずかしい問題が年々広がりつつあるという認識はもっております。
 世帯単位で、しかも受信機を設置したら、必ず契約をいただき受信料をいただくという行為が、物理的にも非常に困難になってきています。端的にいえばロックマンション、あるいは単身の世帯が増えている。そういうところに実際に行ってお会いして、契約やお金をいただくことが、大変に困難度を増していることも事実でございます。そういった現実的な問題と、料金体系そのものを含めて、年々、困難度が増しているという認識をもっています。そのことがやはり契約率が若干下がってきているということにもつながってきていましたが、お蔭様で、いただくお金の方は年々増えていました。それが昨年度、初めて減収になったわけですが、そういう意味でも、この不祥事がそのことを倍加させたという認識はもっています。

吉岡委員  もう一つ、未契約世帯、853万というのがありますが、これは決して少なくない数字だと思います。不祥事以降の不払い世帯が100万を超えたというので、みなさん青くなっているわけですから。この未契約世帯のなかで、なぜ契約したくないのかという理由として、かつてのような世帯で動いていないとか、あるいは単身赴任をしていて、うちは実家の方で払っているから、ここで払いたくないということも含めて、いろいろあろうかと思います。この未契約世帯についてもう少し説明をしていただけますでしょうか。

小林理事  大半は、先程申し上げたように、引っ越しをされたとか、何度行ってもお会いできないとか、一時的に流動的な状態になっている世帯があります。統計上も引っ越しが非常に増えていることもありまして、ほとんどそういう方なのです。
 あとは、意思をもって契約しないという方もいらっしゃいます。これも50万件弱いると把握しておりますが、そういう方を除けば、現実に一時的なものです。一時的に引っ越しをされて空白になっている方も、決して悪意をもってやっているのではなくて、たまたま空白になってしまう、そういう方がここに計上されているので、どうしても一時的に数としては多くなるということです。

藤井委員  もともと、受信料の不払いという現象には深い原因があって、たまたま今度の不祥事はひとつのきっかけになったのにすぎないのではないか。と申しますのは世帯構造が変わってきたり、あるいはCSなどのように有料テレビ契約をしないと見ることができない放送が出てきたりと、社会の状況がどんどん変わっています。また、不払いというのは健康保険とか年金でも、相当数あります。
 だから、受信料不払いの問題は、そもそもずっと構造的に秘められていた問題で、たまたまポンと出てきたのではないでしょうか。
やはり不祥事問題が大きいのか、それとも大きな原因はほかの部分にあったのだということなのか。どのように考えていらっしゃいますか。

小林理事  先程も若干申し上げたことですが、今回の不祥事、あるいはその後の対応でいろいろお叱りを受けたということ以外にも、公共放送あるいは受信料制度をめぐる状況は、世の中との対比でいうとだんだん状況は厳しくなっている。これは日本だけはなくて諸外国もそうでありますが、日本の場合は、逆に一番うまくいっていたということであろうかと思います。
 ただし、特殊な負担金をいただく、という言葉を一つとっても、何となく曖昧に聞こえる。では見なければ払わなくていいのかという対価意識の高まりの中で、そういう要素が少しずつ、とくに若い世代に広がりつつあることは率直に認めざるをえないと思っています。

藤井委員  国民の収入全体が大変厳しくなっており、それから世帯、家庭構造も変わってきている。ずっとそれが原因として横たわっていて、今度の不祥事問題というのは引き金ではあったのだけども、別の問題だという認識なのか。それとも今度の問題は引き金ということで、大きな問題であり、これをきちっとえぐっていかないといけないという認識なのか。
両方入り交じっているかもしれませんが、NHKとして今度の問題の深い原因をどう考えているのか、そのあたりのご認識をもう一回伺いたい。

