【RCEP合意】
各国の反応とねらい

RCEPが合意したことについて、各国の反応やねらいです。

議長国 ベトナム フック首相「繁栄もたらす」

RCEPの署名式のあと、ASEAN=東南アジア諸国連合のことしの議長国、ベトナムのフック首相は「我々は、8年を経て、成功裏にRCEPの交渉を完結させた。議長国として、各国や関係者のこれまでの支援や努力に対して感謝したい。RCEPが近い将来、発効し、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の回復を支え、すべての関係国のビジネス、そして人々に繁栄をもたらすと信じている」と述べて期待感を示しました。

韓国 ムン大統領「危機を克服していこう」

韓国大統領府の発表によりますと、ムン・ジェイン大統領(文在寅)はRCEPの首脳会議で、「新型コロナウイルスによる世界的な危機のなかでも巨大な経済共同体を発足させて保護貿易主義に警鐘を鳴らし、自由貿易の重要性を世界に知らしめる大きな意味がある」と述べたということです。

そのうえで、「RCEPを通じて貿易障壁を低くして相互交流と協力を促進させ、この危機を克服していこう」と呼びかけたということです。

また、韓国産業通商資源省は、今回の合意の意義の一つに日本との初めてのFTA=自由貿易協定になることを挙げ、韓国メディアも日本酒や日本のビール、韓国焼酎やマッコリなどの関税が引き下げられると紹介しています。

中国 李首相「自由貿易の勝利」

中国政府の発表によりますと、李克強首相はRCEPの首脳会談で、「世界で人口が最も多く発展の潜在力が最も大きい自由貿易圏となり、東アジアの地域間協力の大きな成果であるだけでなく、多国間主義や自由貿易の勝利だ」と述べたということです。

そのうえで、「署名は、現在の国際情勢の下で人々に光と希望を与えるもので多国間主義と自由貿易が世界経済の発展と人類にとって正しい道だと示した。課題に直面した時に対立するのではなく、同じ船に乗る人を助けることや開放的な協力がすべての国の相互利益のための唯一の道だ」と述べ、多国間の協力を重視するという姿勢をアピールしました。

また、中国の財政省は、日本と初めて相互に関税削減を行うことで合意した歴史的な進展で、RCEPは域内の貿易の高いレベルの自由化につながるとして成果を強調しています。

中国 影響力拡大ねらう

中国がRCEPの合意を目指してきた背景には、アメリカとの対立が深まる中で、多国間貿易の枠組みづくりを主導し、影響力を拡大する狙いがあると見られます。

習近平国家主席は、11月、行った演説で「単独主義や保護主義によって国際的なルールを破壊させてはならない。中国は多国間や地域間の協力を深め、RCEPの早期の署名を図りたい」と述べ、保護主義的な姿勢を強めるアメリカをけん制しつつ合意に意欲を示しました。

RCEPの交渉を進めてきたASEAN=東南アジア諸国連合の国々とも経済的な結びつきを強めています。

中国政府によりますと、▼ことし1月から10月までのASEAN諸国との貿易総額は5400億ドルあまりと去年の同じ時期と比べて、5.1%増え、中国にとって最大の貿易相手となったほか、▼6月までの半年間の中国からASEAN諸国への直接投資は62億ドルあまりと、去年より53.1%増加し、企業の進出も進んでいます。

中国は今回の合意を追い風にこうした動きをさらに加速させるとみられ、インドが参加しないことで一段と存在感を増す形になりそうです。

ただ、中国はこのところ関係が冷え込んでいるオーストラリアからの輸入品の一部を規制するなど、保護主義的な措置もとっています。

RCEPの合意を踏まえて、みずからが保護主義的な政策をとらないかや、閉鎖的な国内市場の開放など、自由貿易を推進するという姿勢が実態を伴うのか、問われることになります。

中国 ASEANへの進出を強める

中国はここ数年、ASEAN=東南アジア諸国連合の国々への進出を強めていて、RCEPの合意は、こうした動きをさらに加速させる可能性があります。

このうちタイでは、工場進出など、中国からの直接投資の金額が去年1年間で738億バーツ、日本円にしておよそ2500億円にのぼり、5年の間で90%あまり増えました。

タイにはトヨタ自動車をはじめ、多くの日系メーカーが工場を置くなど、5000社を超える日系企業が進出していて、日本からの直接投資はトップとなってきましたが、中国からの投資額は日本に迫っています。

ことしも中国の自動車大手、「長城自動車」がタイ東部にあるアメリカのGM、ゼネラル・モーターズの工場を買収し、来年から生産を始める計画で、日本の自動車メーカーが圧倒的な存在感があるタイでも、中国企業が攻勢をかけています。

東南アジアの各国にとっても、中国からの投資を呼び込んで、経済成長につなげたい狙いもあり、RCEPによって、中国からの投資がさらに増えていく可能性もあります。

ASEAN地域の経済連携協定に詳しい国士舘大学の助川成也教授は、「中国の発言力が強まることで、今後、RCEPの協定を見直す際に中国に有利な関税や投資のルールにならないかが懸念される。日本の影響力が相対的に下がる可能性もあり、日本は、ASEANでの信頼感をさらに高めていくことが重要になる」と話しています。

インド「未解決の問題や懸念に対処せず不参加」

今回、インドはRCEPへの署名を見送りましたが、インド外務省の高官は、15か国の合意に先だって、今月12日に行った記者会見の中で、「インドの未解決の問題や懸念に対処するものではないため、インドは参加しなかった」と述べて、現状では参加できないという姿勢を重ねて示していました。

インド 中国に対し警戒感

インドがRCEPの署名を見送った最大の理由は、参加国のひとつ、中国の存在です。

インドは長年、中国からの安い輸入品の攻勢にさらされ、中国に対する貿易赤字額は昨年度、およそ500億ドル、日本円にして5兆2000億円あまりにのぼっています。

インドがRCEPに参加した場合、中国からさらに大量の安い製品が流入し国内産業が大きなダメージを受けることを懸念しています。

また、新型コロナウイルスの感染拡大による経済的なダメージと、ことし6月に中国とインドの係争地帯で軍どうしが衝突したことをきっかけに、インド国内で反中国の声が高まったことも影響しているとみられます。

モディ政権は、▼中国からインドへの直接投資を事実上、規制したほか、▼中国からの輸入品の検査を厳格化するなど、ことしに入って「脱中国」の動きを加速させています。

中国に対する警戒感が解消されない限り、インドのRCEP参加は見通せない状況です。

インドネシア大統領「経済回復に新たな希望」

東南アジアで最大の経済規模を持つインドネシアの外務省の発表によりますと、ジョコ大統領は、「RCEPは互いに利益を生み、地域の平和と安定、繁栄に向けた取り組みの象徴だ。新型コロナウイルスの感染が拡大したあとの経済の回復に新たな希望をもたらす」と述べたということです。

一方で、RCEPへの署名を見送ったインドも念頭に、「私たちは地域の国々に加盟する機会をまだ広く開いている」と述べ、参加を呼びかけました。