設業界 苦境に立つ
「一人親方」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で工事の中断が行われた建設業界。個人で工事を請け負う「一人親方」の多くが収入を失い、苦境に立たされています。専門家は、立場の弱い建設職人にしわ寄せがいきやすい業界特有の構造が背景にあると指摘しています。

工事現場中断影響受ける「一人親方」

先月から工事の中断が相次いだ建設現場。39の県で緊急事態宣言が解除された前後から工事の再開が続いていますが、一部は今も中断されています。

その影響を大きく受けているのが、個人で工事を請け負う「一人親方」と呼ばれる職人です。

その1人、住宅の基礎工事を専門とする千葉県の50歳の男性は、工事の中断の影響で、先月からおよそ1か月にわたってすべての仕事がなくなりました。

一部の現場は動いていたものの、建設会社の社員に優先的に仕事が割りふられたため、個人で工事を行う男性のような「一人親方」に仕事が回らなくなったといいます。

男性は、「私たちの仕事が1番先に削られていくことを痛感しました。毎日眠れなかったり部屋で1人で暴れたりするほど気持ちが追い詰められました」と胸の内を語りました。

現場止まると収入がゼロに

国土交通省などによりますと、「一人親方」は、全国で少なくとも50万人いると推計されています。

「一人親方」は個人事業主として働いていて現場で働いた日数などに応じて報酬が支払われるため、工事現場が止まるととたんに収入がゼロになります。

50歳の男性も1か月分の収入が途絶え、住宅ローンや税金など毎月10万円を超える出費をまかなうため食事を1日1回に抑えるなど生活を切り詰めていました。

今週になって再開した現場で働き始めることができましたが、いつまた現場が止まるかわからず不安は残るといいます。

男性は「現場が再開して安心したい気持ちはありますがまた仕事がなくなった時、心が折れてしまいそうです。この状況が続くかぎり、もう安心することはできないかもしれません」と話していました。

組合にも相談相次ぐ 声明も

建設労働者で作る労働組合には、こうした一人親方や中小企業の職人からの収入や労働環境の問題についての相談が相次ぎ、首都圏だけで1000件以上にのぼっています。

このため、首都圏の労働組合は、先月28日、国や自治体、ゼネコン各社に対し一人親方を含む建設従業者の休業補償などの生活支援に加え、建設現場での感染予防の徹底を求める声明を発表しました。

全国建設労働組合総連合・関東地方協議会は「立場の弱い一人親方や中小零細企業にしわ寄せがいっている。引き続き、国や自治体、ゼネコンには補償などの生活支援を求めていきたい」と話しています。

専門家「重層下請け構造」の問題

建設業の雇用問題に詳しい芝浦工業大学の蟹澤宏剛教授は、この機会に業界のあり方を見直す必要があるとしています。

建設業界では、ゼネコンなどの元請け企業が下請け、孫請け企業と工事を発注することで労働力を確保していて、重層的に連なっていることから「重層下請構造」と呼ばれています。

蟹澤教授は、「『重層下請構造』の中で、その下層に位置し、比較的立場の弱い一人親方などは仕事が減ればあぶれてしまう。以前からの課題だったが、今回、改めて浮き彫りになった」と指摘しました。

そのうえで、「建設業は今、外国人技能実習生がいなければ成り立たないほど人手不足の状態で、この問題を放置すれば、今後、ますます不足が進んでしまう。結果的に、道路などのインフラや住宅の維持・補修のほか、災害の復旧にも支障が出るおそれがあり、この機会に、業界のあり方を見直していく必要がある」と話していました。