公明党 山口代表を直撃
自公の関係は 旧統一教会は

連立与党の一角を占める公明党で、13年に渡り代表を務めてきた山口那津男。
異例とも言える8期・14年目の任期がスタートした。
しかし、山口本人にインタビューで直撃すると、ことしの年明けの時点では「代表退任」で心を固めていたと明かした。
なぜ、一転して続投を判断したのか。
自公の関係は。また、議論を呼んでいる宗教と政治のあり方は。
公明党の今後を読み解いていく。
(佐々木森里)
揺れ動く心
「党の力を最大限に発揮できるよう、全身全霊、闘い抜いていく。これまで培った経験をしっかりと伝え、後進の育成に全力を注ぐ決意だ」

無投票で代表8選を果たし山口那津男(70)は、力強くこう宣言した。
その4日後、9月29日に聞いた山口へのインタビュー。
ことしに入ってから揺れ動いてきた心の内を明かした。

「代表選挙の手続きのギリギリまで、いろいろと思い悩んだ。正直言うと、ことしの年明けぐらいは、参議院選挙を終えて世代交代を図っていこうと思っていた」(山口)
異例の長期在任
山口が心を固めていたという「代表退任」。
その背景にあったのは、第一に、山口の在任期間の長さだ。
山口は公明党が野党に転落した2009年から代表を13年間にわたり務めてきた。

1964年に公明党が結成されて以降、代表や委員長としての在任期間は、竹入義勝に次いで2番目と、「異例」とも言える長期にわたっている。
世代交代が既定路線
任期満了まで半年を切ったことし4月。
山口は東京都内で講演。
幹事長の石井について、みずからの後継にふさわしいという考えを示す。
「とても聡明で判断が的確で、説明能力もしっかりしているので、ぜひ次のリーダーとして頑張ってもらいたい」

司会者から「後任として有力か」と重ねて質問されると、「それはもうイチオシだ」と応じた。
山口はこの講演のあとも、「バトンタッチしていく準備が必要だ」と述べるなど、世代交代を意識していると受け止められる発言を続けた。
公明党内でも、この秋の党大会をもって山口は退任し、石井が後任の代表となることが既定路線だという見方が広がっていった。
使わなくなった“バトンタッチ”
しかし、7月の参議院選挙を経て、山口の言いぶりが変化する。
参議院選挙の投票日から3週間余りを経た7月29日。
突然、次の代表選への立候補に含みを残す発言をした。
「参議院選挙が終わり、いろいろな思いが有権者や支持者から出ていると思うし、私のもとにもいろんな声が届いている。熟慮した上で結論を出したい」
このあと山口は“次の世代”“バトンタッチ”といったことばを使うことを控え、「熟慮を重ねている」とだけ繰り返した。
続投決意の訳は
なぜ発言は一転したのか。
今回のインタビューでそう問うと、山口が強調したのは、支持者をはじめ周囲から、山口続投による「安定」を求める期待の声だった。
「公明党にとって重要な統一地方選挙を来年に控え、私をはじめ、力を蓄えた人の働きを期待する声があった」(山口)
どういうことか。
山口が後継にと一度は口にした石井に対し、党内から、代表になるには、さらに経験が必要ではないかという見方も出ていた。
(党関係者)
「知名度はもう少しあった方がいい。まじめでいいが、山口代表が街頭演説で『なっちゃんでーす』とあいさつして盛り上げるように、『けいちゃんでーす』と言えるタイプではない」
そうした見方は、7月の参議院選挙の結果がふるわなかったことで強まっていく。
山口はインタビューでこう述べた。
実際、公明党は今回の参議院選挙の比例代表で、618万票の獲得にとどまり、衆参の国政選挙の比例代表で過去最低の結果に終わった。

