安全保障関連3文書 政府が閣議決定 「反撃能力」の保有を明記

政府は、16日、臨時閣議で「国家安全保障戦略」など3つの文書を決定しました。
敵の弾道ミサイル攻撃に対処するため、発射基地などをたたく「反撃能力」の保有が明記され、日本の安全保障政策の大きな転換となります。

政府は16日の臨時閣議で、
▽外交・安全保障の最上位の指針である「国家安全保障戦略」、
▽防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」、
▽防衛費の総額や装備品の整備規模を定めた「防衛力整備計画」の
3つの文書を決定しました。

このうち、「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」には、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」を保有することを明記しています。

「反撃能力」を「必要最小限度の自衛の措置」と定義し、「専守防衛」の考え方に変わりがないことを強調するとともに、日米両国が協力して対処するとしています。

「反撃能力」はこれまで「敵基地攻撃能力」とも呼ばれ、政府が法理論上、自衛権の範囲内に含まれるとしながらも政策判断として保有しないとしてきた能力で、日本の安全保障政策の大きな転換となります。

また、「国家安全保障戦略」には、
▽安全保障上の課題としては中国と北朝鮮のほか、ウクライナへの侵攻を続けているロシアも新たに加えられています。
焦点となっていた中国の動向については、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述し、アメリカの戦略と足並みをそろえています。

▽防衛費については、2027年度に防衛費と関連する経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を講じることが明記されています。

さらに、
▽防衛装備品の移転を円滑に行うため、「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直しを検討するほか、
▽新たに、経済安全保障の考え方などを盛り込んでいます。

そして、
▽サイバー被害の拡大を防ぐため、先手を打って対抗措置をとる「能動的サイバー防御」の導入、
それに
▽海上保安庁について、体制を拡充し、自衛隊と連携を強化することを盛り込んでいます。

一方、「防衛力整備計画」は、期間をこれまでの「5年」から「10年」に延長したうえで、前半の来年度から5年間の防衛力整備の水準を、今の計画の1.6倍に当たる43兆円程度としています。

また「反撃能力」を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」として、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良型の開発・量産や、アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得など、防衛力の抜本的な強化策が7つの分野ごとに具体的に盛り込まれています。

「多次元統合防衛力」を抜本的に強化

「国家防衛戦略」では、陸・海・空だけでなく宇宙・サイバー・電磁波の領域も含めて対処できるよう、「多次元統合防衛力」を抜本的に強化するとしています。

常設の統合司令部

具体的には、自衛隊の運用を一元的に指揮する常設の「統合司令部」を新たに設置します。現在、自衛隊の司令部は陸海空ごとに異なる場所に置かれていますが、統合司令部で一元的に指揮することによって、あらゆる事態でも迅速に作戦を行えるようにするとしています。統合司令部の設置場所や時期は検討中で、速やかに設置するとしています。

航空宇宙自衛隊

また、宇宙の領域での対応を強化するため、2027年度までに航空自衛隊は「航空宇宙自衛隊」に名称を変更します。陸海空の自衛隊の名称変更は昭和29年の発足以来、初めてです。将官を指揮官とし、宇宙の監視などを任務とする専門の部隊も創設します。

サイバー防衛部隊

サイバー領域でも対応を強化するため、自衛隊のサイバー防衛部隊などの要員を、2027年度をめどにいまの4倍以上のおよそ4000人に拡充します。その上でサイバー攻撃に対して被害を受けてからではなく、先手を打って対抗措置をとる「能動的サイバー防御」について政府全体での取り組みと連携していくとしています。

情報部隊

このほか、偽の情報発信などによって他国の世論などに影響を与える「情報戦」に対処できる体制を新たに構築するとしています。

ミサイル部隊の詳細

「防衛力整備計画」では、相手の脅威が及ぶ範囲の外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」を運用する部隊を編成するとしていて、2027年度までの5年間に関連する経費としておよそ5兆円を計上しています。

12式地対艦ミサイル

「スタンド・オフ・ミサイル」として、配備されるのが、射程を現在の100数十キロからおよそ1000キロに伸ばした「12式地対艦ミサイル」の能力向上型です。現在、九州と東北、北海道にあわせて5つある陸上自衛隊の地対艦ミサイルの連隊を7つにしたうえで、2026年度以降、能力向上型を順次、配備していくことにしています。防衛省関係者によりますと、新たな2つの連隊は沖縄と九州への設置を検討しているということです。また、海上自衛隊の護衛艦や航空自衛隊のF2戦闘機から発射できるようにするための開発も2028年度までに完了させることにしています。

高速滑空弾

別の「スタンド・オフ・ミサイル」として配備されるのが、音速を超える速度で滑空し、迎撃が難しいとされる「高速滑空弾」です。
射程は数百キロで、2026年度をめどに陸上自衛隊に新たに2つ設ける運用部隊に配備される計画です。防衛省関係者によりますと、運用部隊は九州と北海道への配置が検討されていて、射程を1000キロ以上にした能力向上型も配備される予定だということです。

