ウォーホル作品3億円で購入「10年20年のスパンで見てほしい」

鳥取県が3億円で購入したアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」。
高額だったことから、県民からは批判や疑問の声が上がった。
作品購入の責任者である鳥取県教育委員会の美術振興監・尾崎信一郎さんに、購入の狙いなどについて聞いた。

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(プロフィール)
尾崎信一郎 鳥取県教育委員会 美術館整備局 美術振興監。
京都国立近代美術館の主任研究官、鳥取県立博物館の館長を経て、2022年から現職。専門は、日本とアメリカの現代美術。

鳥取県の「漫画カルチャー」につながるポップアート

Q.なぜ「ブリロの箱」を購入したのか?
A.「近現代の美術の優れた作品」という収集方針の中に「前衛精神を示す作品」という項目があり「ブリロの箱」を選んだ。
20世紀の美術は、19世紀までの美術のように「美の規範」というのがあって、その「美の規範」に近づくということではなくて、むしろ新しい表現を求めて、その新しさの中に美を見つけていくことになったと思う。
ウォーホルが非常にラディカルな例かもしれないが、美術に対する態度が変わってきたということがある。
その中でポップアートというのは比較的親しみやすいし、鳥取県には漫画関係のカルチャーもある。そういうところに近づけやすいということで作品購入を考えた。

Q.適切・妥当な支出だった?

A.美術品の評価は非常に難しいが、作品を購入するにあたり、数人の関係者に評価をしてもらったり、オークションの記録を見たり、他の美術館の購入実績を調べたり非常に厳密に調べている。
相対的に言えば、これは安い買い物だったと考えている。

「ブリロの箱」は“たくさんあることに意味”

Q.住民からは“作品購入の公表が遅い”と指摘があった。なぜ遅くなった?
A.美術品というのは基本的に値段があってないようなもの。いつでもあるというものではない。一期一会というか、買える時に買う必要がある。
知られてしまうと値をつり上げられる可能性があるので、あらかじめ決めた収集方針の中で、何を買うか具体的な作家名や作品名は明かさず、購入のために絶えずアンテナを張っている。

Q.なぜ「ブリロの箱」を5個も買う必要があったのか?

A.美術館は、作家の意図を最大限配慮して作品を展示する必要がある。
ウォーホルが「ブリロの箱」を展示した状態を見てみると、常に積み重ねてランダムに置いてある。
つまり、たくさんの同じ形の物があるということに意味がある。
だから、我々としても1個ではなくて5個買った。これほど、たくさんの物が一度に手に入る機会は今後もないと思うので、そういった意味では“よい買い物だったかな”と思う。

長期的な視点で作品の評価を

Q.作品購入は県民の理解を得られるか?
A.新しいものに対しては、どうしても、ひるんでしまうところがあるが、時間がたてば慣れて、よさが分かってくる。ウォーホルの作品は、まさに50年前に非常に大きな衝撃を与えた。
それが、また今、鳥取で起こっているということで、おもしろいと言えばおもしろいし、我々はいまだにウォーホルの術中にはまっている感じがする。
収集は始めたばかりだから、分かりにくいと思うが、コレクションがまとまれば「この作品はこういう意味があるんだ」「こういう意味で買ったんだ」ということを理解してもらえると思う。美術館は今後ずっと成長していくものなので、10年20年のスパンで見てほしい。