重厚な紫のカーペットには、桜、いかり、翼のエンブレムに、輝く４つ星。

この部屋のあるじは、陸・海・空の自衛官22万人余りのトップに立つ、統合幕僚長の河野克俊さん（64）です。

この日は金曜日。運ばれてきたのは「繊維たっぷり 和風カレー」。

そうそう河野さんの出身、海上自衛隊では、航海中でも曜日を忘れないように「金曜日はカレー」なんですよね。

「私の記憶では、実はそれ、ちょっと違いますね」
ええっ！そうなんですか？？

「私が若い頃って、土曜日が午後から休みで、その直前のお昼は、パパッとできるよう、カレーにしたというのが、聞いていた説なんです。土曜がまるまる休みになって、スライドさせて金曜になったんです」

そう言いながら、カレーとごはんを混ぜ混ぜ…。

分けたまま食べるより「統合」させたほうがおいしいんだとか。
「海上自衛官になって42年。飽きないですね、カレーは」

フルーツのデザートは、シロップまで飲み干します。

笑顔の河野さんの前に、さらに運ばれてきたのは、生クリーム入りのどら焼き。

スタッフが小声で「ドラちゃんには、どら焼き」とつぶやきます。

え？自衛官トップが「ドラちゃん」？？

「そうらしいですよ。みずから称したことはありませんけど」とご本人。

横からは「してますよー」の小声が聞こえますが…。

「丸顔でしょ。『外見が似ている』と。ドラえもんって、何でも出せるじゃないですか。だから『柔軟性があって臨機応変』という意味で言ってくれる人もいて、それならいいかなと」

なんてポジティブな。

でも42年も自衛官をしていれば、引きずっている失敗もあるのでは。
「無いんですよ。基本的に、すぐ忘れるようにしているから。失敗は数々したと思いますけど、覚えている失敗はない」

そう言うと、おもむろに１冊のノートを見せてくれました。

平成26年10月14日は、統合幕僚長就任の日ですね。

あれ、終わりは去年の年末？！
「メモもとらないんですよ。４年余りで、これ１冊」
中身は、大きい字で、なぐり書きに近いメモでした。
「複雑なことを簡単に整理する。統合幕僚長として心がけていると言えば、そういうことですよ。たまに、簡単なことを複雑に考える人がいるじゃないですか。これは最悪」

これまでの在任期間は４年５か月と過去最長。

北朝鮮のミサイル問題や中国の海洋進出など、厳しい安全保障環境の中、統合幕僚長を務めてきた河野さん。長さの秘けつは。
「分かりませんよ！命ぜられるままにやってきただけですから。でも指揮官の要諦はありますよ」

「かつてドイツ軍を指揮したゼークトは『指揮官の要諦は何か』と問われ、『少なくとも明るくなくちゃダメだ』と言ったんですって。参謀は暗くてもいいけど、上に立つ指揮官はやっぱり、明るくないとダメだと思います」

まん丸い顔に、満面の笑みで答える河野さん。

まもなくの勇退も調整されていますが、42年のカレー暮らし、ごちそうさまでした！！