岸田首相 寺田総務相に辞表提出させ更迭  1か月で閣僚辞任は3人目

岸田総理大臣は政治資金をめぐる問題が明らかになっている寺田総務大臣を更迭し、後任に自民党の松本剛明元外務大臣を起用することになりました。
わずか1か月の間に3人の閣僚が辞任する事態となり政権運営は一層厳しさを増す見通しです。

岸田総理大臣は、20日夜、政治資金をめぐる問題が明らかになっている寺田総務大臣を総理大臣公邸に呼び、国会運営への悪影響を避けたいなどとして提出された辞表を受理し、更迭しました。
岸田総理大臣は、記者団に「相次いで閣僚が辞任することとなり、深くおわびを申し上げる。私自身、任命責任を重く受け止めている。厳しい批判を真摯(しんし)に受け止めながら政権運営にあたっていきたい」と述べました。

政府は、21日の持ち回り閣議で、寺田総務大臣の辞任を正式に決定しました。

そして、岸田総理大臣は、寺田総務大臣の後任に、自民党の松本剛明・元外務大臣を起用することとし、21日、自民党の松本剛明元外務大臣と会談し、後任の総務大臣に起用することを伝えました。

岸田総理大臣としては、経済対策や旧統一教会の被害者救済を着実に進めることなどで体制の立て直しを図りたい考えです。

ただ、わずか1か月の間に3人の閣僚が辞任する異例の事態となり、与党内には「辞めさせるなら先週、葉梨・前法務大臣と同時にしておくべきだった」と対応を疑問視する声のほか「政策判断でも遅れが出るようなら内閣自体が揺らぐ」などと、危機感が出ています。

野党側は、立憲民主党の泉代表が「辞任は遅すぎで、決断力と指導力を疑わざるをえない」などと厳しく批判するなど、岸田総理大臣の任命責任の追及を強める構えで、内閣支持率の下落も続く中、政権運営は一層厳しさを増す見通しです。

一方、国会は21日、衆参両院の本会議が開かれ物価高騰対策などを盛り込んだ今年度の第2次補正予算案の審議が始まる予定になっていますが、寺田大臣の辞任を受けて与野党の国会対策委員長が会談し審議への対応を協議する予定です。

寺田総務大臣とは

寺田大臣は、衆議院広島5区選出の当選6回。自民党岸田派に所属しことし夏の内閣改造で初めて入閣しました。岸田総理大臣と近いことでも知られ、今の岸田派の「宏池会」を結成した池田勇人・元総理大臣は、妻の祖父にあたります。

 

岸田首相「任命責任重く受け止めている」

岸田総理大臣は、20日夜、総理大臣公邸で寺田総務大臣と会談したあと記者団の取材に応じました。

この中で岸田総理大臣は「先ほど、寺田大臣から補正予算案、被害者救済新法など、重要課題処理の最終段階を迎えているときに、みずからの政治資金に関する質疑が続くことで悪影響を与えたくないという理由で辞任の意向が示された」と述べました。

そのうえで「これから臨時国会は終盤を迎え年末にかけては補正予算案や被害者救済新法の審議、防衛力の強化、コロナ対策、さらには当初予算案の編成もある。こうした重要課題に答えを一つ一つ出すべく努力することを最優先するにあたり、正念場を迎えていると感じていることから辞任を認めることにした」と述べました。

そして「国会中、相次いで閣僚が辞任することとなり、深くおわびを申し上げる。私自身、任命責任を重く受け止めている。国民の皆様の厳しい批判を真摯(しんし)に受け止めながら、内閣として一層の緊張感を持って政権運営にあたっていきたい」と述べました。

また後任人事については「地方の財政や税制、またマイナンバーカードの普及、さらには通信放送行政に精通している人材を選びたい」と述べ、21日の午前中に発表したいという意向を示しました。

さらに「こうした事態の中だが、国民生活、そして国民の命や暮らしを守るために果たさなければいけない多くの重要な政治課題があり、こうしたものを一つ一つ乗り越え、結果を出すことによってみずからの責任を果たしていかなければいけない」と述べました。

このほか、記者団が「みずからが会長を務める岸田派に所属する大臣が相次いで辞任したことをどう思うか」と質問したのに対し「派閥にかかわらず辞任という事態に至ったことは大変遺憾なことで、私自身も責任は重く受け止めなければならない」と述べました。

