女川原発2号機 事実上
審査合格 被災原発で2基目

東北電力が再稼働の前提となる審査を申請していた宮城県にある女川原子力発電所2号機について、原子力規制委員会は新しい規制基準に適合しているとして27日、事実上の合格を示す審査書案を取りまとめました。今後、正式に合格する見通しで、その場合、東日本大震災で被害が出た原発では2基目となります。
東北電力は東日本大震災から2年後の平成25年、女川原発2号機について再稼働の前提となる審査を原子力規制委員会に申請しました。

規制委員会では、東北電力が想定される津波の高さを最大で23.1メートルとより厳しく見直したことや、その対策として防潮堤をかさ上げして29メートルにするとしたことなど、会社の示した対応が新しい規制基準に適合しているか議論してきました。
そして27日の規制委員会の定例会で審査に事実上合格したことを示す審査書案を委員の全会一致で取りまとめました。
これにより今後、一般から意見を募るパブリックコメントなどを経て、正式に審査に合格する見通しとなりました。
東日本大震災の地震や津波で被害を受けた原発でこれまで審査に合格したのは、茨城県にある日本原電の東海第二原発だけで、女川原発2号機が合格すると2基目となります。
また、事故を起こした東京電力の福島第一原発と同じ沸騰水型と呼ばれる仕組みの原発では4基目になります。
女川原発2号機の耐震や津波対策の工事は来年度中に終わる計画ですが、実際に再稼働するためには審査の合格以外にも地元自治体の了解なども必要で、現時点では具体的な時期のめどはたっていません。
女川原発は2号機のほかに2つの原子炉があり、1号機はすでに廃炉が決定しています。3号機については2号機と同様、東北電力は再稼働させたい考えで、今後、審査の申請を検討しています。

原子力規制委員会の更田豊志委員長は「非常に大きな自然災害を経験した原発であるだけに、審査を慎重に行った。東北電力は、もともと自然災害に対する意識を強く持っている組織だと思うが、東日本大震災を受けて、対策は十分であるか検討を加えて、今回の審査の判断に至った」と述べました。
東北電力社長「再稼働では地域の理解が何よりも重要」

原子力規制委員会が、女川原子力発電所2号機について事実上の審査合格を出したことを受け、東北電力の原田宏哉社長はコメントを発表しました。
この中で原田社長は「これまで全社をあげて審査に真摯(しんし)かつ丁寧に対応してきた。一つの大きな節目を迎えたものと考えている」としています。
そのうえで「再稼働にあたっては地域の皆様のご理解が何よりも重要と考えている。さまざまな取り組みを積み重ねることによって、一人でも多くのかたからご理解いただけるよう努めてまいります」とコメントしています。
宮城 村井知事「総合的に判断して決める」

