NHK INFORMATION
業務報告書


 

第1章 事業の概況


 日本放送協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的として、放送法に基づき設立された法人である。
 協会は、平成12年度の事業運営にあたり、景気の停滞が続く極めて厳しい経営環境の下で、「デジタル時代へのNHKビジョン」を踏まえ、経営財源の確保と業務全般にわたる効率的な運営にいっそう努め、財政の安定を図りつつ、事業計画の着実な遂行に努めた。
 業務の実施にあたっては、デジタル化の進展の下で、視聴者の負担する受信料によって支えられる公共放送の使命と責任を深く認識し、視聴者の信頼と要望にこたえて、地上放送の充実刷新、ハイビジョン放送をはじめとする衛星放送の充実と普及促進、映像による委託協会国際放送業務としてのテレビジョン国際放送の充実、新しい放送技術の開発研究など各部門の事業活動を積極的に進め、放送を通じて国民生活の充実と文化の向上に資するよう努めた。なお、新たに委託国内放送業務として、デジタル方式による衛星放送(衛星デジタル放送)を開始した。
 本年度における協会の業務運営の状況を概観すれば、次のとおりである。


(1) 国内放送
 地上放送では、テレビジョンにおいて総合放送及び教育放送、ラジオにおいて第1放送、第2放送、FM放送の計5波で放送を実施した。衛星放送では、アナログ方式による第1テレビジョン(衛星第1放送)及び第2テレビジョン(衛星第2放送)を実施するとともに、12月、衛星デジタル放送として、新たにハイビジョン放送(デジタル)を開始したほか、衛星第1放送及び衛星第2放送と同時同内容の放送(サイマル放送)を実施した。なお、アナログ方式によるハイビジョン放送については、11月、実用化試験放送を終了し、12月、新たにデジタル方式の放送へ円滑に移行するための放送を開始した。
 放送番組の実施にあたっては、視聴者の意向を積極的に受け止め、公共放送の使命に徹し、公正な報道と多様で質の高い放送番組の提供に努めた。特に、内外の重要ニュースの放送に際しては、随時、ニュースの特設や時間延長を行ったほか、関連番組を集中的に実施し、正確かつ機動的な報道と問題点の解明に努めた。
 地上放送については、テレビジョンにおいて、総合放送で、平日夜間の編成を大幅に刷新するとともに、週末編成を刷新強化したほか、NHKスペシャル、クローズアップ現代等で視聴者に関心の高い内外の諸課題を集中的、機動的に放送するなど、放送番組の充実刷新を図った。教育放送では、放送時間を拡大し、日曜深夜を除いて24時間放送としたほか、土曜日夜間の編成を刷新するとともに、教育番組、学校放送番組、福祉番組の充実刷新を図った。ラジオにおいては、第1放送で、平日夜間のニュース・情報番組の充実強化を図った。第2放送では、教養番組、語学講座番組等の充実を図るとともに、10月、深夜の放送時間を拡大し、月曜及び日曜深夜を除いて1日20時間放送とした。FM放送では、音楽番組の充実を図った。地域放送については、テレビジョン総合放送において、平日午後5時台の各県向けの放送を拡充するなど、テレビジョン及びラジオで、地域に密着したニュース、気象情報、教養番組等の充実に努めた。
 衛星放送については、衛星第1放送で、内外の動きを多角的に伝える番組やスポーツ番組の拡充等を図った。衛星第2放送では、地上放送の難視聴解消に資する番組を編成するとともに、平日夜間の編成を刷新するなど、衛星独自番組の充実を図った。ハイビジョン放送(デジタル)では、高画質、高音質、高機能の特性を生かした普及に資する番組を編成した。なお、衛星第1放送及び衛星第2放送のサイマル放送を、衛星デジタル放送において実施するとともに、ハイビジョン放送(デジタル)のサイマル放送を、デジタル方式の放送へ円滑に移行するための放送において実施した。
 テレビジョン放送の音声による補完放送については、ステレオ放送、2か国語放送、解説放送をテレビジョン各波の一部番組で実施し、衛星放送では、一部番組を高音質のBモードステレオ放送により実施した。解説放送では、視覚障害者向けの番組を実施した。テレビジョン放送の文字・データ等による補完放送については、字幕放送、文字放送、データ放送を実施した。字幕放送では、総合放送、教育放送、衛星第2放送、ハイビジョン放送(デジタル)で聴覚障害者向けの字幕サービスを実施した。データ放送では、衛星デジタル放送において、ニュース、気象情報等を実施した。FM放送の文字による補完放送(FM文字放送)については、6項目の番組を実施した。
 これらの補完放送のほか、衛星デジタル放送において、その全番組を一覧できる番組ガイドを実施した。
 放送時間(1日平均)は、テレビジョンで、総合放送24時間00分、教育放送23時間39分、衛星第1放送23時間59分、衛星第2放送23時間59分、ハイビジョン放送(デジタル)23時間57分、ラジオで、第1放送24時間00分、第2放送19時間2分、FM放送23時間50分であった。
 放送番組の編集にあたっては、国内番組基準に準拠するとともに、放送番組審議会等の意向を尊重し、あわせて、世論調査結果、モニターによる番組評価等を通じて視聴者の意向を的確に受け止めるよう努めた。放送番組の考査についても、国内番組基準にのっとり厳正に行った。
 また、4月、青少年向け番組のいっそうの向上に寄与するため、「放送と青少年に関する委員会」を、日本民間放送連盟と共同で設置し、その運営に協力した。
 なお、12月、衛星デジタル放送のデータ放送で実施したニュースの一部等を二次利用してインターネットホームページに掲載し、一般への提供を開始した。