寺田総務相「重要法案成立しけじめつけた」

寺田大臣は記者団に対し「たった今、岸田総理大臣に国務大臣の辞表を提出させてもらった。先週の金曜日に総務省が提出した重要法案である衆議院の区割り法が可決・成立し、その段階でけじめをつけた」と述べました。

そのうえで「残っている補正予算案や重要法案である旧統一教会の被害者救済法案などの審議日程もない中、私の政治資金をめぐる問題が差し障りになってはいけないと辞表を出し、岸田総理に受理していただいた」と述べました。

また「私自身の関係政治団体について、さまざまな事務的ミスや不手際が発覚したため、関係者に聞きながら説明責任を果たしてきた。もちろん残された説明責任もあると思うので、今後もしっかり果たしていきたい」と述べました。

そして「多くの関係者にご心配、ご迷惑をかけたことは、これまでもおわびを申し上げているが、改めておわびを申し上げたい」と述べました。

さらに、進退について、岸田総理大臣と事前に相談していたのか記者団に問われ「直接、進退という形で相談はしていなかったが、さまざまな今の政治資金をめぐる諸状況、国会での審議の状況、地元情勢などについて折に触れて報告していた」と述べました。

そして今後の対応について「今後は閣僚という立場ではなく議員活動はこれからも続ける中で、いち議員として確認ができたことは発表させていただく」と述べました。

寺田総務大臣をめぐる問題とは

寺田総務大臣をめぐっては地元の後援会の政治資金収支報告書の記載などをめぐって数々の問題が指摘され、一部は市民団体などから検察庁に告発状が送られています。

このうち広島県にある「寺田稔竹原後援会」の収支報告書をめぐってはすでに亡くなった人の名前が会計責任者として記載され今月2日、市民団体が政治資金規正法違反などの疑いで寺田氏らの告発状を東京地方検察庁に郵送しました。

この記載について寺田氏は「事務的なミスで率直におわび申し上げたい」と陳謝しています。

この後援会をめぐっては今月2日、収支報告書に代表として記載されていた男性がNHKなどの取材に対してみずからが代表を務めていることを否定する一方、寺田氏は11月3日まで8年間、代表だったとして、事実関係に誤りはないと説明しています。

また、先月には、前回と前々回の衆議院選挙のあとの資産公開の際、みずからの政治団体への貸付金1250万円を記載していなかったことが報じられ、寺田大臣は衆議院に資産報告書の訂正を届け出ました。これについて寺田大臣は「事務的なミスで今後はしっかりとチェックしていきたい」と説明していました。

寺田氏はこのほかにも▽去年の衆議院選挙の選挙運動をめぐって、ポスターを貼った地元議員などに報酬を支払ったのは公職選挙法に違反する疑いがあるいとして東京地検に告発状が郵送されたほか、
▽後援会の収支報告書に添付された領収書に宛名の筆跡が酷似しているものが少なくとも11枚あると報じられるなど相次いで問題が指摘され、野党側からは辞任や更迭を求める声が相次いでいました。

専門家「いろいろな問題や疑惑 払拭できていない」

政治資金の問題に詳しい日本大学の岩井奉信名誉教授は、「総務大臣は政治資金や選挙を所管する大臣なのでとりわけこれらの問題について清廉潔白でなければならない。いろいろな問題や疑惑が出てくる中でしっかり説明し、それらを払拭できていないというのが大きな問題だ。政治資金収支報告書の制度をないがしろにするもので制度に対する信頼感を失わせることにもつながっていく可能性がある」と指摘しました。

そのうえで、「有権者は『政治とカネ』をめぐる問題に非常に関心があり、この問題について国会で問われたとき、疑惑を持たれた寺田総務大臣本人が答弁するという、論理矛盾のようなところがあった。そういった点でも総務大臣という地位にとどまることは許されることではなかった」と述べました。

公明 山口代表「辞表やむをえない 最後のタイミングだった」

公明党の山口代表は、NHKの取材に対し「たび重なる問題点が指摘される中、寺田大臣はクリアに説明しきれず、不透明な部分が残っていた。補正予算案や旧統一教会の被害者救済法案などの国会審議に停滞を招くおそれがあったので、それを自覚して辞表を出したことはやむをえない。ここが最後のタイミングだったのではないか」と述べました。

そのうえで「任命権者の岸田総理大臣には、相次ぐ閣僚の辞任に深く思いを致し、後任を一刻も早く任命し、体制を立て直してもらいたい。重要法案の審議に政府としてしっかり責任を持って、臨んでもらいたい」と指摘しました。