女川原発2号機について、原子力規制委員会が事実上の審査の合格を示す審査書案をまとめたことについて、宮城県の村井知事は「非常に厳格に審査が行われたものと思っている」と述べました。
そのうえで、原発の再稼働について「現時点では賛成とも反対とも言えない。県が行っている安全性検討会の結論、県内の市町村の考えかた、県議会の考えかた、そういったものを総合的に判断して決める」と述べ、現時点で明確な姿勢は示さず、地元自治体の意見などを基に検討していく考えを示しました。
女川町長「引き続き厳格対応求める」
原発が立地している宮城県女川町の須田善明町長はコメントを発表しました。
この中で「今後は科学的・技術的な意見募集が実施され、その後に最終判断がされるものと認識している」としたうえで、「原子力規制委員会に対して引き続き、厳格な対応を求めるとともに、安全性に関する検討会の場などを活用しながら、さらなる安全性の向上などについて確認する。事業者に対しても、安全確保を最優先とした対策工事の実施をはじめ、住民へのわかりやすい情報提供を要請していきたい」などとコメントしています。
石巻市長「経過を注視したい」
原発が立地している石巻市の亀山紘市長は「これからパブリックコメントが募集されると思うので、引き続き経過を注視したい」と述べました。
そのうえで再稼働への合意については「はっきりと判断できていないのが現状だ。避難計画の実効性について市民が心配しているのも事実で、今後、安全性について確認したい。最終的に合意するかどうかは住民の声や市議会の意見も聞いて進めていきたいが、どちらにしても厳しい判断が迫られる」と述べ現時点で明確な姿勢は示しませんでした。
近くの住民からは不安の声も
女川原子力発電所2号機について原子力規制委員会は、事実上の合格を示す審査書案をまとめたことについて、発電所近くの住民からは不安の声も上がっています。
女川原子力発電所から5キロ圏内の石巻市寄磯地区で区長を務める渡辺洋悦さん(67)です。
重大な原子力事故が起きた場合、市などの広域避難計画では、住民は自家用車を使って指定の場所に移動することになっています。
しかし、東日本大震災の時、牡鹿半島の位置する寄磯地区から避難する際、市中心部や隣の女川町に通じる道路が土砂崩れで寸断され、住民が一時、孤立状態に陥ったいきさつがあります。
また半島部には道幅の狭い道路が点在していて、およそ200人が住む寄磯地区から住民が一気に車で避難した場合、混み合ってスムーズな避難が難しいのではないかと不安を抱えています。
このため渡辺さんたち地域の住民は仮に孤立状態に陥った場合、風の流れを見ながら被ばくしない方向へ漁船で避難することも考えているということです。
渡辺さんは「この地区の周辺にはリスクがあちらこちらにある。自治体には、住民の意見に耳を傾け、道幅を広くするなどの対応を早く取ってほしい」と話しています。
市民団体「避難計画の審議なし 遺憾で残念」
原発が立地する石巻市の市民でつくる「女川原発の避難計画を考える会」の原伸雄代表は「この結果は織り込み済みだが、原子力規制委員会が避難計画について審議していないことは遺憾で、残念だ」と述べました。
そのうえで「原子力災害時の最後のよりどころが避難計画であり、それに直接責任を持つのが自治体のトップだ。知事や市長はその認識を持ち、同意を求められたときには『ノー』と言ってもらいたい」と話し、宮城県や石巻市は、原発の立地自治体として、再稼働に同意するべきではないという考えを示しました。
「女川原発の避難計画を考える会」のメンバーは、宮城県や石巻市が策定した避難計画は実効性がないとして、再稼働に同意しないよう求める仮処分を、仙台地方裁判所に申し立てています。
東日本大震災の時は
東北電力の女川原子力発電所は、太平洋に面した宮城県女川町と石巻市にまたがって立地しています。1号機から3号機まで3つの原子炉があり、東日本大震災の際には、震源に近い原発だったため地震の強い揺れと大きな津波に襲われました。
地震は女川町で震度6弱を観測し、運転中だった1号機と3号機、そして、原子炉を起動した直後だった2号機の3基とも地震の揺れを感知して自動で原子炉が停止しました。
施設は、発電機につながるタービンの設備が地震で壊れるなどの被害がありました。
一方、女川原発を襲った津波は13メートルの高さに及びました。女川原発の敷地は高台で海抜がおよそ15メートルあったため、津波は敷地までは達しませんでしたが、原子炉などの冷却に使う海水を取り込む取水路から津波が流入し、非常用発電機の設備の一部が故障しました。
ただし、外部から電気を受ける送電設備の被害は限られたため、原子炉の冷却は行うことができました。このためメルトダウンを起こした福島第一原発のような重大な事故には至らず、放射性物質の漏えいはありませんでした。
2号機 再稼働に向けた対策
震災から2年後、東北電力は2号機について、新たな規制基準に基づいて再稼働の前提となる審査を原子力規制委員会に申請しました。
震災の前と比較すると、原発で想定される最大の地震の揺れを580ガルから1000ガルに引き上げました。また津波の高さの想定は13.6メートルから23.1メートルに引き上げるなどより厳しく見直しました。
それに伴った対策についても、震災後、緊急でつくった海抜17メートルの高さの防潮堤をさらに海抜29メートルまでかさ上げする工事をはじめとして、津波対策や耐震強化の対策を進めています。
東北電力はこうした工事を来年度中に終えるとしています。
全国の原発の状況まとめ
<合格した原発は>
これまでに原子力規制委員会による新しい規制基準の審査に合格した原発は8原発15基です。
女川原発2号機がこのあとパブリックコメントなどを経て、正式に合格すると16基目となります。
<すでに再稼働したものは>
地元自治体の了解なども得てすでに再稼働した原発は、鹿児島県にある川内原発1号機と2号機、佐賀県にある玄海原発3号機と4号機、福井県にある高浜原発3号機と4号機、大飯原発3号機と4号機、愛媛県にある伊方原発3号機の合わせて5原発9基です。
<廃炉が決まった原発>
一方、東日本大震災のあと、廃炉が決まった原発はメルトダウンを起こした福島第一原発をのぞくと、福井県の敦賀原発1号機、美浜原発1号機と2号機、大飯原発1号機と2号機。
島根県にある島根原発1号機、佐賀県にある玄海原発1号機と2号機。
愛媛県にある伊方原発1号機と2号機、宮城県にある女川原発1号機、それに福島県にある福島第二原発の1号機から4号機の合わせて8原発15基です。