維新 初の代表選挙
“継承”か“刷新”か 向かう先は…

日本維新の会にとって初めてとなる代表選挙は8月27日。
既存政治の打破を掲げた地域政党「大阪維新の会」の立ち上げから12年。
党の顔は常に、橋下徹、松井一郎という2人の“カリスマ”だった。
維新はどこへ向かうのか。
(仲 秀和)

3人の争いに

お盆真っただ中の8月14日の昼下がり。
「維新の聖地」とも言われる大阪・難波の街頭では、うだるような暑さにもかかわらず、多くの人が足を止めて、演説に耳を傾けていた。
向けられた視線の先にいたのは、代表選挙に立候補した3人の国会議員だ。

(以下、届出順)
足立康史。56歳。衆議院議員当選4回で、党の国会議員団・政務調査会長。


経済産業省出身の政策通で、党の発展には新たな体制を構築する必要があると主張する。
「国と地方が横並びで集団指導体制の組織を作れば、松井さんがいなくなっても党は成長できる」

馬場伸幸。57歳。衆議院議員当選4回で、党の共同代表。


堺市議からのたたき上げで、党幹部を歴任した経験を踏まえて松井路線の継承を訴える。
「松井代表のもとでやってきたことは間違っていない。これを継承し、さらに改革を広げていく」

梅村みずほ。43歳。参議院議員当選1回で、党の国会議員団・政務調査会副会長。


新たな支持層を掘り起こすため、女性が代表に就くべきだと強調する。
「野党第一党を奪取するには、女性や若者の支持が足りておらず、イメージチェンジが必要だ」

維新とは

「日本維新の会」の源流は、地域政党「大阪維新の会」だ。
12年前の2010年、当時の大阪府知事の橋下徹や今の代表の松井一郎が中心となり、府や市を再編する、いわゆる「大阪都構想」の実現を目指して、結成された。

翌年の統一地方選挙では、府議会で過半数、市議会で第一党を獲得し、秋には、知事と市長の「大阪ダブル選挙」を仕掛け、いずれも勝利。
2012年には、旧「日本維新の会」を立ち上げて国政に進出し、衆議院選挙で54議席を獲得して、野党第二党に躍進するなど、注目の的となった。

しかし、2015年5月には党の看板政策とも言える「大阪都構想」が住民投票で否決され、橋下は政界引退を表明。


国政では、党運営や憲法改正などの基本政策をめぐって内部対立を繰り返した。
また、与党との距離感をめぐっても、安倍政権との関係を重視する橋下や松井と、当時の民主党との連携を主張する勢力が主導権争いを繰り広げ、いわば「東西」で分裂した。

2015年11月には、橋下や松井が中心となって、新党「おおさか維新の会」を結成。翌年には党名を変更して、今の「日本維新の会」となった。

そして、2020年には「大阪都構想」の是非を問う2回目の住民投票にこぎつけるも、再び否決。この責任をとる形で、松井は、大阪市長の任期となる来年・2023年4月での政界引退を表明した。

12年の歩みの中で、維新の会は、強固な地盤を誇る大阪が国政を支える一方で、全国政党化をめぐる方法論の違いや、国会議員と地方議員のあつれきが絡み、常に党内対立の危険をはらんできた。

こうした党の構造は、代表選挙にも色濃く影響することになる。

松井、市長任期満了前に党代表辞任へ

6年半あまりにわたって党を率いてきた松井。維新の“創業者”であり、橋下と並ぶカリスマだ。
政界引退を表明したあとも、多くの党員の声を受けて代表にとどまり、衆議院選挙や参議院選挙での党勢拡大につなげてきた。ほとんどの関係者が、任期ギリギリの2023年まで党を率いることを望んでいたのだ。
ところが、ことしの年明け早々、松井に近い幹部がぽつりとつぶやいた。
「松井代表、辞めるってよ。参議院選挙が終わると、引き留める理由がないからなあ」

