NHK INFORMATION
業務報告書


第1章 事業の概況



 日本放送協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的として、放送法に基づき設立された法人である。

 協会は、平成9年度の事業運営に当たり、景気の低迷など厳しい経営環境の下で、中長期経営方針を踏まえ、経営財源の確保を図るとともに、経営全般にわたる極力効率的な業務運営を推進し、事業計画の着実な遂行に努めた。

 業務の実施に当たっては、デジタル化、多チャンネル化の進展の下での公共放送としての役割を深く認識し、視聴者の期待と要望にこたえて、地上放送の充実刷新、衛星放送・ハイビジョン放送の充実と普及促進、委託協会国際放送業務(テレビジョン国際放送)の推進、新しい放送技術の開発研究など各部門の事業活動を積極的に進め、放送を通じて国民生活の充実と文化の向上に資するよう努めた。

 本年度における協会の業務運営の状況を概観すれば、次のとおりである。

(1) 国内放送

 地上放送では、テレビジョンにおいて総合放送及び教育放送、ラジオにおいて第1放送、第2放送、FM放送の計5波で放送を実施した。衛星放送では、第1テレビジョン(衛星第1放送)及び第2テレビジョン(衛星第2放送)の2波で放送を実施したほか、ハイビジョン放送の実用化試験放送を実施した。また、衛星第2放送で、テレビジョン放送の補完放送(テレビジョン補完放送)として字幕放送を開始した。

 放送番組の実施に当たっては、視聴者の意向を積極的に受け止め、公共放送の使命に徹し、公正な報道と多様で質の高い放送番組の提供に努めた。特に、内外の重要ニュースの放送に際しては、随時、ニュースの特設や時間延長を行ったほか、NHKスペシャル等の関連番組を集中的に実施し、正確かつ機動的な報道と問題点の解明に努めた。

 地上放送については、テレビジョンにおいて、総合放送で、深夜の放送時間を拡大し、日曜深夜を除いて24時間放送とした。また、平日午後6時台を各地域向けニュース・情報番組の時間帯として刷新するとともに、夜間及び土曜日午前の編成を刷新強化したほか、NHKスペシャル、クローズアップ現代等で国民に関心の高い内外の諸課題をタイムリーに取り上げ、集中的、機動的に放送するなど、放送番組の充実刷新を図った。教育放送では、時間帯ごとに特色のある編成を推進するとともに、文化・教養番組、福祉番組等の充実刷新を図った。ラジオにおいては、第1放送で、朝のニュース・情報番組、生活情報番組等の充実強化を図り、第2放送では、夜間の教養番組の充実を図った。地域放送については、テレビジョン及びラジオで、地域に密着したニュース、天気予報、教養番組等の充実に努めた。

 衛星放送については、衛星第1放送で、内外の多様な情報を伝える番組の充実を図るとともに、スポーツ番組の編成を強化した。衛星第2放送では、地上放送の難視聴解消に資する番組を編成するとともに、衛星独自番組の編成を強化した。

 ハイビジョン放送については、放送時間を週26時間拡大し、高画質・高音質の特性を生かした番組を編成した。

 なお、冬季オリンピック・長野大会に際し、競技中継等を集中的、多角的に放送したほか、冬季パラリンピック・長野大会に際し、競技の模様を伝える番組等を放送した。
 放送時間(1日平均)はテレビジョンで、総合放送23時間11分、教育放送18時間21分、衛星第1放送23時間45分、衛星第2放送23時間39分、ハイビジョン放送10時間35分、ラジオで、第1放送23時間34分、第2放送18時間30分、FM放送19時間31分であった。

 テレビジョン音声多重放送として実施してきたステレオ放送、2か国語放送、解説放送及びテレビジョン文字多重放送として実施してきた字幕放送については、放送法の改正に伴い、10月以降、それぞれ、テレビジョン補完放送(音声)及びテレビジョン補完放送(文字)として実施した。テレビジョン補完放送(音声)については、テレビジョン各波で実施し、衛星放送及びハイビジョン放送では、一部番組を高音質のBモードステレオ放送により実施した。解説放送では、視覚障害者向けの番組を実施した。テレビジョン補完放送(文字)については、総合放送及び衛星第2放送で、聴覚障害者向けの字幕放送を実施した。

