LGBT法案「差別は許されない」の文言扱い焦点 当事者の思いは

LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法をめぐり、自民党は、党内の一部が反発している「差別は許されない」という文言の修正を模索していますが、野党側からは、大幅な修正は認められないとけん制する声も出ていて、この文言の扱いが焦点となります。

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同性婚をめぐる差別的な発言で総理大臣秘書官が更迭されたことを受けて、与野党双方から、おととし、自民党内で意見がまとまらず、国会への提出が見送られた、LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法の早期成立を求める声が強まっています。

ただ、自民党内では、議員立法の法案に盛り込まれた「『性自認』を理由とする差別は許されない」という文言について、「内心に関わる問題で、かえって社会に分断を生みかねない」と一部で反発する意見もあり、党執行部からは、この文言の修正を模索する動きが出ています。

これに対し、野党側からは「『差別』という文言が入らないと意味がない」などと、大幅な修正は認められないとけん制する声も出ていて、この文言の扱いが焦点となります。

ロバート・キャンベルさん「慄然とする思い 日本も変わって」

同性のパートナーとアメリカで結婚したことを公表している日本文学研究者で早稲田大学の特命教授のロバート・キャンベルさんは「日本のさまざまな制度設計の中枢にいる立場の人がこうした発言をしたことを、慄然とする思いで聞いた。内心の自由に関わることなのですべての人に『共感せよ』と言うべきではないが、性的マイノリティーの人たちには生きづらさやぶち当たって超えられない壁があることをきちんと認識し、政策を作ってほしい」と話しました。

性的マイノリティーの人たちを取り巻く海外の状況については、「G7=主要7か国の日本以外の国々では、『LGBTへの差別を禁止する』ことや『同性婚を認める』ことを定めている。こうした国々からすると例えば企業が日本に支社を作る際、二の足を踏むことも考えられ、日本も今すぐにでも変わっていくべきだ」と指摘しました。

また、LGBTの人たちへの理解を促進するための議員立法をめぐり、与野党双方から早期成立を求める声が出ていることについて、「LGBTの人たちへの理解を促進するための議員立法をめぐっては、おととし、国会への提出が見送られたが、今回はそうならないことを祈っている。社会の理解は着実に進んできているがいろんな立場の人々の意見をすり合わせ、日本にふさわしい法整備やさまざまな制度設計について話し合わないといけないと思う」と話していました。

支援団体「絶望に近い気持ち 存在認め理解を」

東京 新宿区にある「プライドハウス東京レガシー」は、LGBTQなど性的マイノリティーの人たちを支援するため、3年前にオープンしました。

施設には、3000冊を超えるLGBTQに関する書籍が自由に閲覧できるコーナーや、当事者やその家族が悩みなどを相談する個室のブースが設けられ、情報発信や交流の役割を担っています。

この施設を運営する「プライドハウス東京」の代表で、ゲイであることを公表している松中権さんは、同性婚をめぐって荒井勝喜・前総理大臣秘書官が「見るのも嫌だ」などと発言し更迭されたことについて、「本当に悲しいし、憤りももちろんあるが、それを通り越して絶望に近い気持ちです。私も当事者でそう感じているので、悩んでいる若者には苦しいことばだったと思う」と話しました。

松中さんは、「性的マイノリティーの人たちは、皆さんと同じように暮らしていているので、そういう存在として認めてほしいし、しっかり話を聞き、理解を深めてほしい」と話していました。

専門家「国が率先して差別されないルール作りを」

性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行教授は、「国を引っ張る立場の人が差別的な発言をしたことは非常に残念だ。今回の問題を契機に国が率先して性的マイノリティーの人たちが差別されないためのルールを作るべきだ」と指摘しています。

性的マイノリティーの人たちを取り巻く日本の現状については、「同性婚や性的マイノリティーについては若い人や女性を中心に受け入れられてきている。一方で50代以上の男性を中心に否定的な意見が多い背景には、誤解や古く伝統的な家族観が根づいてしまっていることがあると考えられる」と指摘しています。

その上で、LGBTの人たちへの理解を促進するための議員立法をめぐり、与野党双方から早期成立を求める声が出ていることについて「日本は海外に比べて性的マイノリティーの人たちの権利を守るルール作りが追いついていない。同性のカップルを結婚に相当する関係と認めるパートナーシップ制度は、日本の総人口の6割を超える人たちが住んでいる地域で導入されていて、社会的にも受け入れが進んでいるのが現状だ。こうした状況を踏まえ、国がもっと積極的に性的マイノリティーの人たちに対するルールを作ることが求められている」と話しています。

