金動向の判断に影響を
与えると考えてない」首相

衆議院予算委員会で安倍総理大臣は、厚生労働省の統計不正問題をめぐり、野党側が、去年1月から11月までの物価の変動分を反映した実質賃金の伸び率を独自に集計したところ大半がマイナスとなったと指摘したのに対し、名目賃金に大きな影響はなく、賃金が増加傾向にあるとする判断は変わらないという考えを示しました。

国民 山井氏「実質賃金の伸び率 認識は?」

5日も衆議院予算委員会では、4日に続いて厚生労働省の統計不正問題を中心に議論が交わされました。

この中で、国民民主党の山井和則氏は、野党側が、去年1月から11月までの物価の変動分を反映した実質賃金の伸び率を、前の年と調査対象を変えずに独自に集計したところ大半がマイナスとなったと指摘したうえで、「最新のマスコミの世論調査では、アベノミクスによる景気回復を実感しているのはたった16%だ。消費税増税とか景気対策を議論する上で、安倍総理大臣が、名目賃金より国民の生活実感に近い実質賃金の伸び率が、昨年、プラスと認識しているのか、マイナスと認識しているのかが非常に重要だ」とただしました。

これに対し、安倍総理大臣は「平成30年の参考値については、今回の再集計で大きな影響を受けていないものと承知しており、そのことはこれまでの賃金動向に関する判断に影響を与えるとは考えていない。そのうえで参考値をベースとした実質賃金の算出が可能かどうかについては、担当省庁で検討を行っているものと承知している」と述べ、名目賃金に大きな影響はなく、賃金が増加傾向にあるとする判断は変わらないという考えを示しました。

共産党 塩川氏「統計職員削減のしわ寄せでは?」

共産党の塩川鉄也氏は、国と地方の統計業務に関わる職員数が去年までの14年間に6割減っていると指摘したうえで「統計職員の削減で統計業務にしわ寄せが起き、結果として不正を生じさせたのではないのか」とただしました。

これに対し、安倍総理大臣は「適切な配置を進めてきたところだが、今回の問題を受けて、統計委員会に設置した点検検証部会で、どのような背景があったかについて、職員業務の実態、予算、人員等のリソースの配分の状況等、また調査対象、調査方法等の統計業務の在り方を含めて検証を行い、総合的な対策を講じていく考えだ」と述べました。

維新 丸山氏「調査の中立性 統一基準は?」

日本維新の会の丸山穂高氏は「特別監察委員会の調査自体の中立性を国民が疑問に思っている。事業を行う官庁が監査までするのでは第三者性も中立性も疑われて当然だ。政府として、こうした事態が起きた場合の統一の基準があるのか。ないのなら作るべきではないか」と質問しました。

これに対し、安倍総理大臣は「第三者委員会の構成や調査の在り方、事務局の役割については具体の調査対象事案の内容などに応じて、個別・適切に決定していくことが必要で、一律のガイドラインを整備することにはなじまない面もある。いずれにせよ、調査の客観性や中立性に関する疑念を抱かれることがないよう対応することが重要だ」と述べました。

一方、日銀の黒田総裁は、厚生労働省の統計不正問題による日銀の景気分析などへの影響について「統計作成という点からは企業向けサービス価格指数において毎勤統計を使っている。また需給ギャップも分析データとして使っているが、影響は限定的だった」と述べました。そのうえで、黒田総裁は「日銀としても毎月勤労統計を利用して景気判断を行っていることは事実だが、景気判断自体はGDP、その他各種の経済統計、経済指標を総合的に検討しているので、景気判断が大きく変わるということはない」と述べました。

統計不正問題 焦点の一つは「賃金の伸び」

この問題の焦点の1つが、賃金の伸びです。

「毎月勤労統計調査」では、賃金の伸びについて、さまざまな従業員数の事業所を対象に、年ごとに調査対象の一部を入れ替えて集計しています。
当初、政府が公表した去年6月の「名目賃金」の伸びは3.3%で、21年ぶりの大幅な伸びとなっていました。

ただ、本来、従業員が500人以上の大規模な事業所については、すべて調査するルールになっていましたが、厚生労働省は一部の事業所しか調査していませんでした。

そのため、厚生労働省がすべてを調査した場合の結果に近づくよう、統計上の処理をほどこし集計しなおしたところ、賃金の伸びは0.5ポイント下がり2.8%となりました。

国の統計を所管する総務省の統計委員会は「景気指標として、賃金の変化率をみる場合、共通事業所どうしの比較を重視すべき」としていることを踏まえ、さらに厚生労働省が前の年と同じ事業所のみについて集計したところ、賃金の伸びはさらに1.4%に下がりました。

これに対し野党側は、物価の変動分を反映させ、国民の生活実感により近い「実質賃金」で比較すべきだとして、独自に集計したところ、去年6月の賃金の伸びは0.6%にとどまりました。
さらに1月から11月までの大半でマイナスとなりました。

野党側は、ことし10月からの消費税率の引き上げにも関係するとして、政府に「実質賃金」の伸びを示すよう求めていますが、政府は統計上適切か専門家が検討しているとして、態度を明確にしていません。