この幹部の言葉は、半年後、現実のものとなる。
7月10日に行われた参議院選挙投票日の記者会見で、松井は代表辞任の意向を表明。


後任を選ぶ「夏の陣」に向けた火ぶたが切られた。

新たなリーダー選び本格化へ

次世代を担うニューリーダーと目されてきたのが大阪府知事で副代表の吉村洋文だ。
新型コロナへの対応で先頭に立ち、一時、ネット上では「吉村寝ろ」というワードが話題になるなど、全国的な人気と知名度を誇る。

党内からは「吉村が出れば誰も勝ち目はない」といった声も上がるほどで、次の代表にふさわしい人材の1人であることは衆目の一致するところだった。
しかし、吉村は、大阪の改革を進める仕事に専念したいとして、早々に立候補しないことを明言する。

これを受けて、国会議員のあいだで、立候補に向けた動きが本格化する。

真っ先に名前が挙がったのが、長年、幹事長や共同代表として党を支えてきた馬場だ。
また、大阪を中心に、参議院議員で元総務会長の東徹を推す声もあった。

こうした中で、梅村は、早々にツイッターで出馬を目指す意向を表明。
同じころ、足立も、立候補に向けた推薦人集めを始めていた。
このほかにも、複数の国会議員の名前が取り沙汰され、乱立状態の様相を呈した。

懸念される対立

こうした状況に不快感を示したのが、“創業者”松井だ。

「代表選挙は政策論争の場ではない。党をまとめる力が必要」

「後継指名はしない」と発言しつつも、松井の言動からは、自身の右腕として党を支え続けてきた馬場を支持する意向がにじみ出ていた。
馬場本人も、当初から立候補の決意を固めていた。

そこで注目されたのが、大阪府議会出身の東の動向だった。

維新の発祥の地は大阪府議会だ。もともと府議だった松井が立ち上げた会派が、その後の党の結成につながったという経緯がある。
このため党内には、大阪を中心に、府議会出身の東への待望論がある一方で、堺市議会出身の馬場は、維新の本流ではないという意識が根強くあるのだ。


また、大阪では、国会議員に対して批判的な意見を持つ地方議員も少なくない。知事と市長ポストに加えて、府議会で過半数、市議会で第一党を獲得するなど、維新は、こと大阪においては、実質的な与党となっている。

次々と政策を実現し、改革を前に進めてきたという自負がある大阪の「与党議員」にとってみれば、野党第二党にすぎない国会議員の働きは物足りないとの見方があり、批判の矛先は、国会議員の代表を務める馬場に向けられてきた。

こうした事情から、対抗馬として東を担ごうという流れが生まれ、東自身も意欲を示していた。一方、党内では、馬場と東が戦うと大きな亀裂が入ると懸念する声も高まっていた。

松井の“にらみ”

水面下でのさや当てが激しくなっていた7月21日の夜。
松井と会食した東は、代表選挙に立候補する意思があることを伝えた。
すると、松井は「止めはしないが、俺は徹底的に馬場を応援する」と応じたという。

松井自身は、党内で馬場に対する批判があることは知りつつも、国政での働きぶりや、幹事長として党をまとめてきた力を高く評価してきた。

松井は、この夜の会食を契機に馬場支持の動きを加速させる。
東の支援に回ろうとする議員に「推薦人になるな」とクギをさし、自身の会見でも、東や足立、梅村など、立候補に意欲を示す候補者の批判を繰り返した。

大阪選出の衆議院1回生たちも動きを見せた。
多くが府議会や市議会の出身で、当初は、国政の中心メンバーの馬場に対して懐疑的な目を向けてきた。しかし、2021年の衆議院選挙での初当選後、馬場の統率力や人間性を目の当たりにし、素直に実力を認める人が増えていた。
そこで、国政と大阪の対立が大きくなることを防ごうと、大阪選出の衆議院1回生たちは東本人に出馬を断念するよう説得を試みたのだ。

