国政府 元慰安婦の
支援財団の解散を発表

韓国政府は、慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づいて韓国政府がおととし設立し、日本政府が10億円を拠出した元慰安婦を支援する財団を解散すると発表しました。日本政府は、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意の着実な履行を繰り返し求めてきただけに、日韓関係への影響は避けられない見通しです。

これは、韓国政府が21日午前、チン・ソンミ(陳善美)女性家族相の声明として発表したものです。

それによりますと、慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意に基づいて、韓国政府が設立した元慰安婦を支援する「和解・癒やし財団」について「『被害者中心主義』の原則で、財団に対する多様な意見を集めた結果などをもとに解散を推進する」としています。

その中で「『被害者中心主義』の原則で、財団に対する多様な意見を集めた結果だ」と解散を決めた理由を説明しました。

これに関連し女性家族省は、最長で1年程度をめどに財団を解散するための手続きを終わらせるほか、日本政府の拠出金について、現在残る5億8000万円を返還するのか、慰安婦問題に関する別の事業に使うのかなど、その扱いについて、日本政府と協議したいとしています。

また韓国外務省はコメントを発表し、「2015年の日韓合意では問題は解決できないが、これを破棄したり、再協議を要求したりしないという立場に変化はない」と強調しましたが、韓国メディアは、「合意は事実上、無効化された」などと伝えています。

韓国政府としては、日本政府との協議を早期に進めたい考えですが、韓国では来週29日に太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、最高裁判所が先月に続いて日本企業に賠償を命じる可能性が高く、日韓関係はさらに冷え込むことが予想されます。

財団をめぐる経緯

【3年半ぶり日韓首脳会談】
慰安婦問題めぐっては、3年前の2015年11月、安倍総理大臣と当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領が、およそ3年半ぶりとなる正式な首脳会談を行い、早期の解決を目指すことで一致しました。

【日韓合意】
そして翌月の12月28日。当時の岸田外務大臣と韓国のユン・ビョンセ(尹炳世)外相が、慰安婦問題をめぐる日韓合意を発表。日韓合意では、日韓両政府は、韓国政府が設置する財団に日本政府が資金を拠出し、元慰安婦への支援事業を行うとしたうえで、「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と明記されました。

【和解・癒やし財団設立】
合意に基づいて、おととし2016年7月、韓国政府は、ソウルに「和解・癒やし財団」を設立。ただ、発足当日の記者会見場に、反対する韓国の市民団体のメンバーが乱入するなど、波乱含みのスタートとなりました。

【支援事業開始】
一方、日本政府は翌8月に、10億円の拠出を閣議決定。これを受けて支援事業が始まり、合意の当時生存していた元慰安婦の女性47人の4分の3以上にあたる36人が支援を受け入れる意向を示し、これまでに、34人に1人当たり1000万円程度の支援金が支給されました。

【ムン・ジェイン(文在寅)就任】
しかし去年5月、パク・クネ前大統領が罷免されたのを受けて行われた大統領選挙で、パク氏の弾劾を主導したムン・ジェイン大統領が就任。

【「受け入れられず」】
ムン大統領は、日韓合意について、「国民の大多数が情緒的に受け入れられずにいる」と表明し、交渉過程を再検証するよう指示。韓国外務省の作業部会は去年12月に、「被害者の意見を十分に集約しなかった」などとパク・クネ政権時の対応を批判する検証結果を発表しました。

【財団活動停滞】
こうした中、財団の8人の理事のうち5人が、「韓国政府の支援が得られない」として、辞表を提出するなど、財団の活動は停滞。韓国の閣僚からも財団の解散を示唆する発言が出始めます。

【日韓首脳会談】
ことし9月の日韓首脳会談では、ムン大統領が財団について、「元慰安婦と国民の反対で、正常に機能しておらず、国内で財団解体を要求する声が大きいのが現実で、賢く解決することが必要だ」と述べたと韓国側が発表。

【日本は合意履行要請】
日本政府はこうした韓国側の対応は「日韓合意の精神と相いれない」などとして繰り返し合意の着実な履行を要請していました。

2015年の日韓合意とは

日韓両政府は、2015年12月にソウルで行われた外相会談で、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決するとした合意に達しました。

合意では、日本政府が「当時の軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題で責任を痛感する」としたうえで、「安倍総理大臣は日本国の内閣総理大臣として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」としています。

そのうえで、韓国政府が設立する財団に日本政府が10億円を拠出して、元慰安婦の女性たちの名誉と尊厳の回復と心の傷を癒やすための事業を行うことになりました。

そして、日韓両政府がこうした措置を着実に実施するという前提で、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認しました。

