青少年と放送に関する専門家会合 NHK information
 
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第1章「青少年と放送に関する専門家会合」取りまとめ
 
 
1 青少年向けの放送番組の充実
 
 放送は、映像と音声による多彩な表現力により、報道、教育、教養、芸術、娯楽等、あらゆる分野において、人々の理性と感性の両面に幅広い影響を与えている。人々の知識や理解力を高め、暮らしを豊かにし、情操を育み、青少年の健全な発達に貢献するなど、放送の果たすべき役割への期待は高い。なかでも、青少年の成長・発達に応じた良質な番組を提供することが期待されており、青少年が心をときめかせ感動するような番組に加え、広く社会への貢献を促すような番組等、幅広い人格形成に資する放送番組の提供が望まれる。
 こうした観点から、放送事業者としては、今後、青少年問題に正面から取り組み、(1)青少年向けの放送番組の充実、(2)青少年に役立つ番組の放送時間数の目標設定(週3時間以上)等により、放送の充実を図っていくこととする。
 これと同時に、それ以外の番組についても、青少年の健全な発達を阻害するような表現を取り除く努力をしていくことが望まれる。また、青少年向け放送番組の制作にあたっては、青少年の声を聴くことをはじめ、専門家の意見の反映、青少年番組専門スタッフの配置などを考慮していくことが望ましい。さらに、青少年が企画に参加し、自ら出演し、主張する番組を制作すべきとの提案も示された。
 放送番組の教育機関等における活用については、関係機関等との意見交換を図りつつ検討していく必要がある。


各機関における取組方針(概要)
【NHK】
・ 子どもたちが抱える悩みや問題に真正面から取り組み、繊細な感性を持つ青少年に夢と感動を与え、心を豊かにしていく番組を積極的に編成し、さらなる充実を図る。
・ 放送番組の学校等での有効活用に資するため、教育テレビの深夜の放送時間を延長し、「学校放送番組を集中編成するゾーン」を新設する。

【民放連】
・ 児童・青少年が好んで視聴する番組の中で、知識や理解力を高め、情操を豊かにする番組を、各民間放送事業者は少なくとも週3時間放送することとし、その番組名等を視聴者に対して明確化する。この点について民放連として周知徹底を図る。

【NHKと民放連】
・NHKと民放各社は共通のテーマで、青少年のための特集番組を制作・放送し、幅広く議論の素材を提供する。

 
 
2 メディア・リテラシーの向上
 
 青少年と放送の良好な関係を保つとともに、権利の主体としての青少年の自立した判断能力を高めるためには、メディアを選択し、主体的に読み解き、自己発信する能力、すなわちメディア・リテラシーが必要である。しかし、我が国において、メディア・リテラシーは、一般の人々にはあまり知られていないことから、まずはこれを身につけることの重要性について周知を図る必要がある。そのためには、放送事業者が率先して、テレビによる普及啓発活動に取り組むことが期待されている。
 こうしたことから、放送事業者としては、カナダをはじめとする諸外国のメディア・リテラシーへの取組を紹介する番組を放送するとともに、日本におけるメディア・リテラシー活動を推進する内容の番組を放送する。また、テレビの持つ機能や番組制作の様子を知ってもらうために、番組制作体験の場の提供や、学校に対してメディア・リテラシー関連のビデオの貸出し等を行うこととする。
 メディア・リテラシーについては、小学校、中学校等の学校教育のカリキュラム、さらには生涯学習等の社会教育のプログラムへの導入等、教育機関等との連携を図ることも重要である。
 こうした観点を踏まえ、行政としては、教育関係者、学識経験者、有識者、関係省庁等を構成員として、今年度、メディア・リテラシーに関する調査研究会を開催し、我が国におけるメディア・リテラシーの方向性、政府が果たすべき役割等について検討を行うこととする。


各機関における取組方針(概要)
【NHK】
・ メディアを学び、送り手と受け手の関係を理解するのに役立つ番組や海外のメディア・リテラシー活動に関する番組を放送する。
・ 学校向けビデオの貸出し、番組制作体験の場の提供等を実施する。

【民放連】
・ 児童・青少年が、テレビの持つ特性を把握し、内容を的確に理解する能力を身につけるとともに、自立した判断力を養うことのできる番組を制作・放送する。
・ (社)日本PTA全国協議会等の協力を得て、番組の幅広い活用を図る。