「参議院選挙の結果がふるわず『責任を取れ』という声だってあってもいいはずだし、現にあった。しかし、『ここを踏ん張って、党勢の維持拡大にもうひと働きしてほしい』という声の方が勝ったと受け止めている」(山口)
山口は今回のインタビューで、参院選の結果以外にも、年明けからの岸田政権をとりまく状況の変化によって、続投の判断に傾いていったと説明した。
2月24日から始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻、物価高や加速する円安などの経済状況、そして7月8日に安倍元総理大臣が銃撃され亡くなったことを例示した。
山口は、統一地方選挙に向けて、党勢を回復させるため、8期目を引き受ける決断をしたと強調した。
ある党幹部は、続投の背景をこう明かした。
「春先とは状況が変わってしまった。安倍氏が銃撃事件で亡くなり、自民党では動揺が走る。旧統一教会をめぐる問題で自民党が揺れる。岸田政権も支持率が下がってくる。政権は直面している課題をクリアできていない。そうなったときに政権構造をどうしていくのか。そこで公明党も全く新しい、どうなるかよく分からない構造になってしまうと非常に心配だよね。代えることを許さない環境の変化があったということだよ」
さらに別の党関係者は、9月に入って週刊誌で党所属の熊野正士参議院議員(9月30日に議員辞職)のセクハラ疑惑が報じられ、ここで代表が代われば「引責との受け止めが出る」という懸念があったと話す。
総仕上げの8期目スタート
山口は、8期目のスタートにあたり、党大会で新たな幹部人事を発表した。

山口はこの人事の狙いについて、「世代交代に向けた仕上げのためだ」と語った。
「残された時間でしっかりと後進を育てる。連立政権では、よく『自公のパイプがどうこう』と言われるが、古いパイプは両党の世代交代によって失われていく。新しいパイプをつくっていかなければならない。後進には、選挙や視察、組織運営といった実践の現場で経験を積んでもらい、信頼や期待を集めていくチャンスをたくさんつくりたい」(山口)
宗教と政治のあり方は
一方、連立政権のパートナーである自民党は、いま、旧統一教会をめぐる問題で大きく揺れている。
公明党の支持団体は創価学会であることはよく知られている。
旧統一教会の問題をどう捉えているのかも尋ねた。

公明党、今後は
党内では自公連立政権の重しとしての山口の役割は重要だとしながらも、今回の続投により「党代表を交代するタイミングを逸した」という見方も根強くある。
来年春の統一地方選挙が終われば、また衆議院解散に向けた「解散風」が吹きかねない。山口の任期は2年後の秋までで、任期を全うせずに、例えば、統一地方選挙のあとに退任して、バトンタッチするという見方も少なくない。
任期は全うするのか、率直に聞いてみた。
「任期は2年と決まっているので、2年を基本に考えることになり、党のルールをもとにしっかりと頑張っていきたい。ただ、私自身の経験では、最初の代表就任は前任者の任期の残り1年を途中で引き受けた経過がある。突発的に何が起きるかわからないということはもちろんないとは言えない」(山口)
任期について、明言は避けた。

実は、今回の代表選挙の取材の過程で、気になることがあった。
党の若手国会議員と話していて、山口が無投票で再選を重ねていることを念頭に、自民党や立憲民主党、日本維新の会のように、複数の候補者が立候補しての政策論争を望む声があったのだ。
ただ、党幹部にそうした見方について聞くと「うちの党はそんなに幅がない。どこを切っても金太郎飴で、国会議員60人程度の党では争うより結束が大事だ」と強調していた。
公明党と言うと組織政党で一致結束というイメージがある。
しかし、党執行部と若い世代との間で、党運営をめぐって認識に違いが生じているのではないかと感じる場面だった。
公明党が、山口の次の世代への引き継ぎのタイミングを図っていることは間違いない。
党内での認識のずれもくすぶる中、どのような形でバトンタッチするのか、与党の一角として党がどんな姿になるのか、注目していきたい。
(文中敬称略)

- 政治部記者
- 佐々木 森里
- 2015年入局。大分局を経て2020年から政治部。官邸や野党担当を経て、ことし8月から公明党を担当。