岸田首相 葉梨法務大臣の辞表受理 後任に齋藤元農林水産大臣

岸田総理大臣は、総理大臣官邸で記者団に対し、葉梨法務大臣から提出された辞表を受理したことを明らかにしました。
また、後任に自民党の齋藤健・元農林水産大臣を起用する意向を表明しました。

この中で、岸田総理大臣は「葉梨大臣から『政権としてさまざまな懸案を抱える中、軽率な発言によって今後の補正予算案や重要法案の審議に迷惑をかけたくない、身を退きたい』という申し出があった」と述べました。

そのうえで「法務行政の根幹に関わる制度についての軽率な発言によって法務行政に対する国民の信頼を損ねたこと、旧統一教会による被害者救済に政府を挙げて取り組む中、重責のいったんを担う法務大臣の発言で重要施策の審議などに遅滞が生じる事を考慮し、辞任の申し出を認めた」と述べ、辞表を受理したことを明らかにしました。

そして、自らの任命責任について「私の任命責任についても重く受け止めている。今後、山積する課題に取り組みを進めていくことで職責を果たしていきたい」と述べました。

また、後任について「民法改正、旧統一教会の被害者救済など、法務省の抱える重要課題に鑑み、後任は幅広い分野で政務、実務の双方に豊富な経験を持ち、安定した答弁能力に定評のある齋藤健氏にお願いすることとした」と述べ、自民党の齋藤健・元農林水産大臣を起用する意向を表明しました。

岸田首相 東南アジア訪問 出発を12日未明に延期

東南アジアで開かれるG20=主要20か国の首脳会議などへの出席を予定している岸田総理大臣は、葉梨法務大臣の更迭を決めたことを受け、当初の予定から半日近く遅れて、12日未明にカンボジアに出発することになりました。

岸田総理大臣は、▽ASEAN=東南アジア諸国連合との首脳会議や、▽G20=主要20か国の首脳会議、それに▽APEC=アジア太平洋経済協力会議に出席するため、11日から9日間の日程でカンボジア、インドネシア、タイの3か国を訪問する予定でした。

しかし、葉梨法務大臣の更迭を決めたことを受け、後任人事などを行うため、予定していた11日午後の出発を取りやめ、当初の予定から10時間遅れて、12日午前1時にカンボジアに向けて出発することになりました。

岸田総理大臣は12日朝、現地に到着し、ASEANとの首脳会議などに出席するほか、13日は日米韓3か国の首脳会談や日米首脳会談などに臨む予定です。

これまでの経緯

批判が集まった葉梨法務大臣の発言は、9日夜開かれたみずからが所属する自民党岸田派の国会議員のパーティーでのものでした。

この中で葉梨大臣は、法務大臣の職務に関連して「法務大臣になって3か月がたつが、だいたい法務大臣というのは、朝、死刑のはんこを押して、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけという地味な役職だ」と述べました。

その上で「今回は旧統一教会の問題に抱きつかれてしまい、ただ抱きつかれたというよりは一生懸命、その問題の解決に取り組まなければならず、私の顔もいくらかテレビで出ることになった」と述べました。

こうした発言に批判が出る中、10日朝、松野官房長官は、葉梨大臣を総理大臣官邸に呼び、軽率な言動をしないよう厳重に注意しました。

同じ日の参議院法務委員会では、冒頭で、みずからの一連の発言について、「職務を軽んじているような印象を与える発言であるとの報道がある。このような印象を与える発言にはおわび申し上げるとともに撤回させていただきます」と謝罪した上で、発言を撤回しました。

その上で「この印象を与えた発言は私の本意ではない。今後は、私の真意がしっかりと伝わるように、発言には慎重を期してまいりたい」と述べました。

ただ、この時点では、葉梨大臣は「死刑執行の判断は極めて重いことは十分認識しているつもりだ。しっかりと職責を果たしていきたい」と述べ、辞任を否定していました。

また、葉梨大臣は、9日の同じパーティーで、「外務省と法務省は票とお金に縁がない。法務大臣になってもお金は集まらない。なかなか票も入らない」と述べました。

この発言については、葉梨大臣は撤回しないとして、この日の委員会では、「ここで申し上げたのは、いわゆる経済官庁にはいろいろな形で企業とお付き合いができ、政治資金パーティーでも、来られる人が多い。ただ、外務省や法務省は、企業とのお付き合いはそれほどあるものではない。政治資金という意味ではなかなか集めづらいところはあるということだ」と述べました。

岸田総理大臣は10日夜、記者団に対し「職責の重さをしっかりと感じて説明責任を果たしてもらいたい。これからも職責の重みを感じて発言は丁寧に慎重に行ってほしい」と述べ、葉梨大臣を交代させる考えはないことを明らかにしました。

ただ、葉梨大臣は、先月31日のパーティーでも同様の発言をしていたことがその後、わかり、与党内からは「不適切で軽すぎる発言だ」などと今後の政権運営への影響を懸念する声が出ていました。

これに対し、野党側は、立憲民主党の泉代表が「葉梨大臣の死刑執行の判断が信頼に足るのか。任にとどまることはふさわしくない」と述べるなど更迭すべきだとして批判を強めていました。

そして11日、葉梨大臣は、午前から昼過ぎにかけて開かれた衆議院法務委員会で、過去のパーティーなどでも4回以上、同様の発言をしていたとして、改めて謝罪し、過去の発言も撤回する考えを示しました。

また、葉梨大臣は、撤回しないとしていた、「外務省と法務省は票とお金に縁がない」などと発言していた点について、きょうの委員会では、「私の本意と異なる正確性を欠くものだった」と述べ、一転して撤回する考えを示しました。ただ、委員会で、野党側から繰り返し、辞任を求められましたが、この時点でも、辞任を否定していました。