 テレビジョン文字多重放送については、ニュース、番組ガイド等を、FM文字多重放送については、ニュース、気象情報等を放送した。

 放送番組の編集に当たっては、番組基準に準拠するとともに、放送番組審議会等の意向を尊重し、あわせて、世論調査結果、モニター報告等を通じて視聴者の意向を的確に受け止めるよう努めた。放送番組の考査についても、番組基準にのっとり厳正に行った。放送倫理と人権については、研修等を通じて放送人としての認識の徹底を図った。また放送番組に関する視聴者からの重大な苦情の審理等を行う「放送と人権等権利に関する委員会機構」を社団法人日本民間放送連盟と共同で設立した。

 テレビ東京等で放送されたアニメーション番組の一部視聴者が体調に異常を来した問題を契機に、「アニメーション問題等検討プロジェクト」を本部に設けるとともに、日本民間放送連盟と共同で検討会を設置し、アニメーション番組等の映像が視覚機能に与える問題や再発防止のための措置について調査・検討を進めた。

(2) 国際放送

 テレビジョン国際放送については、北米向けに1日平均5時間37分、東部を除く欧州向けに1日平均4時間30分の放送を日本語及び英語で実施した。放送番組については、ニュース・報道番組を中心に国内放送番組から抜粋して編成したほか、テレビジョン国際放送独自の番組を編成した。

 音声による国際放送(ラジオ国際放送)については、放送法に基づく国際放送実施命令によるものと一体として、1日65時間(一般向け放送31時間、地域向け放送34時間)の放送を22の言語により実施した。放送番組については、報道番組、インフォメーション番組等の充実刷新を図り、流動する内外情勢についての迅速、的確な報道と日本及び日本人に対する理解の促進に役立つ番組の実施に努めた。

 ラジオ国際放送の受信状況の改善を図るため、ガボン・モヤビ送信所等7か所からの海外中継放送を実施した。

(3) 放送番組の国際交流

 放送番組の国際交流を積極的に推進し、海外への番組提供のほか、放送番組の共同制作や交換を行った。

 衛星伝送による番組提供については、伝送時間を拡大し、アジア・太平洋、中南米地域等の放送事業者等に対して提供を行った。

(4) 調査研究

 放送番組及び放送技術の両分野にわたって調査研究活動を推進し、放送番組については、テレビジョン・ラジオ番組の視聴率調査をはじめとする各種世論調査を行ったほか、国際化時代における放送等に関する調査研究を進めた。放送技術については、デジタル放送、ハイビジョン放送、放送衛星の高度利用の研究等を進めた。

 調査研究の成果は、放送の実施等に当たり活用したほか、広く一般の利用に供するよう努めた。また、外部に対し、各種の技術協力を行った。

(5) 営業活動

 衛星契約をはじめとする放送受信契約の維持増加と受信料収納の安定的な確保に努めた。特に、衛星放送については、受信の普及と契約締結の促進のための諸施策を積極的に実施した。営業活動の推進に当たっては、口座振替等の間接集金を一層促進するなど、効果的、効率的な業務運営に努めた。

 年度末における、放送受信契約件数は、カラー契約2,676万(有料契約は2,583万)、普通契約73万(有料契約は65万)、衛星契約879万(有料契約は876万)、契約総数3,628万(有料契約は3,524万)であった。年度内の衛星契約の増加は62万(有料契約は62万)、契約総数の増加は46万(有料契約は45万)であった。