極超音速ミサイル

さらに、射程が2000キロから3000キロとされる「極超音速ミサイル」も開発し、2030年代に配備するとしています。防衛省は「極超音速ミサイル」と、「高速滑空弾」の能力向上型を運用する新たな部隊をおよそ10年後までに陸上自衛隊に2つつくることにしています。

潜水艦・輸送機からも

このほか、「スタンド・オフ・ミサイル」を垂直ミサイル発射システムから発射する潜水艦を開発するほか、輸送機からも発射できるシステムなどを開発するとしています。これらのミサイルは、弾道ミサイルの発射基地などをたたく「反撃能力」を行使するための装備として検討されていて、配備先となる地域の理解が得られるかが焦点となる見通しです。

イージス艦や戦闘機も増強

「防衛力整備計画」では、イージス艦や戦闘機など、自衛隊の主要な装備も増強するとしています。

イージス艦

弾道ミサイルなどに対処する海上自衛隊のイージス艦は、現在は8隻ですが、10隻に増やします。

イージスシステム搭載艦

また、弾道ミサイルも含めたさまざまなミサイルへの防衛能力を高めるためとして、イージス艦とは別に「イージス・システム搭載艦」を2028年度までに新たに2隻配備します。当初は、長期間洋上に展開することを想定して、自衛隊で最大規模の船体を検討していましたが、大型化した場合、潜水艦への対処が難しくなるなどとして、規模の縮小を検討しているということです。搭載するレーダーシステムはすでに購入していますが、これとは別に2隻の船体の建造費用などとして5年間でおよそ5300億円を計上しています。

戦闘機

航空自衛隊の戦闘機については、現在の計画のおよそ290機の体制からおよそ320機の体制に増やすとしています。F15の退役を進める一方、レーダーに捕捉されにくいステルス性能などを備えたF35を5年間で65機調達するということです。

次期戦闘機

また、次期戦闘機については、F2の退役が始まる見込みの2035年までに配備を始められるよう、5年間でおよそ7700億円をかけてイギリスとイタリアとの共同開発を進めるとしています。

 

岸田首相 会見で「反撃能力」の必要性を強調 増税に理解求める

「国家安全保障戦略」などの3つの文書の決定を受け、岸田総理大臣は、記者会見し、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」は、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となり、今後、不可欠になる能力だと必要性を強調しました。また、防衛費の増額は安定的な財源で賄うべきだとして、増税への理解を求めました。

この中で岸田総理大臣は、防衛力強化を目指す背景について、ロシアのウクライナ侵攻を含めた国際情勢に触れた上で「わが国の周辺国や地域でも核・ミサイル能力の強化、急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みが一層、顕著になっている」と述べました。

また「現在の自衛隊の能力で脅威が現実となったときにこの国を守り抜くことができるのか、極めて現実的なシミュレーションを行った。率直に申し上げて現状は十分ではない」と指摘しました。

そして、求められている能力として、敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」の保有や、宇宙やサイバー、電磁波などの新たな領域への対応、それに南西地域の防衛体制強化の3つをあげたほか、弾薬の充実や自衛隊員の処遇改善などを実行していく考えを示しました。

このうち「反撃能力」の保有について、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となり、今後、不可欠になる能力だと必要性を説明しました。

その上で、5年後の2027年度には、GDPの2%に達する防衛費の増額を目指す方針を重ねて示し「NATO=北大西洋条約機構をはじめ各国は、安全保障環境を維持するために経済力に応じた相応の防衛費を支出する姿勢を示しており、こうした同盟国・同志国などとの連携も踏まえ取り組みを加速していく」と述べました。

そして、岸田総理大臣は、防衛費増額の財源について、およそ4分の3は歳出改革などの努力で確保する道筋がついたと強調しました。

その上で「残りのおよそ4分の1の1兆円余りについてはさまざまな議論があった。私は内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、事業を守るために防衛力を抜本強化していくための裏付けとなる安定財源は、将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えた」と述べました。

また「防衛力を抜本的に強化するということは端的に言えば戦闘機やミサイルを購入するということだ。これを借金で賄うことが本当によいのか自問自答を重ね、やはり、安定的な財源を確保すべきであると考えた」と説明しました。

さらに「これらの措置は来年から実施するわけではない。しかし、将来、国民に負担をいただくことが明らかであるにもかかわらず、それをことし示さないことは、説明責任を果たしたことにはならず、誠実に率直に示したいと判断した。今の平和の暮らしを守り未来の世代に責任を果たすために協力をお願いする」と述べ、増税への理解を求めました。

そして、安全保障関連の3文書について「戦後の安全保障政策を大きく転換するものだ。もちろん、日本国憲法、国際法、国内法の範囲内での対応であるのは言うまでもなく、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と強調しました。

岸田首相「プロセスに問題があったとは思っていない」

岸田総理大臣は「3文書の決定や防衛力の抜本強化に向けては1年以上にわたる丁寧なプロセスを行ってきた。プロセスに問題があったとは思っていないが、国民の皆さんからさまざまな意見や指摘があることは政府としてしっかり受け止めなければならない。引き続き丁寧な説明を心がけて実行していかなければいけない」と述べました。