また、ソウルの日本大使館の前に設置された慰安婦問題を象徴する少女像については、韓国側が関連団体との協議を行うなどして、適切に解決されるよう努力することが盛り込まれました。

さらに、日韓両政府が国連など国際社会で慰安婦問題をめぐって互いに非難や批判をすることを控えるとしています。

「ナヌムの家」は解散を歓迎

韓国政府が元慰安婦を支援する財団を解散すると発表したことについて、一部の元慰安婦の女性たちが暮らすソウル近郊の施設、「ナヌムの家」を運営する市民団体が声明を発表しました。

それによりますと、「元慰安婦を徹底的に排除した日韓両政府の政治的な野合で設立された財団が、解体されるという便りに施設にいる元慰安婦たちは喜んでいる」としています。

そのうえで「元慰安婦たちは日本が送ってきた10億円の速やかな返還を望んでおり、韓国政府は合意の廃棄や無効化に向けて努力してほしい」として、財団のために、日本政府が拠出した10億円を返還し、日韓の合意そのものを破棄するよう求めました。

合意が結ばれた当時、生存していた47人の元慰安婦の女性のうち、これまでに4分の3以上が支援事業を受け入れていますが、この市民団体は、一貫して合意に反対してきました。

日本大使館前 市民団体が財団解散を歓迎

ソウルの日本大使館の前に設置された慰安婦問題を象徴する少女像の前では毎週水曜日に市民団体が抗議集会を開いていて、21日、集まった参加者からは「和解・癒やし財団」の解散を歓迎する声が聞かれました。

市民団体の代表がおよそ80人の参加者に向けて「財団の解散発表を歓迎する。これは日韓合意の無効宣言だ」と声を上げました。

そして「日本政府は多くの女性に苦痛を与えた犯罪の真相を究明し、それを認めなければならない」と述べ、日本政府に謝罪と賠償を求めました。

また、表と裏にそれぞれ「2015年日韓合意」「和解・癒やし財団」と書かれた紙を、参加者全員で破り捨て、慰安婦問題をめぐる日韓合意は無効だと訴えました。

韓国市民の反応

ソウルの市民からは「解散は正しい」などと好意的に受け止める声が多く出た一方、「国どうしの約束は守らなければいけない」という意見も聞かれました。

30代の女性は「元慰安婦の女性たちを思うと財団の解散は正しいだろう。合意を結んだパク・クネ(朴槿恵)前大統領は弾劾されており、首脳どうしの約束だから守らなければいけないという日本の考えには無理がある」と話し、財団の解散を歓迎しました。

50代の女性は「合意は元慰安婦の意見を十分に聞いてまとめたものではなく、無効だ。日本は謝罪と補償をしなければならない」と述べ、2015年の日韓合意は無効だと訴えていました。

一方、70代の男性は「元慰安婦一人一人の事情や考え方は違うだろうが、国どうしの約束は守らなければならない。日本は隣国だし、いい関係を築かなければならない」と話していました。

このほか若者を中心に財団の解散について「知らない」「関心がない」という声も聞かれました。

安倍首相「責任ある対応を」

韓国政府が、日韓合意に基づいて設立した元慰安婦を支援する財団の解散を発表したことについて、安倍総理大臣は総理大臣官邸で記者団に対し、日韓合意は最終的かつ不可逆的な解決だとしたうえで、韓国は責任ある対応をすべきだという認識を示しました。

この中で安倍総理大臣は、「3年前の日韓合意は最終的かつ不可逆的な解決だ。日本は国際社会の一員として、この約束を誠実に履行してきた」と述べました。

そのうえで安倍総理大臣は「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう。韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたい」と述べました。

菅官房長官「日韓合意の着実な実施が重要」

菅官房長官は午後の記者会見で「発表は日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられない。合意は外相間で協議を行い、その直後に首脳間でも確認し、韓国政府としての確約を取り付けたものであり、たとえ政権が代わったとしても責任を持って実施されなければならない」と指摘しました。

そのうえで「合意は国際社会からも高く評価されたものであり、合意の着実な実施は、わが国に対してはもとより国際社会に対しての責任でもある。日本は日韓合意のもとで約束した措置をすべて実施してきており、国際社会が韓国側の合意の実施を注視している状況で、日本としては引き続いて韓国に対して日韓合意の着実な実施を求めていきたい」と述べました。

さらに、日本側が拠出した10億円の扱いについて「韓国側に対して、財団の残金が韓国による日韓合意の着実な実施との観点から適切に使用され、日本政府の意向に反する形で使用されることのないように強く求めていきたい。日本政府は日韓合意に基づいて一括で拠出した10億円の返還を求めることは考えていない」と述べました。