橋本会長  実際にこういう現象を見ているなかで、やはり私自身の受け止めとしましては、時代の推移のなかで、一つは、実際に面会しようとしても会えない状況があるという物理的な原因が一つ。もう一つは、こういうものに対する対価性の意識が高まって、お金を出して買う必要がないものには払わないというふうな感覚があろうかと思います。
 しかし、番組というのは物ではありませんので、実際に民放の放送にしても、NHKの放送にしても、NHKの場合には受信料、片や民放にはどこかでスポンサーがついて、商品を通じてお金を払っているわけですが、いわばあらためてお金を払わなくても見られる。
 民放の番組をよく見る層というのが広がってきているところから、やはりNHKの受信料そのものの性格が大変わかりにくくなっているのではないか。この2つの要因があると思います。
とくに最近顕著なのは、前者の、面会しようとしても会えない。オートロックマンション、それから単身赴任、あるいは共稼ぎでなかなか会えないという現象が顕著にでていると思います。
 これに対しては両面作戦があって、一つは、実際に受信料を頂く仕組みとして、確実に口座から頂く収納システムにいかにして乗っていただくかということが大事です。二つめは、民放はこういうシステムで、NHKはこういうシステムだという、この二元体制、NHKの受信料が何で成り立つのか、本当に皆さんとの結び付きによって、信頼関係の中の特殊な負担金と称している制度を、いかに再確認するか。この2つだと考えて、今回の「新生プラン」とか、これまでの「ふれあいミーティング」の活動とか、「電話作戦」とか、その2つをポイントとして作業を進めてもらっています。

江川委員  藤井さんのお答えに対しては、いろいろな不祥事よりもこういう社会現象とか、世代の問題だというふうにNHKとしては捉えていらっしゃるということですか。

橋本会長  不祥事というのはやはり引き金として、大変大きな問題だと思いますが、全体のロングスパンで考えたときの問題として、そういうふうに考えますということでありまして、不祥事がぜんぜん影響がないとは申し上げていません。

永井委員  NHKのさまざまな取り組みにより、6〜7月においては2.1万人の方が支払いを再開したということですが、さまざまな取り組みの中の、何が一番功を奏したか、結果として何かデータをお持ちなのか、それとも実感でおありになるのでしょうか。

小林理事  実感で申し上げますと、個別にご意見を聞くと、実は、我々の取り組み等と違う答えがいっぱいありまして、要するに「半年も支払いをやめてしまったので、そろそろ払っていいと思って払いました」とか。こういうことをやったから、それに対して答えるという方が、率は少ないものですから、いまは定性的に申し上げられませんが、取り組みで実感として得ているのは、実は7月の上旬から放送を通じまして、スポット的に、「NHKよ!」というスポット番組をやっていまして、瀬戸内寂聴さんはじめ、みなさん方にご登場をいただいてNHKに対する励ましやお叱りをいただいたりしているのですが、それと連動して、拒否している方に対して直接おじゃまして、いろいろなお話を聞きに行っているなかで、再開してもいいといっていただいた方が非常に多いという実感をもっています。
 そういう中では、我々としてもいろいろな改革の姿勢を少しは認めてもらっているのかもしれませんが、どちらかというと、今のところは「NHKの放送を見ていたら、払ってもいいんだ」というふうに思い直していただいた。先程のそういったいろいろなことでの、ある種、「懲らしめのために支払いを止めるのだ」という方もいらっしゃったのですが、そういう方が再開していただいた。それから営業の現場で、集金にあたる地域スタッフが何度もお邪魔するものですから、「そんなに何度も来るなら払う」と言っていただいた方も結構いらっしゃる。そういう雑感的なもので恐縮ですが、そういう実感を持っています。