【郵政省】
・ メディア・リテラシーに関する調査研究会を今年度、開催する。構成員は、教育関係者、学識経験者、有識者、関係省庁等を予定。
 
 
3 青少年と放送に関する調査等の推進
 
 今後の青少年と放送をめぐる問題に適切に対応していく上で、青少年やその保護者へのアンケート調査等を通じて、青少年のテレビ視聴の実態、放送が青少年に及ぼす影響等の、青少年と放送に関する調査を継続的に実施することは必要不可欠である。青少年と放送に関する調査は、テーマが多岐にわたり、種々の専門技術的アプローチが必要であることから、大学、研究機関等の貢献が大いに期待されている。また、研究については、各分野の研究者が個別の研究を実施するだけではなく、相互に協力し合うことも重要である。さらに、調査内容によっては、定点観測的な手法によって、長期にわたる調査を実施することも必要と考えられる。
 青少年と放送に関する調査研究の蓄積の少ない我が国においては、まずは調査研究の充実を図ることが重要であり、放送事業者としても自らの研究機関等による調査の実施や、大学等の研究機関に対する支援を行うこととする。
 また、行政においても調査研究を研究機関等の協力により実施するとともに、諸外国の青少年対応策の動向等についても引き続き調査を行っていくこととする。


各機関における取組方針(概要)
【NHK】
・ テレビが子どもに与える影響等、子ども、青少年とメディアの関係について今後とも継続的に調査研究を実施する。
・ 大学や専門調査機関等における、青少年へのメディアの影響調査等の実施について協力する。

【民放連】
・ NHKと共に、放送業界として、3〜5年の長期にわたり、高度な調査を大学等に委託して実施する。
・ どのような放送番組、あるいはどのようなシーンが、実際に児童・青少年に対してどのような影響を与えるのか、という点について調査を実施する予定。

【郵政省】
・ 青少年と放送に関する調査について、大学等の研究機関等の協力を得て、実施する。
・ 諸外国の放送分野における青少年対応策の動向等について調査を実施する。
 
 
4 第三者機関等の活用
 
 放送文化の向上を図っていくためには、放送事業者と視聴者の相互作用が重要であり、視聴者の声と評価を番組に反映させる仕組みが必要である。今まで、こうした取組は主として各放送事業者に委ねられてきたが、今後は、より視聴者からアクセスしやすくするとともに、視聴者と放送事業者との信頼を深めるという観点から、放送事業者に共通の第三者機関を整備していくことが期待されている。第三者機関の整備に当たっては、既存の、番組内容の向上に資する「放送番組向上協議会」や権利救済のための「放送と人権等権利に関する委員会」を活用すべきとの意見と、新たな機関を設置すべきとの両方の意見があった。また、その設置に当たっては、放送事業者の自律を保持するという観点から、放送事業者が自主的に行うべきとの意見があった。
 こうした意見を踏まえ、放送事業者としては、既存機関のノウハウを活用し、早期の立ち上げを目指すため、放送番組向上協議会に新たに青少年と放送の問題を扱う委員会を設置することにより、視聴者からの番組に関する意見、提言や苦情の受付、議論、活動内容や放送事業者の対応等の公表を行うこととする。
 なお、委員会の機能、運営方法等の細部については、例えば放送事業者への勧告等、種々の意見が分かれたところであり、今後、有識者、保護者等の意見も聞きながら、放送事業者間で速やかにかつ十分に検討を行うこととする。
 一方、従来からある各放送事業者の放送番組審議会がさらに積極的役割を果たすことが期待される。


各機関における取組方針(概要)
【NHKと民放連】
・ NHKと民放連は、放送事業者の自主的な機関として、放送番組向上協議会に「青少年と放送委員会」(仮称)を新しく設置し、視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての役割を果たすことを目指す。
・ 委員会は、有識者、視聴者などで構成し、視聴者からの番組に関する意見や苦情を受け付け、必要に応じて議論し、活動内容や放送事業者の対応等を公表する予定。
・ 新しい委員会の発足にあたり、専門家会合終了後、速やかにNHKと民放連が主体となる「準備委員会」を発足させ、2000年4月の開始を目指す。

※放送番組向上協議会とは、放送倫理の高揚と放送文化の発展・向上に寄与することを目的に、昭和44年にNHKと民放連が共同で設立した放送界の自主的な機関であり、放送番組向上委員会(放送番組の問題点や在り方などについて定期的に討議する機能)の運営、視聴者の放送に対する意向の収集、シンポジウムの開催、各種の調査研究等を実施。
 
