外から帰国で自主隔離
知事選で投票断念も 対策は

日本は新型コロナウイルスの水際対策として、海外から帰国した人を対象に自宅などで2週間の自主隔離を求めています。こうした中、帰国した人の中には自主隔離の期間が東京都知事選挙と重なることから投票を諦める人が出ていて、自主隔離中でも安心して投票できるような仕組みを整えてほしいという声が出ています。

東京 八王子市に住む28歳の男性は、おととしからシンガポールの大学院で学んでいて研究のため現地と日本を行き来しています。

男性は今回はことし1月からシンガポールに滞在し、4月に帰国する予定でしたが、現地で感染が広まったため、状況が落ち着くのを待って、先月28日に帰国しました。

到着した成田空港でPCR検査を受け、その日のうちに陰性と判明しましたが、厚生労働省の要請を踏まえて、自宅で自主隔離しています。

自宅には東京都知事選挙の入場整理券が届いていましたが、期日前投票も今月5日の投票日当日も隔離の期間と重なります。

男性は、これまで行われた選挙はすべて投票し、東京都知事選挙も投票するつもりでしたが、現在の制度では直接投票所に行かなければならず、ほかの有権者との接触が避けられないと判断し、投票を諦めることにしました。

男性は「投票所は老若男女が集まる場所で、同じ空間に滞在することで自分がリスクの源になることは否定できない」と断念した理由を話しました。
そのうえで、「自主隔離者も意思表示ができて、かつ、ほかの有権者も安心して投票できるシステムを整備してもらえたらありがたい」と話していました。

都選管「帰国者の投票 想定せず 医師の指示に従って」

自主隔離中の海外からの帰国者の東京都知事選挙での投票について、東京都の選挙管理委員会は、医学的・疫学的な観点から投票のため外出できるかの判断はできないとして、「帰国者の投票については想定していなかったが、医師などの指示に従うことが前提だ」と話しています。

東京都は、今月5日に投票が行われる東京都知事選挙を前に、新型コロナウイルス感染防止のためのガイドラインをつくり、投票事務を担う区市町村に対策の徹底を呼びかけています。

この中では、投票所や期日前投票所で新型コロナウイルスの感染者が発生した場合の施設の閉鎖や消毒などの対応について、保健所とあらかじめ確認しておくことや投票所では飛沫感染を防ぐ障壁を設けたり、いわゆる3密を防いで換気やアルコール消毒を徹底することを求めています。

東京都によりますと、6月30日の時点では都内の感染者のうち、
▽自宅での療養者は38人、
▽ホテルなどでの療養者は71人、
▽まだ療養先が決まっていない感染者が80人いるということです。

選挙管理委員会によりますと、こうした人たちについては、公職選挙法上、特別な規定はないため、通常の有権者と同じ投票制度しか利用できません。

選挙管理委員会のガイドラインでは、投票のために外出できるかは、医師や保健所に確認し、投票所に出向く場合は注意点について医師などに指示を仰ぐことをお願いするとしています。

選挙管理委員会としては、医学的・疫学的な観点から投票のために外出できるかの判断はできないためだとしています。

一方で、海外からの帰国者は、空港でPCR検査を受けて、たとえ陰性の結果がでても、国から自主的に2週間の隔離生活を送ることが求められています。

ガイドラインでは、こうした帰国者の投票については触れられておらず、東京都選挙管理員会は、「帰国者の投票については想定していなかったが、外出できるかの判断は医師や保健所の指示に従うことが前提だ。投票所では可能なかぎりの新型コロナウイルスの感染症対策を講じている」と話しています。

帰国者の場合でも、自宅やホテルで療養する感染者と同じように、判断が医師などに委ねられた形です。

医師「投票は国民の権利 専用の投票所を設ける検討を」

これについて、感染症に詳しい水野泰孝医師は、「帰国して自主的に隔離している人が投票に行くか行かないかは、個人の意思の問題であり、医師としての判断はできない。しかし投票に行くことは不要不急ではない外出で、国民の権利と言えるので、対策が取られているうえであれば拒否することも難しい。今後の感染拡大や国政選挙などに向けて感染者も含めた専用の投票所を設ける検討など議論が必要だと感じる」と話しています。

総務省選挙部「管轄外でコメントできない」

PCR検査の結果が陰性で自主隔離中の有権者が国からの要請によって東京都知事選挙で事実上投票できないことについて国政選挙の管理や執行を担当する総務省選挙部管理課は、東京都知事選挙の管轄は都選挙管理委員会だとしたうえで、「自主隔離中の有権者が投票所にいくことは、想定していない。投票のための外出の可否については総務省の管轄ではなくコメントできない」と話しています。

そのうえで、「現時点で投票所の運営は自主隔離中の人が投票に来ても感染が拡大しないような対策を取っている」としています。

総務省は感染の拡大を受けてことし3月、各都道府県の選挙管理委員会に通知を出し、投票所でいわゆる「3密」の状態を避け、かぜの症状が疑われる有権者には咳エチケットの徹底を促す、有権者が持参した筆記用具を使用させるなどの工夫をするよう求め、対策を行っているとしています。

韓国 4月の総選挙 現行制度の柔軟運用で投票に対応

韓国では新型コロナウイルスの感染が拡大する中、ことし4月15日に総選挙が行われた際、現行の制度を柔軟に運用して病院や自宅などで自主隔離していた有権者1万1600人余りが投票しました。

韓国の中央選挙管理委員会によりますと、新型コロナウイルスの感染者や海外から帰国するなどして自主隔離していた有権者が総選挙の投票ができるよう公職選挙法に基づいて投票できる環境を整備し、3つの投票方法を用意したということです。

1つ目は、入院している人や軍務についているなどして投票所に行くことができない人を対象にした郵便投票で、対象に感染者を加えて事前に申告することで投票することができました。

2つ目は、郵便投票の申告期限が過ぎたあとの感染者を対象に、入院する必要性の低い感染者のために設けられた全国8か所の生活治療センターに設置した臨時の投票所で期日前投票ができました。

3つ目は、感染者の家族や濃厚接触した人、それに海外から帰国して自主隔離している人を対象に、投票終了直前に投票所に集まってもらい、一般の投票が終わった後に投票できるようにしました。

その結果、郵便投票は364人、施設での期日前投票は147人、投票所での投票は1万1151人に上ったということです。