外務省が韓国の駐日大使に抗議

韓国政府が元慰安婦を支援する財団の解散を発表したことを受けて、外務省の秋葉事務次官は韓国の駐日大使を呼び、「到底受け入れられない」と抗議したのに対し、韓国側は日韓合意を破棄したり再交渉を求めたりする考えはないと説明しました。

韓国政府が慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づいて設立した、元慰安婦を支援する財団の解散を発表したことを受けて、外務省の秋葉事務次官は21日正午ごろ、韓国のイ・スフン(李洙勲)駐日大使を外務省に呼び、およそ15分間面会しました。

この中で秋葉次官は「日韓合意に照らして問題であり、到底受け入れられない」と抗議したうえで、「合意の着実な実施は国際社会に対する責務であり、国際社会が韓国側の対応を注視している」と述べました。

これに対して、イ大使は「韓国として日韓合意を破棄することはなく、再交渉を求めることもない」と説明したうえで、日本側の申し入れを韓国政府に伝えると述べました。

河野外相「受け入れられない」

河野外務大臣は「解散は日韓合意に照らして問題で、日本として到底受け入れられない。日韓合意は外相間で協議を行い、直後に首脳間でも確認し、韓国政府としての確約を取り付けたものであり、たとえ政権が代わっても責任を持って実施されるべきだ」と述べました。

そのうえで「合意は国際社会からも高く評価されており、着実な実施はわが国はもとより国際社会に対する責務だ。日本は日韓合意の下、約束した措置をすべて実施してきており、国際社会が韓国側による合意の実施を注視している」と述べ、引き続き韓国側に日韓合意の着実な実施を求める考えを示しました。

また、日本側が拠出した10億円の扱いなどについて、「日韓合意に基づいて日本政府が拠出したものなので、合意の履行のために使われるべきで、日本政府の意向に反するような使われ方はしないのが大前提だ。韓国側がしっかり対応してくれるものと思っているが、必要なら話し合いをしていきたい」と述べました。

当時の外相 岸田氏「大変遺憾 合意履行を」

日韓合意の当時外務大臣だった自民党の岸田政務調査会長は記者会見で「財団の解散は合意に反するもので大変遺憾だ。韓国政府は再三、『合意は破棄せず、再交渉は求めない』と強調しており、責任ある対応を求めなければならない。わが国は合意内容をすべて履行しており、韓国政府にもしっかり履行を求めたい」と述べました。

国民 玉木氏「地域の平和に大きなマイナス」

国民民主党の玉木代表は記者会見で「財団の解散は日韓合意に反するもので、大変遺憾だ。国と国との約束はしっかり守ってほしい。日韓関係だけでなく、地域全体の平和と繁栄に大きなマイナスの影響を与えることを強く懸念している」と述べました。

公明 石田氏「約束の履行は当然」

公明党の石田政務調査会長は記者会見で「日本はいろいろな議論があっても誠意を持って進めている。国と国で約束したことを履行していくのは当然であり、韓国政府には誠実な実行をお願いしたい」と述べました。

維新 馬場氏「これ以上 韓国との交渉 不必要」

日本維新の会の馬場幹事長は記者会見で「財団を解散するのはよいが、宿題は積み残されており、国と国との約束を破ることには甚だ疑問を感じる。この問題についてこれ以上、韓国と交渉する必要はない」と述べました。

日韓関係 先月以降急速に悪化

未来志向の日韓関係をうたった「日韓共同宣言」から20年の節目となることし、日本政府は、関係改善を模索してきましたが、先月以降、日韓関係は急速に悪化しています。

先月、韓国で行われた国際観艦式では、韓国側が自衛艦の旗である旭日旗は国旗ではないなどとして掲揚を認めず、自衛隊の艦船の派遣が見送られました。

しかし、自国の艦船には豊臣秀吉の朝鮮侵略と戦った将軍を象徴する旗を掲げ、日本側は「矛盾した対応だ」と抗議しました。

徴用工判決

先月30日には、国交正常化の際に日韓両政府が解決済みとしてきた太平洋戦争中の徴用をめぐる問題で、韓国の最高裁判所が、新日鉄住金に賠償を命じる判決を言い渡し、溝はさらに深まります。

河野外務大臣は、韓国のイ・スフン駐日大使を呼び、「国交正常化以来築いてきた両国の友好関係の法的基盤を根本から覆すものだ」として適切な対応を要請。記者会見では、「判決は暴挙だ」などと厳しく批判しました。

徴用をめぐる裁判では来週29日に、三菱重工業に損害賠償を求める判決の言い渡しが予定されていて、同様の判決が出ることも予想されます。

日韓関係が悪化する中、慰安婦問題をめぐる合意の根幹となっていた財団の解散を韓国側が発表したことで、政府内では関係の修復はますます困難になったという見方が広がっています。