立民新執行部「岡田代表ではない!」ベテラン起用 泉代表の真意は

参議院選挙で敗北した立憲民主党。
続投した代表の泉健太は、新たな執行部に岡田克也、安住淳、長妻昭らを起用した。
民主党政権の光と影を知るベテラン勢の復活は、党の再生につながるのか。
泉に単独インタビューで迫った。
(高橋 路)
新執行部は“民主党”?
「手応えを感じていますね。今回の執行部はさすが経験豊富で、過去の例も引き出しながら選択肢を瞬時にいくつも提示できる。先輩たちから最大限、経験・知見を吸収して次世代の立憲民主党をつくりたい」

人事の評価を問う記者に対し、充実した表情を見せた。
新執行部の人事は8月26日の両院議員総会で決まった。

幹事長は、民主党政権時代に副総理や党の幹事長を歴任した、岡田克也。
国会対策委員長は、元財務大臣で、前代表の枝野幸男のもとでも同じポストを務めた、安住淳。
政務調査会長には、元厚生労働大臣で「ミスター年金」とも呼ばれる、長妻昭。
2009年に政権交代を成し遂げた民主党の“顔”でもあるベテラン議員が並んだ。
総会での泉と岡田の姿は対照的に映った。
会場に入ると真っ先に岡田克也が座る席に駆け寄った泉。岡田の目を見据えて言葉を交わしたあと、壇上で「立憲民主党の再生に向けて、皆さまとともに歩みたい」と強い決意を表明した。
一方、岡田は、自嘲気味に、こうつぶやいた。
「食傷気味だが、なんとかもう1回、政権交代を目指せる政党に」
「提案型」の否定
泉は、去年11月、衆議院選挙敗北の責任をとって辞任した枝野の後任として代表に選出された。
党の執行部は、今回とは真逆とも言える布陣だった。

党の支持が広がらない原因の1つが「批判ばかりしている党」と見られていることだとして、「提案型」への転換を“泉カラー”として打ち出した。

しかし、ことし7月の参議院選挙では、改選前から6議席減らした上、比例代表では、日本維新の会を100万票余り下回る「野党第二党」に転落し、敗北。

NHKの世論調査でも、政党支持率で日本維新の会に追い抜かれた。
8月10日にまとめた参議院選挙の総括。
「野党第一党の立場を脅かされかねない」
「『提案型野党』が何をやりたい政党かわからない印象を与えた」
党の現状への強い危機感とともに、執行部に対する厳しい言葉も並び、「提案型」という“泉カラー”は否定に追い込まれた。
泉はこう振り返る。
「去年の衆議院選挙を経て、ある意味、バランスのとれた政党にするために、批判ばかりではないというところからスタートしたのだけど… 結局、行き着くところは厳しく向き合って対案を示す。どちらかだけはありえないということ」
噴出した泉の責任論
参議院選挙の総括のとりまとめは一筋縄ではいかなかった。
敗北直後から噴出したのが、代表の泉に対する責任論だ。
「惨敗だ。本人は辞任を否定したが、代表の責任論に発展するだろう」(党内最大グループ「サンクチュアリ」議員)
「総括が終わったあと、人心を一新すべきだ」(党幹部)
去年の代表選挙で泉を支持したものの、直後の執行部人事以来、泉とは関係が冷え切っているとも指摘される重鎮・小沢一郎の周辺では、参議院選挙敗北の「ケジメをつける」として、松木謙公が選挙対策委員長代理を辞任する意向を表明。
「泉おろし」を企図したものだとささやかれた。
また党内では、代表の泉を取り巻く執行部の1人に辞表を提出させて、泉も含めた「共倒れ」を狙うプランを練る議員もいたという。
8月3日、総括の素案が示された非公開の両院議員総会で、舌鋒鋭く、泉に進退を迫ったのは、5年前の東京都議会議員選挙で議席を減らすなどして、民進党(当時)の代表を辞任した蓮舫だった。
一方、泉に代表辞任の選択肢はなかった。
「執行部批判はあってもいい。ただ、代表の任期は、簡単に投げ出すものではない。『選挙に負けたから辞めろ』とか繰り返しているのだったら、任期なんかいらないわけですよ」
ベテランに命運託す
起死回生を狙い、泉が選択したのは、あえてみずからより当選回数の多い“先輩”を幹事長に据えて、党内の「重し役」とする戦略だった。

泉はインタビューでやりとりを明かした。
「岡田さんも、いま党が置かれている状況に非常に強い危機感を持っていて、『私自身もここで力を尽くさなければならないと思っている』。そういう言葉だった。人事の強化が大きく進んだ瞬間だった」
「岡田代表」ではない!
泉は岡田と話す中で、ほかのベテランの処遇を求める意向を感じたという。
「岡田さんは『危機感を感じているのは自分だけではない』とも言っていた。多分、安住さんや長妻さんにも(執行部に)入ってもらって、ということだ」
岡田の意向も反映しながら、新執行部へのベテラン入りが固まった。
一方、今回の人事では、泉がポストを打診したにもかかわらず、複数の議員が断っていたことがわかっている。「責任をとらない泉には協力できない」などの理由だ。
党内からは「事実上の岡田体制」という指摘も出ている。泉はどう受け止めているのか。
岡田と2人で人事を練り上げる中で、ほぼ「岡田人事」になったのではないかと尋ねると、泉は、やや語気を強めて、こう答えた。
泉の向かう先は
泉が率いる立憲民主党は、足並みをそろえて政権と対峙することができるのか。
自民党内からは「国葬や旧統一教会の問題で内閣支持率が下落する中、政権との対決に舵を切った布陣は手強い」と警戒する反応も聞かれた。

「全員、“民主党”ですよ。前・国民民主党、前・立憲民主党、無所属…とか言っても、しかたがない。自民党に代わりうる政権を担う勢力をつくるために全国から集まった人たちが、今、この立憲民主党にいる。外務大臣、財務大臣、厚生労働大臣を務めた人たちを生かさなければならない」
そして強調したのは、分裂を繰り返し、国民の支持も離れていった「野党第一党」の再生だった。
泉は「ネクスト・キャビネット(NC)」=「次の内閣」を立ち上げる考えも示している。次世代を育て、もう一度、13年前の政権交代を果たしたいという思いからだ。
しかし、党内からは「今の党内にはNCをつくることができるほど人材は多くない」という指摘もあり、NCの人事にも岡田が強く関与し、重鎮の起用を提案しているという話もある。
泉に近いベテラン議員はこう指摘する。
「“亡霊”が多すぎる。政権交代から10年以上経ち、時代は大きく変わった。泉は埋没してはいけない。仕事は先輩にもお願いしつつ、現役世代や若者に寄り添った政治を模索しなければならない」
民主党政権の“顔”だったベテランの起用。
反転攻勢に向けた起爆剤となるか、それとも衰退への後押しとなってしまうのか。
泉の真価が問われることになる。
(文中敬称略)

- 政治部記者
- 高橋 路
- 2016年入局。静岡局を経て政治部。リオのカーニバルに憧れてブラジル留学したラテン系。現在は泉代表の番記者。