永井委員  たぶんこの中のNHKのいくつかのアクションというのは、人の心に訴えかけて、それで払おうという方もいらっしゃると思いますし、ほとぼりも覚めたからそろそろ払おうという人もいらっしゃる、このまま鎮静化するとすれば、また払いだす人たちもたぶんいらっしゃると思います。増えてくるかもしれません。
 不祥事が今回のきっかけになって、不払いを多くしてしまったわけですが、今、会長がおっしゃられたように、長年受信料体系が持ってきた問題点はまだ引きずっているわけです。
 ここで、もし支払いを再開した人が、何かもっと別の理由があって、「やはりNHKというのは無かったら、見てなかったら困ったんだ」とか。「地震があったときに、NHKはどうしようかな、見ようかな、お金を払っていないけれども、やはりNHKは見るな」と思ったとか。皆さんがキャンペーンのように繰り返してこられた「ふれあいミーティング」などのアクションとは別に、もっとNHKの本質に関わるようなメリットを実感した人がいたのではないか。
 そういうデータをとるアンケートなり、任意になるとは思いますが、とってもいい機会ではないか。今まで、「何で不払いになったのですか」という方々のアンケートはちゃんと取ってあるのですけれども、「何で支払いを再開したのですか」という方のアンケートは、せっかくいいチャンスなのに取っていらっしゃらないのではないか。

小林理事  実は7月に、支払い再開された方の一部に、アンケート調査をさせていただきました。回答者が少なくあくまでも参考ですが、77名で複数回答、回答そのものは 124件の回答がありました。その内訳は、「反省を促すために、拒否したけれども一定期間経過したために、また払います」という方が29%いらっしゃいました。「担当者が熱心に来て説明するので払います」という方が20%くらい。これを合わせますと合計約5割近くはそういう方々でした。
それ以外には、「4月に経営陣が刷新された」ということでお支払いいただいた方が12%、あるいは「払うべきものと思いなおした」といっていただいている方が10%。「番組が良い、また見ているので払います」という方も10%くらい。あるいは「体質が変わった」というのが10%弱。あるいは「NHKはいろいろ改革の取り組みをやっていることを理解する」といった方も5%くらい。その他が8%、だいたいそのような分布が7月の段階では結果としてありました。

永井委員  もし可能であれば、支払いを再開した人たちに、なぜ再開したのか、もう少し詳しく、たとえば、やはりNHKを必要だと思い直したのは、なぜ、どの部分が評価されたのかというのを聞かないと、懇談会で話し合う一人一人の意見はとても大切だと思うのですが、身銭を切ってお金を払った人の意見はとても貴重だと思うし、その方にもきっと払わないところから払うに至るまでの紆余曲折はあると思うのです。
そういうものを細かく分析することによって、改革につなげていくことの方が建設的な改革ができるのではないかと思いました。
母数が少ないデータというのは、対外的に公表することはむずかしいと思うのですが、母数が少なくとも貴重なサンプルであれば、たとえば、「支払わなかったけれども支払う」というサンプルは、貴重なデータだと思うので、こういうクローズドな懇談会だったらそのデータは出していただいた方が、こういう成果がありましたということだけでも。今、意見が伺えてよかったと思います。

小林理事  貴重なご意見ですので、今回のこの調査はエリアを限っていますから、なるべく全国的に行って参りたいと思っています。
ただ、今回は回答率が1割程度で、調査の信憑性もありますから、まだ世間にお示しすることにはならないのですが、まさにおっしゃるとおりですので、これからどういうやり方がいいのかを含めて検討をしていきたいと思います。

橋本会長  今のデータは受信料収納に関わる対象だけで調査したデータですが、NHK放送文化研究所が5年ごとに「日本人とテレビ」という調査をやっているのですが、これはNHKだけではなくて民放も含めたデータです。たまたまNHKに対する非難が高まっている時期にやった調査なのですが、NHKの災害報道に対しては、5年前に比べてポイント数が上がっているのです。
 他の項目は、NHKに対する評価が下がっているのですが、ニュース報道系、とくに災害報道等についてはNHKが抜群の評価を受けております。
 大変厳しい非難の中でも、そういうジャンルでは信頼されているのだということを感じております。


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