 
5 放送時間帯の配慮
 
 放送番組の編成に当たっては、放送が青少年に与える影響等を十分考慮に入れ、多くの青少年が視聴している時間帯に青少年向けの良質な番組等を積極的に放送することが期待される。逆に性的シーン、暴力的表現が好奇心をあおるなど、青少年に適当ではないと考えられる番組等は、青少年の視聴時間帯に放送を行うべきではなく、この点についての配慮が期待される。また、主要な諸外国においても、青少年に配慮すべき放送時間帯を設定しており、我が国においても同様の配慮を行うことは有意義と考えられる。
 一方、昨今の中学・高校生については、視聴時間帯が大人と大差ない実情にあり、さらにビデオ録画視聴も普及している状況から、時間帯の設定だけでは青少年の保護が十分ではなく、それ以外の時間帯へも各放送事業者が、十分に配慮していくことが求められる。
 こうした意見を踏まえ、NHKでは、放送番組の編成に当たり、青少年の視聴を望む良質な番組、心を豊かにする番組等については、より視聴しやすい時間帯に積極的に編成するなどの配慮を行うこととしている。また、民放連では、「青少年と放送に関する調査研究会」の提言を受けて、放送基準において「放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分配慮する。」という条文を既に追加したところであり、この基準を受けて、児童・青少年が安心して視聴できる具体的な時間帯として17時〜21時を定めることとする。
 ただし、その時間帯以外でも、例えば、青少年に不適切な表現を避けるなど、各放送事業者が策定している番組基準に従い、規範が緩むことがないよう、注意する必要があり、この点について、放送事業者が、十分に配慮していくことが期待される。


各機関における取組方針(概要)
【NHK】
・ 青少年が見やすい時間帯を意識し、積極的に青少年向けの良質な番組を編成する。(例:「少年少女アワー」として18時〜19時台を設定)

【民放連】
・ 民放連の放送基準において、「放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分配慮する。」(18条)という条文を追加し、暴力・性などに関する内容について、時間帯を配慮する旨、規定した。
・ さらに、具体的に青少年に配慮する時間帯17時〜21時を設定し、民放連として、民間放送事業者に周知徹底を図る。
 
 
6 番組に関する情報提供の充実
 
 放送、特にテレビは、国内、海外の情報を、視聴者に対して瞬時に送ることができる反面、青少年に好ましくない映像や音声も同じように視聴者に対して送ることが可能であることから、青少年が思いがけずこうした映像等にさらされることがある。こうしたことから、放送事業者には、視聴者に対して、放送番組の意図や内容に関する情報を番組の冒頭に表示したり、あるいは事前にメディアを活用して情報提供を実施することが期待されている。番組の冒頭の表示方法については、統一的なマークの表示が有効であるという意見もあったが、放送事業者の番組に対する評価を統一することや番組を画一的に分類することが直ちには困難であることから、現状においては、各放送事業者がそれぞれの判断により、自主的にメッセージの表示を行い、視聴者に対して、番組の趣旨を誤解のないよう正確に伝えることが適切であると考えられる。
 こうした意見を踏まえ、放送事業者としては、青少年には不適当と考えられるシーンが含まれる番組や、一方では青少年に積極的な視聴を望む番組については、番組の冒頭で伝えたり、広報番組、文字放送等を活用し、番組内容に関する情報を事前に提供することとする。また、それに合わせて、各放送事業者のインターネットのホームページ、あるいは新聞、雑誌、テレビ専門誌等の放送以外のメディアも活用して、番組内容に関する正確な情報を提供することとする。
 将来的にデジタル放送が導入された場合には、伝送できる情報が増加し、EPG(電子番組ガイド)等を活用することにより、より詳細な情報提供を行うことも可能となることから、EPGを活用した情報提供の在り方についても検討していく必要がある。


各機関における取組方針(概要)
【NHK】
・ 広報番組等を活用して、番組内容に関する情報を事前に提供する。
・ 新聞、週刊誌、テレビ専門誌等を積極的に活用するとともに、インターネット等で、番組情報の提供を充実する。

【民放連】
・ 画面上の文字表示や広報番組枠を活用して、必要に応じ、番組に関する情報を事前に提供する。 ・ インターネット、テレビ専門誌等において、より正確な番組内容を伝える。
・放送のデジタル化により、さらに詳細な番組内容の情報を提供することが可能となるため、この点についても今後検討する。
 
 
7 Vチップ
 
 「青少年と放送に関する調査研究会」においては、Vチップは、放送事業者と視聴者の番組に対する評価の尺度が調和していることが要請されるが、現状では、このような環境が醸成されているとは言い難く、まずは、今般の青少年対応策の実施状況、またデジタル技術の動向等を十分に踏まえ、引き続き検討を行う旨、提言が行われている。この提言にあるとおり、今般の青少年対応策の実施状況を十分に把握することが大切であり、その上で、デジタル技術の動向、諸外国の情報収集を含め、引き続き検討を行う。
 また、Vチップについては、放送業界においてのみならず、表現の自由の問題を含め多角的な見地から、様々な場において、国民的な議論の行われることが望ましいことと考えられる。

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