立民 泉代表「岸田首相の決断力と指導力疑わざるをえない」

立憲民主党の泉代表は、コメントを発表し「公職選挙法や政治資金規正法を所管する総務大臣が多くの疑惑を抱えていたのでは、公平公正な総務行政は遂行できない。すでに信頼も失墜していたにもかかわらず、辞任は遅すぎであり、岸田総理大臣の決断力と指導力を疑わざるをえない」と批判しました。

そのうえで「8月の内閣改造後、早くも3人の大臣が辞任に至ったことは、岸田総理大臣の人事管理力のなさと任命責任が問われる。国会で国民に謝罪し、今後の内閣の在り方について誠実に説明すべきだ」と求めました。

立民 逢坂代表代行「遅すぎる 岸田首相の決断力危機感のなさ」

立憲民主党の逢坂代表代行は、NHKの取材に対し「更迭のタイミングが遅すぎる。岸田総理大臣の決断力危機感のなさからくるもので、任命責任が問われるし、寺田総務大臣をこれまで辞任させずに放置してきた責任は重い」と述べました。

そのうえで「寺田大臣は説明責任を果たしていないし、問題の深刻さを理解していない。予算委員会での審議を目前にした今、まともに審議できる状況ではない」と述べました。

立民 安住国対委員長「辞任は当然で遅すぎる」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、NHKの取材に対し「政治資金規正法を所管する大臣として何度も法令違反の疑いを繰り返していて、国会審議を通じてその任にあらずという結論になったのは明らかだ。辞任は当然で、遅すぎるくらいだ。国会審議で何度も問題になっていて、岸田総理大臣は先の外遊前に更迭すべきで、傷口を広げた」と指摘しました。

維新 馬場代表「疑惑の説明責任がなくなるものではない」

日本維新の会の馬場代表は、NHKの取材に対し「亡くなった人が政治資金収支報告書の会計責任者というのはアウトで、事務的なミスでは済まない。大臣を辞めるからといって疑惑に対する説明責任がなくなるものではなく、政治家として自身のことばで説明すべきだ」と述べました。

一方で「岸田総理大臣の判断はいつも遅すぎるが、それを許したままの、われわれ野党も情けない。これだけ大臣の辞任が続いても、国民の多くは『それでも自民党がマシ』と判断する状況が続いており、政治に対する信頼感を得られるよう野党がもっと努力する必要がある」と述べました。

共産 小池書記局長「岸田総理は退陣すべき」

共産党の小池書記局長は、NHKの取材に対し「岸田総理大臣の判断は遅すぎる。改めて決断できない姿が浮き彫りになった。山際・前経済再生担当大臣と葉梨・前法務大臣、そして寺田総務大臣で『スリーアウト、チェンジ』だ。岸田総理大臣は責任をとって退陣すべきだ」と述べました。

国民 玉木代表「後手後手の印象が否めない」

国民民主党の玉木代表は、NHKの取材に対し「なぜ葉梨・前法務大臣と一緒に辞めさせなかったのか疑問であり、後手後手の印象が否めない。ほかにも辞めなければならない可能性がある大臣がいるなら、まとめて辞めてもらいたい。早く事態を収拾し、内外の課題に対応できる体制を整えるべきだ」と述べました。

れいわ 山本代表「いっそのこと内閣総辞職を」

れいわ新選組の山本代表は「『海外旅行』の余韻を楽しむ間もなく大臣を更迭する岸田総理大臣がふびんでならない。旧統一教会で汚染された自民党では人事も難しいだろう。いっそのこと内閣総辞職で『卒業旅行』に出かけてはどうか」というコメントを出しました。

後任起用の松本剛明 元外務大臣とは

松本氏は、衆議院兵庫11区選出の当選8回で、63歳。自民党麻生派に所属しています。

銀行員を経て、父親の松本十郎・元防衛庁長官の秘書を務めた後、平成12年の衆議院選挙で当時の民主党から初当選しました。

民主党政権では、外務大臣や衆議院議院運営委員長を務めましたが、民主党が野党に転じたあと、7年前に安全保障法制をめぐる考え方の違いを理由に離党して無所属となり、その後、自民党に入党しました。

岸田総理大臣としては、国会開会中の閣僚の交代となるため、松本氏に閣僚経験があることに加え、麻生副総裁が率いる麻生派からの起用で、政権の安定を図りたいという狙いがあるものとみられます。