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業務報告書


第7章 放送技術の研究



1 主な研究とその成果

 (1) ハイビジョン放送の研究

 高輝度・長寿命の放電型42インチ平面ディスプレイを試作したほか、薄型で小型の高音質スピーカーを開発するなど、家庭用の大画面ハイビジョン壁掛けテレビの実用化を目指した研究を進めた。

 また、ハイビジョン番組の多様化、高度化に対応し、機動性に富んだ番組制作を可能とするワイヤレスカメラを開発するとともに、カメラ一体型VTRの開発を進めた。

 (2) デジタル放送の研究

 デジタルハイビジョンの研究では、高画質を保ちながらデジタル信号を圧縮するデジタル圧縮方式の研究を進めた。

 また、デジタルハイビジョンを中核に多彩な放送サービスを実現する統合デジタル放送(ISDB)の研究として、多重技術、伝送技術、利用技術等の研究を進めた。

 ISDBの衛星放送における多重技術については、1中継器で放送される複数のサービスグループをそれぞれ別個に識別できる多重方式の研究を進めた。伝送技術については、降雨減衰時にも安定した受信を可能とするための映像信号をハイビジョン映像信号に併せて伝送する階層化伝送方式の研究を進め、降雨減衰時の画像評価を実施するとともに、伝送方法等を柔軟に選択して番組内容に応じた伝送方式を示すモード制御方式について検討するなど、伝送路の信頼性の向上を目指した符号化方式、変調方式等の研究を進めた。

 ISDBの地上放送における伝送技術については、移動受信実験を行うなど、移動体に適した変調方式や周波数を有効に活用するための帯域分割方式の研究を進めた。

 ISDBの利用技術については、サービスイメージの検討を続けたほか、放送におけるマルチメディア機能の実現に向けて、データの符号化方式、番組情報を選択するメニュー画面の表示方式などテレビの高機能化の研究を進め、その一環として、「統合サービス型テレビ」のシミュレーション装置を試作した。

 (3) 放送衛星の高度利用の研究

 2.6GHz周波数帯での移動体向けデジタル音声放送・データ放送について、衛星搭載用の中継器及び楕円ビームアンテナの研究を進めた。

 また、将来の21GHz周波数帯の利用に備え、降雨による電波の減衰量に応じて放射電力を増減させる放射電力可変型放送衛星システムについての研究を進めた。
 このほか、12GHz周波数帯について国際的なチャンネルプランの見直しに備え、効率的な周波数配分のための研究を進めた。

 (4) データ多重放送の研究

 高速移動中でも安定した受信が可能な地上データ多重放送の実用化に向けた検討を進め、社団法人電波産業会におけるシステム詳細規定の策定に資した。

 (5) 放送番組充実のための研究

 番組制作技術の研究では、コンピューター技術や画像処理技術を用いて、多様な映像ソフトを効率的に制作するデスクトッププログラムプロダクションシステムの研究として、番組の企画から編集までの作業をコンピューターを利用して行うことにより番組に関する情報を一元的に管理する番組制作システムや撮影・編集等の自動化を可能とする映像制作システムについての検討を進めた。映像素材の柔軟で効率的な編集を可能とするノンリニア編集については、高画質の映像信号を圧縮せずに記録するビデオハードディスク装置を試作した。また、スキーのジャンプ競技の中継で選手の軌跡を表示する装置の開発を進めるとともに、スケート競技で氷の中を伝わる音を高感度で集音する氷中マイクロホンを開発した。このほか、ハイビジョンの4倍の画素数を持つ超高精細カメラの開発を進めた。

 番組素材の伝送に関する研究では、船舶等移動体から高画質で安定した映像・音声を送信する平面アンテナ移動体SNG装置を開発した。

 撮像デバイスの研究では、星明かりの下でも撮影可能な超高感度カメラ用の新スーパーHARP撮像管の耐熱性改善の研究を進めた。

 音響関係の研究では、スタジオの中の音響環境をより臨場感の高いものとするサウンドバーチャルスタジオを開発した。また、話速変換システムについては、背景音のある音声に対して話速変換を可能とするとともに、一層の高品質化と小型化を進めた。

 (6) 放送技術発展のための基礎研究

 視聴覚の特性及びその情報処理機能の研究では、将来の立体映像・音声システムの構築を目指し、立体画像の撮影・表示方式、音像の遠近感を自在に制御する立体音響システムの研究を進めた。また、「人に優しい放送」を目指し、目の疲労の測定や読みやすい字幕表示の方法など、人間の特性に合致した文字や映像の表示方法の研究を進めた。
 新しい材料・素子の研究では、次世代の投射型ディスプレイへの適用を目指した空間光変調素子及び将来の超薄型平面ディスプレイへの適用を目指した電場発光素子の研究を進め、電場発光素子については色純度の優れた青色発光材料の製作法を改善し、輝度の向上を図った。

 記録の研究では、超高密度記録を目指し、垂直磁気記録用の8mmテープとデジタルVTRの性能を向上させるなど、垂直磁気記録や光記録の研究を進めた。

 このほか、将来の広帯域伝送技術を開発するためのコヒーレント光伝送の研究を進めた。また、英日及び日英の自動翻訳システムの研究を進めたほか、ニュース音声の字幕の自動作成を目指した音声認識及び自動要約の研究を進めた。さらに、受信端末操作を容易にすることを目的として、利用者の好みに応じて自動的に番組を選択する機能の研究を進めた。

2 技術協力

 外部に対する技術協力は、前年度から継続したもの8件、新たに実施したもの12件の合計20件について行った。これらのうち主なものは、放送衛星関連技術、デジタル伝送技術、放電型平面ディスプレイ技術、液晶光変調素子応用技術であった。

3 特許権等の取得、外部への実施許諾

 本年度新たに取得した特許権及び実用新案権は301件であり、年度末における保有総数は1,343件となった。

 外部に対する実施許諾は、前年度から継続したもの121件、新たに許諾したもの26件、合計147件について行った。これらのうち主なものは、ハイビジョン受信機、HARP方式撮像管、デジタルVTR、FM多重放送受信機であった。

4 放送技術研究委員会

 重要な研究の方針及び運営上の諸問題については、部外学識経験者によって構成される放送技術研究委員会において審議した。

5 研究成果の公表等

 研究の成果は、放送番組の制作等に当たり活用するとともに、外部に対する技術移転により、放送技術及び電子産業技術の向上に寄与したほか、「NHK技研R&D」等を通じて公表した。

 また、関係学会の会誌や専門技術誌への寄稿、関係学会の研究集会での発表、各種団体や専門委員会への参画、研究所の公開等により、研究成果の周知及び公開を図った。
 なお、放送技術に関連する分野を研究している他の研究機関等との共同研究を実施しその成果を放送技術の研究に反映させた。


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