元慰安婦の損害賠償裁判
日本政府に賠償命じる

韓国の元慰安婦の女性12人が「精神的な苦痛を受けた」として、日本政府に損害賠償を求めていた裁判で、ソウルの地方裁判所は8日、原告側の訴えを認め、日本政府に対し、原告1人当たり1億ウォン、日本円にしておよそ950万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。日韓関係がさらに冷え込むのは避けられない見通しです。

韓国の元慰安婦の女性12人は「反人道的な犯罪行為で精神的な苦痛を受けた」として、2013年、日本政府に対し、合わせて12億ウォン、日本円にしておよそ1億1400万円の損害賠償を求める調停をソウル中央地方裁判所に申し立て、その後、裁判を起こして去年4月に審理が始まりました。

日本政府は、主権国家はほかの国の裁判権に服さないとされる、国際法上の「主権免除」の原則から訴えは却下されるべきだとして、裁判には出席しませんでした。

1審のソウル中央地方裁判所は8日の判決で「主権免除」の原則について「計画的かつ組織的に行われた反人道的な犯罪行為であり、適用されないとみるべきだ」として、今回の裁判に「主権免除」の原則は適用されないとする判断を示しました。

そのうえで「原告は想像しがたい激しい精神的、肉体的苦痛を強いられた」として、原告側の訴えをすべて認め、日本政府に対し、原告1人当たり1億ウォン、日本円にしておよそ950万円、合わせておよそ1億1400万円の支払いを命じました。

慰安婦問題をめぐっては、この裁判のほかにも、韓国の元慰安婦と遺族合わせて20人が日本政府に損害賠償を求めている裁判の1審判決が、来週13日に言い渡される予定です。

韓国では、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、日本企業に賠償を命じた判決が確定し、資産の売却に向けた手続きが行われています。

今回、慰安婦問題をめぐって日本政府に賠償を命じる判決が言い渡されたことで、日韓関係がさらに冷え込むのは避けられない見通しです。

官房長官「極めて遺憾 断じて受け入れることはできない」

判決を受けて、加藤官房長官は閣議のあとの記者会見で「極めて遺憾で、断じて受け入れることはできない」と述べ、日本政府として強く抗議したことを明らかにしました。

この中で、加藤官房長官は「国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきた」と述べました。

そして「慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で、完全かつ最終的に解決済みであり、2015年の日韓合意において『最終的かつ不可逆的な解決』が両政府の間で確認もされている。それにもかかわらず、このような判決が出されたことは極めて遺憾であり、日本政府として、断じて受け入れることはできない。極めて強く抗議した」と述べました。

そのうえで「韓国が国家として国際法違反を是正するために適切な措置を講じるよう強く求める。また今月13日に判決が予定されている類似の訴訟においても、訴訟は却下されなければならず、韓国政府が日韓合意に従って適切な対応をとることを強く求める」と述べました。

一方、加藤官房長官は「国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められないという立場から、日本政府が控訴する考えはない」と述べました。

外務次官 韓国の駐日大使に抗議

外務省の秋葉事務次官は、8日午前11時半ごろ、韓国のナム・グァンピョ(南官杓)駐日大使を外務省に呼んで、およそ10分間面会しました。

この中で、秋葉次官は、主権国家はほかの国の裁判権に服さないとされる、国際法上の「主権免除」の原則を否定した今回の判決は極めて遺憾であり、日本政府として断じて受け入れられないとして、抗議しました。

また、慰安婦問題を含む日韓の財産・請求権の問題は1965年の請求権協定で完全かつ最終的に解決済みであり、慰安婦問題については2015年の日韓合意で「最終的かつ不可逆的な解決」を両国政府で確認しているとして、韓国政府に対し、国際法違反の状態を是正するよう重ねて求めました。

面会のあとナム大使は、記者団に対し「今回の判決と関連する日本政府の立場を聞いた。私たちとしては日韓関係に影響を与えないよう解決のための努力をするつもりだと伝えた」と述べました。