連合 来年の春闘で5%程度賃上げ求める方針 平成26年以降最大

来年の春闘について、労働団体の「連合」は、このところの物価上昇を踏まえ、「ベースアップ」相当分として3%程度、定期昇給分を合わせると5%程度の賃上げを求める方針を明らかにしました。デフレ脱却に向けて賃上げの機運が高まった平成26年以降、最大の要求水準となります。

連合は、20日の中央執行委員会で、来年の春闘についての基本的な考え方、「基本構想」を決定し、芳野会長が記者会見で内容を明らかにしました。

それによりますと、日本では物価上昇に賃金が追いつかず、働く人の生活は苦しくなっているとして、「人への投資」を積極的に行って賃金水準を引き上げ、GDPも賃金も安定的に上昇する経済に転換していく必要性があるとしています。

そのうえで、基本給を引き上げる「ベースアップ」に相当する分として3%程度、年齢や勤務年数などに応じた定期昇給分を合わせると5%程度の賃上げを求めるとしています。

長引く景気の低迷で、「連合」は平成14年以降、具体的な要求水準を掲げていませんでしたが、デフレ脱却に向けて賃上げの機運が高まった平成26年に再開していて、今回はそれ以降、最大の水準となります。

この水準を掲げるのは、合わせて5%から6%の賃上げを要求した平成7年以来です。

芳野会長は「物価高の中で生活に困窮する人も多く、生活に大きな打撃がある中での春闘の取り組みなので、しっかりと物価上昇分を取っていくという意気込みだ。コロナ禍からの回復は、業界によって濃淡はあるが、連合として足並みをそろえてやっていく」と述べました。

日本の実質賃金 伸び率 主要欧米各国より低く

この30年近くでの日本の実質賃金の伸び率は主要な欧米各国と比べて低くなっています。

内閣府は今年度の経済財政白書で、1人あたりの実質賃金について1991年を100とした場合に2020年までの29年間でどれだけ伸びたかを日本とアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスとで比較しています。

それによりますと、最も伸び率が高いのがアメリカで1.46倍、次いで、イギリスが1.44倍、ドイツが1.33倍、フランスが1.29倍となっています。

一方、日本は1.03倍にとどまっています。

(小数第3位は切り捨て)。

時給引き上げた会社 収益力を上げる取り組みも

沖縄県うるま市の食肉の加工会社では、パートタイムの従業員がおよそ20人働いていて、一部の人は時給が最低賃金と同じです。

今月から沖縄県の最低賃金が33円引き上げられて時給853円となったことを受けて、会社ではこれに沿った形で時給を引き上げました。

ただ、賃金の引き上げは会社にとっては負担です。

近年、最低賃金の大幅な引き上げが続きそのつど時給を上げていることに加え、長引くコロナ禍で取引先の飲食店の休業や閉店が相次ぎ、売り上げに影響していることや、ことしに入って肉や燃料費などが値上がりし、中でもパン粉は4回の値上げで価格が20%以上上昇していることが理由です。

会社の仲本和美執行役員は「1年に何度も値上がりした経験は今までにありません。人件費があがるのは仕方がないことかもしれませんが、苦しい状況が続いています」と話しています。

こうしたなか、会社では賃上げの原資を生み出すため収益力を上げる取り組みも進めています。

巣ごもり需要を意識してレトルト食品の開発を強化しているほか、今後の市場拡大を見据えてペット向けの食品の製造にも力を入れています。

また、生産性向上のための設備投資として、商品の在庫管理などを音声で入力し、生産状況をデータ分析するシステムを導入しました。

時間あたりや1人あたりの生産能力を把握して効率的な人員配置につなげる狙いです。導入費用60万円のうち半額は補助金でまかないました。今回の最低賃金の引き上げに際しても国の助成金などを利用して設備投資ができないか検討しています。

仲本さんは「コロナであっても、いろいろな価格が上がっても、20人の従業員の生活の糧になっていることは間違いなく、経営者は努力を続けないといけない。ただ、原材料価格の高騰が今後も続けば、どこまで体力が持つのかという不安はある。中小企業も日本の経済を支えてきたという側面に目を向けてもらい、国には使いやすく取り入れやすい補助制度や政策を考えてもらいたい」と話しています。

専門家 “賃上げや生産性向上に取り組む企業の支援強化を”

専門家は、持続的に賃金を引き上げていくためには企業の生産性の向上が不可欠だとして、政府にも支援の強化を求めています。

大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、日本の賃金をめぐる状況について「長く続くデフレ期で、日本では、企業努力が価格を低く抑えるための労働時間の削減などに向かい、付加価値を生み出すことに向いてこなかった。その結果、所得は増えず、日本の平均賃金は諸外国と比べて伸び率がかなり緩やかで、水準が上がらないという問題に直面している」と分析しています。

その上で「社会全体で値上げをしながら賃上げをするという循環に変えていく必要がある。より高い価格で売れるようにするは生産性を高めて提供するモノやサービスの価値を上げる企業努力が必要で、そのためにも働く人に投資をしよりよいものを作る取り組みを続けていく必要がある」と指摘しています。

その上で「中小企業を中心に人件費の増加を上回るほど収益を上げるには相当な努力が必要だ」として政府に対して賃上げや生産性向上に取り組む企業の支援を強化するよう求めています。