 このほか、高層建築物等による受信障害の予測、調査、改善方法の技術指導をはじめ、受信の普及と受信環境の維持・改善のための諸活動を推進した。

(6) 視聴者関係諸活動

 視聴者との結び付きを一層強化するため、視聴者関係業務を総合的に推進した。
 広報活動として、広報番組や視聴者との交流・ふれあい活動等を実施して、事業活動の現状、受信料制度等についての理解促進と放送番組の視聴促進に努めたほか、衛星放送及びハイビジョン放送の周知を行った。また、決算の官報掲載等を行うとともに、インターネットを利用した経営情報の提供を行うなど、経営内容の公開を積極的に進めた。
 対話・広聴活動として、視聴者会議、視聴者懇談会の開催や視聴者センター等における対応を通じて、視聴者の意向を積極的に受け止め、業務に反映するよう努めた。

 さらに、番組公開等を全国各地で実施したほか、放送番組の利用促進のための諸活動を推進した。

(7) 放送設備の建設及び運用

 放送衛星3号(BS−3)の後継機(BSAT−1)については、4月打ち上げられたBSAT−1aを、8月、静止衛星軌道上で引き取り、衛星第1テレビジョン放送局、衛星第2テレビジョン放送局等の運用をBS−3aから、高精細度テレビジョン放送実用化試験局等の運用をBS−3bから、それぞれ切り換えた。

 地上放送網の整備については、テレビジョンで、補完的な置局として、総合放送、教育放送各1局を開設し、ラジオで、第1放送2局、FM放送2局を開設した。

 また、良質な放送を確保するため、放送設備の改善及び老朽設備の更新整備を進めた。

 放送会館等については、長野放送会館及び大分放送会館の建築工事を取り進めたほか、大阪放送会館の建築工事に着手し、放送技術研究所の整備のための諸準備を取り進めた。

 年度末において、テレビジョンは、総合放送3,478局、教育放送3,403局、衛星第1放送、衛星第2放送各1局、高精細度テレビジョン放送実用化試験局1局、ラジオは、第1放送210局、第2放送140局、FM放送518局を運用した。

(8) 業務組織・職員

 会長川口幹夫は、任期満了により退任し、新たに副会長海老沢勝二が会長に任命された。

 組織・業務体制の見直し、時短・業務改革の推進、関連団体との効果的な連携など業務全般にわたって合理的、効率的な運営に努めた。また、会長以下の役員で構成する“改革と実行”委員会を設置し、業務改革の一層の推進を図った。

 組織については、デジタル放送推進室の設置、広報室業務体制の整備、衛星放送局業務体制の再編成等の改正を行った。

 要員については、一層コンパクトな体制を目指し、業務の集約・再編成を実施するとともに、関連団体の活用等の施策により、97人の純減を行った。

(9) 財政の状況

 受信料をはじめとする収入の確保に努めるとともに、経費節減の徹底を図った。
 収支(一般勘定)については、事業収入は6,129億円で、予算に対し19億円の増収、事業支出は6,036億円で、73億円の予算残となり、事業収支差金は、事業収入・事業支出同額の収支均衡予算に対し、93億円の改善となった。この事業収支差金は、翌年度以降の財政安定のため、使用を繰り延べることとした。年度末における財政安定のための繰越金は456億円となった。

(10) 関連団体との連携

 協会の関連団体は29団体であった。協会は、効果的、効率的な業務運営を推進するとともに、公共放送にふさわしい多様で質の高いサービスを確保し、あわせて副次収入の確保に資するため、関連団体への業務委託を進めたほか、関連団体との連携の下に、放送番組の多角的活用等の関連事業の節度ある推進に努めた。

(11) デジタル時代へのNHKビジョン

 7年1月に策定した中長期経営方針をデジタル化の進展等のメディア状況の変化を踏まえて見直し、10年1月、10年度以降の事業運営の指針として、デジタル時代へのNHKビジョンを策定し、公表した。

 なお、平成10年度における事業運営の重点は、次のとおりである。

 1. 地上放送の充実(ニュース・情報番組の拡充、テレビジョン教育放送の充実刷新等)
 2. 衛星放送の充実
 3. ハイビジョン放送の充実強化と普及促進
 4. 海外への情報発信の拡充
 5. 視聴者との結び付きの強化
 6. 効果的、効率的な営業活動の展開
 7. デジタル放送技術など放送の発展を図るための調査研究の推進
 8. 業務改革による効率的な業務運営の推進


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