そうしたさなかの7月27日と8月4日、馬場と東は、2人きりで極秘に会った。いずれの会談も1時間あまりに及び、立候補に向けた互いの考えを確かめあったほか、今後の党運営にも話が及んだという。


そして、まさに馬場と東の2度目の会談が行われていた8月4日の午後2時半ごろ、事態は大きく動く。松井が記者会見で馬場支持を明言し、事実上の後継指名を行ったのだ。

翌5日の朝。最終的に、東は、党を二分するような事態は避けたいとして、立候補を断念したのだった。

維新代表選は独特のルール

東が立候補を断念したことで、最終的に、足立、馬場、梅村の3人の争いという構図が固まった。
8月14日の告示の際、立候補に必要な推薦人名簿として、足立が届け出たのが39人、梅村が立候補できるギリギリの30人だったのに対し、馬場は306人だった。

推薦人で圧倒している馬場陣営も「蓋を開けるまではわからない」と不安を口にするのが、維新独特のルールだ。

投票できるのは、国会議員や地方議員ら「特別党員」586人と、「一般党員」のうち、おととしから2年間、党費を納めている1万9293人だ。
そして、選挙情勢をつかみにくくしているのが、「特別党員」と「一般党員」が等しく、1人1票の権利を持っていることだ。

ここで、ほかの政党と比べてみる。
去年の自民党総裁選挙では、国会議員が1人1票なのに対し、党員・党友はおよそ2000人分で1票だった。
同じ年の立憲民主党の代表選挙でも、国会議員は1人2ポイントだったのに対し、党員・サポーターはおよそ650人分で同じ2ポイントだった。
維新の「国会議員も党員も全員1人1票」というルールが異質なことがわかる。

一方、今回の代表選挙では「一般党員」の有権者名簿は公開されていない。
候補者は、一義的には、およそ2万人の有権者に、直接訴える手段がないのだ。
「一般党員」は、入党する際に紹介元となった「特別党員」にひも付く形になっており、候補者は「特別党員」が認めた場合に限り「一般党員」のデータを確認することができる決まりとなっている。
その意味では、推薦人の数が多ければ多いほど、アクセスできる有権者の数も増えるため、選挙戦を有利に進めることができると言える。

初の代表選、熱い訴え

8月27日の投開票を前に、選挙戦は佳境を迎えている。
維新の向かう先は、松井路線の“継承”か、それとも“刷新”という新たな道なのか。
選択のときが迫る中、候補者の訴えも日増しに熱を帯びる。

足立康史
「国と地方で政党交付金を等分して組織の隔たりを解消するほか、党員が最も偉い『党員民主主義』制度に刷新する」

馬場伸幸
「これまでの路線を継承し、大阪以外の地方議員を倍増させるなど、地方組織を強化することで党の飛躍につなげる」

梅村みずほ
「多選禁止や予備選挙などを導入して、体制や人材を絶えず刷新することが改革の原動力であり、私にしかできない」

新リーダーで維新はどこへ行く

日本維新の会は、次の衆議院選挙で「野党第一党」を奪取する目標を掲げている。一方、今回の選挙戦では、今後の党の行く末を懸念する声も多く聞かれた。

「大阪都構想に変わる、わかりやすい看板政策が必要」
「松井の求心力で維持されてきたガバナンスが効かなくなる」
「国会議員が代表になると、国政と大阪の溝が深まり、党が分裂するのでは」

地域発の国政政党として、前例のない歩みを進めてきた日本維新の会。
橋下、松井という2人のリーダーがいなくなる党をどうまとめ、全国で支持を拡大することはできるのか。
さまざまな課題を乗り越え、野党第一党、そして、その先の政権与党は、手に届くのか。

(文中一部敬称略)

政治部記者
仲 秀和
2009年入局。前橋局、選挙プロジェクトを経て政治部に。現在は日本維新の会の取材を担当。