(2) 国際放送
 テレビジョン国際放送については、衛星を利用して、世界のほぼ全地域に向けた同一の番組編成による放送として、1日平均23時間59分の放送を日本語及び英語により実施した。また、受信が容易で、現地の生活時間に合わせた番組編成の放送として、北米向けに1日平均7時間8分、欧州向けに1日平均6時間33分の放送を日本語及び英語により実施した。放送番組については、ニュース・報道番組を中心に国内放送番組から抜粋して編成したほか、テレビジョン国際放送独自の番組を編成した。
 音声による国際放送としてのラジオ国際放送については、放送法に基づく国際放送実施命令によるものと一体として、全世界の17の放送区域に向け、1日65時間(一般向け放送31時間、地域向け放送34時間)の放送を22の言語により、短波放送で実施し た。放送番組については、報道番組、インフォメーション番組、娯楽番組の充実刷新を図り、流動する内外情勢についての迅速、的確な報道と日本及び日本人に対する理解の促進に役立つ番組等の実施に努めた。
 ラジオ国際放送の受信状況の改善を図るため、ガボン・モヤビ送信所等7か所からの海外中継放送を実施した。
 また、前年度に引き続き、ラジオ国際放送のニュース(22言語)及び情報番組のインターネットによる提供の試行により、調査研究を行った。


(3) 放送番組の国際交流
 放送番組の国際交流を積極的に推進し、海外への番組提供のほか、放送番組の共同制作や交換を行った。
 衛星伝送による番組提供については、ほぼ全世界をカバーする回線網を利用して、1日24時間の配信により、アジア・太平洋、南北アメリカ等の放送事業者等に対して行った。


(4) 調査研究
 放送番組及び放送技術の両分野にわたって調査研究活動を推進し、放送番組については、テレビジョン・ラジオ番組の視聴率調査や国民生活時間調査をはじめとする各種世論調査を行ったほか、放送の公共性等に関する調査研究を進めた。放送技術については、統合デジタル放送の高度化の研究、人にやさしい情報バリアフリー技術の研究等を進めた。
 調査研究の成果は、放送の実施等にあたり活用したほか、広く一般の利用に供するよう努めた。また、外部に対し、各種の技術協力を行った。
 社会の発展と文化の創造に大きな役割を果たしてきた放送の歴史を「20世紀放送史」として編集し、刊行した。


(5) 営業活動
 衛星契約締結の促進を重点に諸施策を展開し、放送受信契約の増加と受信料の確実な収納に努めた。特に、衛星放送については、普及促進活動を実施するとともに、公開番組等と連動した集中的な施策を展開したほか、ケーブルテレビ事業者との協力関係のいっそうの強化を図るなど、受信の普及と衛星契約の締結促進に努めた。また、13年1月、衛星デジタル放送の自動表示メッセージ機能を活用して受信者を効率的に把握する施策を開始した。
 年度末における放送受信契約件数は、カラー契約2,611万(有料契約は2,509 万)、普通契約54万(有料契約は49万)、衛星契約1,062万(有料契約は1,057万)、契約総数3,727万(有料契約は3,615万)であった。年度内の衛星契約の増加は55万(有料契約は54万)、契約総数の増加は39万(有料契約は35万)であった。なお、契約総数増加計画の達成状況は、75.6%であった。
 このほか、衛星デジタル放送の受信方法等に関する技術知識の周知に努めるとともに、高層建築物等による受信障害の予測、調査、改善方法の技術指導を行うなど、受信環境の維持・改善のための諸活動を推進した。


(6) 視聴者関係諸活動
 視聴者との結びつきをいっそう強化するため、視聴者関係業務を総合的に推進した。
 広報活動として、公開と参加の理念の下に、広報番組、視聴者との交流・ふれあい活動等を実施して、衛星放送をはじめとする放送番組の視聴促進や、事業活動の現状、受信料制度等についての理解促進に努めた。特に、衛星デジタル放送開始に向けて、オリンピック・シドニー大会に際しての試験放送等の受信公開を全国各地で実施した。
 理解促進・意向吸収活動として、視聴者会議、視聴者懇談会の開催や視聴者ふれあいセンター等における対応を通じて、視聴者の意向を積極的に受け止め、業務に反映するよう努めた。9月、電子メールによる問い合わせ等への対応業務を強化した。
 経営・事業内容の公開を積極的に進め、各放送局等の備え置き文書を拡充するとともに、経営委員会議事録等のインターネットホームページへの掲載を開始した。また、公共放送にふさわしい情報公開についての検討を進め、新たに設けた部外有識者で構成する研究会からの提言や郵政大臣からの意見を踏まえ、情報公開に関する基本的な事項をNHK情報公開基準として取りまとめ、公表した。さらに、同基準に基づく情報公開の開始に向けた諸準備を取り進めた。
 このほか、公開番組等の全国各地での実施や、放送番組の利用促進のための諸活動を推進した。