岸田首相 衆院予算委で重ねて陳謝

2月8日の衆議院予算委員会では、岸田総理大臣は、同性婚をめぐる差別的な発言で総理大臣秘書官を更迭した経緯を説明し、重ねて陳謝しました。

この中で岸田総理大臣は、「性的指向や性的自認を理由とする、不当な差別や偏見はあってはならず、多様性が尊重され、すべての人々が互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きと生きることができる社会を目指さなければならない。元総理秘書官の一連の発言は、こうした政府の方針とは全く相入れず言語道断だ」と述べました。

そのうえで、「政府の方針について誤解を生じさせたことはまことに遺憾で、不快な思いをさせてしまった方々におわびする」と重ねて陳謝し、引き続き政府の方針を丁寧に説明していく考えを示しました。

松野官房長官「特定の立場に立っているわけでない」

松野官房長官は記者会見で「憲法24条1項は『婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する』と規定しており、当事者双方の性別が同一である婚姻の成立、すなわち同性婚制度を認めることは想定されていない。憲法24条1項が同性婚制度の導入を禁止しているのか、許容しているのかについて、特定の立場に立っているわけではない」と述べました。

自民 萩生田政調会長「文言修正も含め党内で検討」

自民党の萩生田政務調査会長は、東京 八王子市で記者団に対し、「改めてLGBTの人たちへの理解増進の必要性を党として再認識している。おととし議論したベースがあるので、それをもとに議論を進めていこうと思っている」と述べました。

そのうえで、もとの法案にある「『性自認』を理由とする差別は許されない」という文言に、党内で反対意見が根強いことについて、「LGBTに寛容な社会をつくっていこうということは、すでに党として確認している。どういう文言であれば、理解できるのかを含め、これからいろいろ調整したい」と述べ、文言の修正も含めて党内で検討を進める考えを示しました。

公明 高木政調会長「法案成立で不利益を得る人いない」

公明党の高木政務調査会長は、記者会見で、おととし、超党派の議員連盟がまとめた法案に盛り込まれている「『性自認』を理由とする差別は 許されない」という文言に、自民党内で反対意見が根強いことについて、「性的マイノリティの人に対する差別が断固あってはならないという認識を持つことを否定するのはなかなか理解が広まらない。法案が成立することで不利益を得る人は基本的にはいないのではないか」と指摘しました。

また、同性婚を可能にする法整備について「多くの自治体で『同性パートナーシップ制度』などの対応が進む中、国の対応も必要ではないか。来週から党内で議論を始めたい」と述べました。

立民と維新 LGBT法の早期成立 与党に働きかけ

立憲民主党と日本維新の会の国会対策委員長が会談し、LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法を速やかに成立させるべきだとして、与党などに働きかけていくことで一致しました。

会談では、自民党内で今後調整が行われる見通しの、LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法の扱いなどを協議しました。そして、法案を速やかに提出し成立させるべきだとして、与党やほかの野党に働きかけていくことで一致しました。

また、児童手当の所得制限を撤廃する法案を作成し今の国会での成立を目指すことや、教育の無償化などの検討を進めることを確認しました。

立憲民主党の安住国会対策委員長は「理解増進法は入り口でしかない。自民党内の問題なので、岸田総理大臣には党の総裁としてのリーダーシップを発揮してほしい」と述べました。

日本維新の会の遠藤国会対策委員長は「野党だけで進めても到底無理な話であり、自民党も含めて形にしていくために汗をかいていく」と述べました。

G7サミット前までの成立を 超党派議連

LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法をめぐり、超党派の議員連盟は役員会を開き、5月の「G7広島サミット」までの成立を目指す方針を確認しました。

おととし、LGBTの人たちへの理解を増進するための議員立法の法案をまとめた超党派の議員連盟は8日午後、自民党の稲田元防衛大臣や立憲民主党の西村代表代行らおよそ10人が出席して役員会を開きました。

そして、荒井前総理大臣秘書官の更迭を受けて、与野党双方から議員立法の成立を求める声が強まっていることを受けて、5月の「G7広島サミット」までの成立を目指す方針を確認しました。

また、役員会に招かれた、アメリカ国務省でLGBTの人たちの人権擁護を担当するジェシカ・スターン特使は「G7の議長国を務める日本で議員立法が成立することは、世界に向けて発信できるいい機会だ」と述べました。

議員連盟の法案はおととし、自民党内で意見がまとまらず、国会への提出が見送られていて、自民党の稲田氏は記者団に対し、「前回は孤立無援の戦いだったが、今回は政府側も法律の必要性を言っていただいているので力強い。まずは党内から出たいろんな懸念について検討していきたい」と述べました。