費の懇談会に
1.5万円のコース料理や酒

東京・千代田区の区長が、町会長など100人以上を招待して毎年開いている区の懇談会で、1人1万5000円前後のコース料理や酒が無料で提供されていたことが関係者への取材で分かりました。全額公費でまかなわれていますが町会長の妻も招かれており、専門家は「懇談会の域を超えていて、区の主催とはいえ、法律で禁止されている有権者への寄付と疑われる可能性がある」と指摘しています。

千代田区は、毎年11月から12月にかけて、区内のすべての町会長を招いた懇談会をホテルで開いています。

招待状は石川雅己区長(79)の名前で出されていて、毎年区長を含む180人前後が参加するということですが、この懇談会で、1人1万5000円前後のコース料理や酒が無料で提供されていたことが、関係者への取材で分かりました。

NHKが入手した資料によりますと、このうち去年12月の懇談会では、キャビアを添えた真鯛のマリネや牛フィレ肉のグリエなどフランス料理のフルコースと、ワインなどの飲み物が提供されていました。

部屋の代金などを含むおよそ350万円の費用は、全額公費でまかなわれていますが、懇談会には町会長の妻も招かれていました。

また、少なくとも平成28年までの7年間は区長の妻も参加していたということです。

区の懇談会自体は昭和37年に始まりましたが、ホテルで町会長夫妻を招く形式になったのは石川区長が就任した翌年の平成14年からだということです。

町会の女性役員招いた懇談会も

千代田区では、町会長とは別に町会の女性役員を招いた懇談会も、石川区長が就任したあとの平成19年からホテルで開かれています。

関係者への取材やNHKが入手した資料によりますと、参加者は新旧の女性役員や区長など合わせて120人前後で、1人1万円前後の料理や酒などに加え、手土産のケーキやパイも無料で提供されているということです。

この懇談会も部屋の代金などを含む200万円前後が全額公費で賄われており、少なくとも平成28年までの7年間は区長の妻も参加していました。

NHKが東京23区と全国の政令指定都市に取材したところ、町会長とは別に女性役員を招いた懇談会を開いているのは千代田区だけでした。

参加した町会長と区民の声

区の懇談会に毎年参加しているという町会長の男性は「街の清掃など、ふだんの活動に対する感謝の意味を込めて区が招待してくれていると考え、参加していました。懇談会の内容が豪華だとか問題があると思ったことはなく、このような席が年に1回くらいはあっていいと思います。ただ、新しく来た住民などがどう受け止めるかということについては、一度立ち止まって考える必要があるかもしれない」と話していました。

一方、千代田区に住む80代の女性は「招待された人たちは、ふだんはそんな高いお金を払って飲み食いしないはずです。それがすべて税金で賄われているというのは、区の財源があるかどうかにかかわらず問題だと思います」と話していました。

専門家「町会の懇談会の域を超えている」

公職選挙法などに詳しい日本大学の岩井奉信教授は、自治体が主催する懇談会の費用について明確な基準はないものの、国家公務員倫理法で、課長補佐級以上の職員が5000円を超える接待を受けた場合に報告を義務づけていることが1つの目安になるとしています。

そのうえで、「大都市では地域の活動を担ってくれる人がいない現状があり、その人たちをねぎらう場は当然あっていいと思うが、1人1万5000円前後という金額は行き過ぎで、さらに夫妻を招くとなれば町会の懇談会の域を超えている。これほどの内容であれば、区の主催とはいえ、区長が公金を使って公職選挙法が禁じる有権者への寄付を行っていると疑われる可能性がある。区議会がチェック機能をきちんと果たし、税金の無駄遣いを改めるべきだ」と指摘しています。

石川区長「適正な支出だと考えます」

懇談会について千代田区の石川雅己区長はNHKの取材に対し、「広く地域課題を共有できる貴重な場となっており、その目的を果たすための適正な支出だと考えます」などとコメントしています。

東京23区と政令市の状況は

町会長や自治会長を招いた懇談会の開催状況について、NHKは東京23区と全国の政令指定都市に取材しました。

このうち東京23区では、千代田区のほかに公費で飲食を伴う懇談会を開いているのは新宿区、中央区、江東区、大田区、台東区、板橋区、江戸川区の7つの区でした。

また、品川区と荒川区は区ではなく町会側の主催ですが、費用の全額が区の補助金で賄われているということです。

参加者1人当たりの費用は板橋区の1000円から新宿区の1万円程度まで区によって大きく差がありますが、千代田区が最も高い金額になっていました。

町会長の妻を招待している区は、千代田区のほかにはありませんでした。

このほか、町会側が主催し区長らは私費で参加しているという区や、提供するのはお茶だけという区も複数ありました。

千代田区の懇談会について、別のある区の幹部は「一般的な儀礼の範囲を超えた、ありえない対応だ。区の財政規模にかかわらず、住民監査請求で公金の不当な支出と指摘されるおそれもあり、私たちの区ではとても認められない」と話していました。

一方、全国の政令指定都市では、公費で飲食を伴う懇談会を開いていると回答したのは川崎市と仙台市だけでした。いずれも町会長を10年以上務めた人が対象で、1人当たりの費用は2000円から3000円程度だということです。

過去には自治体の幹部に費用返還命じた判決も

自治体が開催する懇談会をめぐっては、過去に、公費で賄っていた飲食代について自治体の幹部に費用の一部を返還するよう命じた判決があります。

大津市では、平成13年までの5年間に開かれた、当時の市長らと自治会の役員との懇談会について、1人当たりおよそ1万円の飲食代を公費で支払ったのは違法だなどとして、市民グループが市長らに費用の返還を求める住民訴訟を起こしました。

大津市は当時、懇談会の公費負担を「1人につき1万円以内」とする要綱を定め、毎年50万円から60万円ほどを支出していました。

平成15年の判決で、大津地方裁判所は公費で懇談会を開催すること自体は直ちに違法とはいえないとする一方、地方財政法で「経費は目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない」と定めていることや、国家公務員倫理法で課長補佐級以上の職員が5000円を超える接待を受けた場合に報告を義務づけていることなどを挙げたうえで、「多くとも1人当たり6000円までを相当な支出というべきで、それを超える部分については裁量を逸脱した違法なものだ」という判断を示しました。

そのうえで当時の市長らに対し、合わせておよそ110万円を市に返還するよう命じました。

この判決が確定したことを受けて大津市は懇談会を中止したうえで要綱を改正し、飲食代の公費負担を「1人につき6000円以内」と改めました。さらに、3年前には「市民から疑念を持たれる支出はないほうがいい」として、公費で負担する仕組みそのものを廃止したということです。