(7) 放送設備の建設及び運用
 衛星放送については、デジタル放送用の地上送信設備等の整備を行った。
 地上放送網の整備については、テレビジョンで、補完的な置局として、総合放送1局を開設した。ラジオでは、第1放送で、放送局1局を開設するとともに、2局の建設に着手したほか、FM放送2局を開設した。
 また、ニュースセンターのハイビジョン化整備、衛星デジタル放送用送出設備等の整備を行うなど、良質な放送を確保するため、放送設備の改善及び老朽設備の更新整備を進めた。
 放送会館等については、大阪放送会館、放送技術研究所の建築工事を取り進めたほか、放送番組の一元的な保存等を行うNHKアーカイブス及び北九州放送会館の建築工事に着手した。
 放送設備の運用については、年度末において、テレビジョンは、総合放送3,446局、教育放送3,371局、衛星第1放送、衛星第2放送、高精細度テレビジョン放送各1局、ラジオは、第1放送213局、第2放送140局、FM放送520局を運用した。


(8) 業務組織・職員
 経営委員会の会議は22回開催され、法定議決事項について審議し、決定するとともに、その他の基本的事項についても審議した。理事会は60回開催され、協会の業務執行に関する重要事項について審議した。
 組織・業務体制の見直し、時短・業務改革の推進、関連団体との効果的な連携など業務全般にわたって合理的、効率的な運営に努めた。特に、会長以下の役員で構成する「“改革と実行” “公開と参加”委員会」において、業務改革のいっそうの推進を図るための施策について検討した。
 組織については、NHKアーカイブス建設推進体制及び番組制作局業務体制の整備等の改正を行った。
 また、監査法人による監査の導入に向けて、諸準備を取り進めた。
 要員については、いっそうコンパクトな体制を目指し、業務の集約・再編成を実施するとともに、関連団体の活用等の施策により、198人の純減を行った。
 放送倫理と人権については、研修等を通じて認識の徹底を図った。


(9) 財政の状況
 受信料をはじめとする収入の確保に努めるとともに、経費節減の徹底を図った。
 収支(一般勘定)については、事業収入は6,525億円で、予算に対し35億円の減収となったが、事業支出は6,301億円で、61億円の予算残となり、事業収支差金は、予算に対し25億円改善され、223億円となった。この事業収支差金から資本支出充当198億円を差し引いた25億円は、翌年度以降の財政安定のため、使用を繰り延べることとした。年度末における財政安定のための繰越金は、当年度発生した額を加え、559億円となった。


(10) 関連団体等の概要
 放送法施行規則の基準による子会社、関連会社、関連公益法人等は54団体で、このうち、協会の管理区分としての関連団体は29団体であった。
 効果的、効率的な業務運営を推進しつつ、公共放送にふさわしい多様で質の高いサービスを確保するため、関連団体への業務委託を進めるとともに、関連団体の事業について、節度ある実施が図られるよう、適切な管理・指導に努めた。また、関連団体等については、その子会社のあり方について検討を行い、再編成を取り進めた。さらに、各関連団体の経営・事業内容の公開が適切に行われるよう努めた。
 なお、協会と関連団体との連結決算の導入に向けて、試行を行った。


(11) 地上放送のデジタル化に向けた諸準備
 「地上デジタル放送に関する共同検討委員会」に参加し、地上デジタル放送用のチャンネル案やアナログ周波数変更対策等の検討に協力したほか、全国8地域において、関係者と共同で、アナログ周波数変更対策の円滑な実施に資する協議会を設立した。


(12) IT時代のNHKビジョン
 情報通信技術(IT)を中心としたメディア環境の著しい変化を踏まえ、10年1月に策定した「デジタル時代へのNHKビジョン」を見直し、13〜15年度の事業運営の指針として、「IT時代のNHKビジョン」を策定した。




 なお、平成13年度における事業運営の重点は、次のとおりである。

1 地上放送の充実(大型企画番組の積極的編成、テレビジョン教育放送の充実、地域放送の充実等)
2 衛星デジタル放送の充実と普及促進
3 国際放送の充実
4 ソルトレークシティー冬季オリンピック放送等の実施
5 視聴者との結びつきの強化
6 効果的、効率的な営業活動の展開
7 放送の発展を図るための調査研究の推進
8 業務改革による効率的な業務運営の徹底
9 地上放送のデジタル化に伴うアナログ周波数変更対策の実施



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