葉梨氏とは

葉梨氏は、衆議院茨城3区選出の当選6回。葉梨氏は夏の内閣改造で初めて入閣しました。
岸田総理大臣が率いる自民党岸田派に所属しています。
元警察官僚で、義理の父親にあたる葉梨信行・元自治大臣の秘書などを経て、平成15年の衆議院選挙で初当選しました。これまでに財務政務官や法務副大臣、それに農林水産副大臣などを歴任しました。岸田総理大臣は、みずからに近く、官僚出身で法務行政にも精通した葉梨氏を起用することで、円滑な政策の実現を図る狙いを持っていたとされています。

自民 世耕参院幹事長「発言はありえない」

自民党の世耕参議院幹事長は、記者会見で「報道には接しているが、発表までコメントは控えたい。葉梨大臣の発言はありえないものであり、死刑を冗談として述べることは許されず、撤回や謝罪は当然だ」と述べました。

自民 岸田派の閣僚経験者「官邸と与党の連携不足否めない」

自民党岸田派の閣僚経験者の1人は、NHKの取材に対し「更迭の判断が遅く、もっと早く対応すべきだった。総理大臣官邸と与党との連携不足も否めない」と述べました。

自民党 安倍派幹部「岸田政権へのダメージは明らか」

自民党安倍派の幹部の1人はNHKの取材に対し「山際・前経済再生担当大臣に続き、2人も閣僚が交代することとなり、岸田政権へのダメージは明らかだ。内閣支持率もさらに厳しい数字になるだろうし、岸田総理大臣がどこまで耐えられるかだ」と述べました。

自民 ベテラン議員「判断が遅いのひと言」

閣僚や党幹部を経験した自民党のベテラン議員の1人は、NHKの取材に対し「判断が遅いのひと言に尽きる。なぜ、きのうのうちに更迭を決めておかなかったのか」と指摘しました。

自民 閣僚経験者「しかたない」

自民党の閣僚経験者の1人は、NHKの取材に対し「しかたないのではないか。政権の体力がじわじわと奪われる前に判断したのだろう」と述べました。

立民 安住国対委員長「更迭は当然」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、記者団に対し「発言の重大さを考えると法務行政全体に大きな支障をきたすことは明らかなので、更迭は当然で、むしろ、きのうの時点で更迭しておくべきだった。岸田総理大臣は決断力がなく、世論を見間違えており、リーダーとしての危機管理能力が問われている」と述べました。

立民 ベテラン議員「岸田政権はガバナンスがなっていない」

閣僚や党幹部を経験した立憲民主党のベテラン議員は、NHKの取材に対し「今回の発言はおかしい。大臣として持たないのは明らかで、岸田総理大臣はもっと早く更迭すべきだった。山際・前経済再生担当大臣や寺田総務大臣の問題もあり、岸田政権はガバナンスがなっていない。国家的な非常事態が起きたときに対応できるのか疑問だ」と述べました。

維新 馬場代表「首相に危機管理能力がない」

日本維新の会の馬場代表は、NHKの取材に対し「死刑をやゆする発言は言語道断で、法務行政を任せられる状況になかった。先ほどまで国会で答弁をさせていたのに更迭することはつじつまが合わず、岸田総理大臣に危機管理能力がないことのあらわれだ。いつもちぐはぐで後手後手の姿勢は国民に見透かされており、政権に大きなダメージとなるだろう」と述べました。

維新 藤田幹事長「不適切な発言で更迭は当然」

日本維新の会の藤田幹事長は、NHKの取材に対し「大変不適切な発言で、その軽率さを考えれば更迭は当然だ。閣僚の不祥事が続いているが、与党・野党の別なく、すべての政治家が襟を正して政治への信頼を取り戻さなければならない」と述べました。

公明 幹部「世論を読み間違っていた」

公明党幹部の1人は、NHKの取材に対し「きのうの段階では、大臣の交代が続くことを避けて続投としたのだろうが、世論を読み間違っていたということだろう。世間は納得していないのだから、辞任は仕方ないのではないか。政権にとって厳しい」と述べました。

共産 小池書記局長「問題は岸田首相のやり方」

共産党の小池書記局長は、記者会見で「葉梨氏に法務大臣の資質は全くないので辞任は当然だが、問題は岸田総理大臣のやり方だ。みずからの任命責任は棚に上げて本人の説明責任だと押しつけ、総理大臣としての資質がないと言わざるをえない。寺田総務大臣や秋葉復興大臣の問題も含めて、うみを出し切り、疑惑に対して正面から答えることを岸田総理大臣に求めていきたい」と述べました。

国民 玉木代表「判断が常に後手 内閣の信頼性低下」

国民民主党の玉木代表は、記者団に対し「極めてお粗末だ。いったんかばった上で結局は辞めさせ、判断が常に後手後手になっていることは、岸田内閣に対する信頼性を著しく低下させている。疑惑を追及されているほかの大臣もまとめて辞めてもらい、もう1回、内閣改造をして再スタートを切るぐらいでないと、このガタガタ感は収まらないのではないか。早く、冷静で建設的な議論ができる国会を、政府・与党の責任で取り戻してほしい」と述べました。

国民 榛葉幹事長「あまりにお粗末すぎる」

国民民主党の榛葉幹事長は、記者会見で「あまりにお粗末すぎる。国家が人の命を奪う死刑執行という、究極の法務行政を担う法務大臣が軽口をたたいたので、辞めるのは当然で決断も遅い。寺田総務大臣や秋葉復興大臣も時間の問題で、一刻も早くまとめて辞めてもらいたい」と述べました。