消えた投票所 自治体の苦悩
全国 減少ランキング

7月10日に投票が行われた今回の参議院選挙。
投票率は52.05%で、過去4番目の低さとなりました。
そんな中、投票率にも関係する投票所の数が減っているって知っていますか?
現場の取材から、人口減少が続く地方自治体の苦悩が見えてきました。
(関口紘亮、桜田拓弥)
※記事の最後に全国投票所減少ランキングを掲載しています

いつもの投票所がない!

(鹿角市湯瀬地区 自治会長 阿部照芳さん)
「いつものように地元の自治会館でやるもんだと思っていたんです。市の広報誌で『投票所が減る』という案内はあったのですが、全然気がつきませんでした」

秋田県鹿角市の山あい、湯瀬地区に住む阿部照芳さん(76)。
自宅から徒歩で5分ほどの自治会館に設けられてきた投票所が、今回の参議院選挙からなくなりました。新たな投票所となる市民センターまでは車で15分ほどかかります。

「投票所に行きたくても行けない人が出るのではないか」
阿部さんは地区の回覧板で「移動手段がない人は車を出します」と送迎役を買って出ました。結果、近所の高齢者2人から連絡があり、投票所まで連れて行きました。

(阿部さん)
「2人とも移動手段がないので『今回は棄権するつもりだった』と話していました。移動支援を申し出て、よかったなと思いました」

投票所46か所→6か所 理由は「人口減少」

鹿角市では、今回から、46か所あった投票所が、一気に6か所まで減りました。
理由は人口減少です。

市の人口は市制施行前の1955年にはおよそ6万人でしたが、主要産業だった銅鉱山の衰退などもあり、2021年には3万人を割り込みました。山間部では特に人口減少が著しく、投票所1か所あたりの有権者が20人に満たない地区も出てきました。

こうした中、投票所の運営が徐々に難しくなっていきます。
投票所には、
▽有権者の本人確認を行う人
▽投票用紙を渡す人
▽投票が公正に行われているかを監視する立会人
などが必要になります。

こうした人は、市の職員だけでは足りず、ほとんどが住民から選ばれています。
鹿角市ではこれまで、1回の選挙で立会人だけで約100人を配置してきましたが、年々確保が困難となっていました。
そこで、思い切って投票所を統廃合する決断をしたのです。

その結果 投票率は…

市は、投票所を減らす代わりに、市民であれば地区に関係なく投票できる「共通投票所」の設置や、投票所入場整理券のデザインの一新などでなんとか投票率の下落を食い止めようとしました。

しかし、今回の参議院選挙で鹿角市の投票率は49.12%。前回・3年前に比べて6.18ポイント下落しました。秋田県内では唯一50%を割り込みました。
投票所が減ったこととの因果関係はわかりません。ただ、投票の際に「投票所が遠くなった」と不満を漏らす人もいたということです。

(鹿角市選挙管理委員会 相馬天 事務局長)
「投票所の削減数を考慮すると、有権者の方々の意識の高さによって6ポイント減に『踏みとどまった』と捉えています。ただ、もちろんこのままでよいとは考えていません。今後、投票区にかかわらず利用できる『共通投票所』の利便性の改善や、有権者の移動支援など、対策を検討していきたいです」

全国でも減る投票所

実は、投票所の減少は秋田県だけなく、全国で進んでいます。
今回の選挙での、全国の当日の投票所の数は、4万6017か所。前回・3年前と比べて1016か所、率にすると2%余りの減少となりました。

ピークだった2001年の5万3439か所と比べると、この20年余りで7400か所余り、14%近くも減っています。

前回・3年前との比較でも、都道府県別では神奈川県と埼玉県を除く45の都道府県で減少。減少率が高い順に▼秋田県の14.4%、▼滋賀県の10.9%、▼石川県の6.9%などとなっています。

買い物帰りに一票 増える「共通投票所」

投票所が減る中、各地方自治体が力を入れているのが「共通投票所」です。
「共通投票所」は、ショッピングセンターなど人が集まりやすい場所に設置され、その市町村の有権者であれば地区にかかわらず誰でも投票できます。

総務省によると、制度が導入された6年前の参議院選挙で導入したのは、北海道函館市、青森県平川市、長野県高森町、熊本県南阿蘇村の4市町村でした。それが3年前の選挙では8道県の45市町村、そして今回は16道県の135か所と大幅に増えました。

昼休みに一票「 動く投票所」

さらに、注目を集めているのが「移動期日前投票所」です。

ワゴン車やバスに投票箱を載せ、各地を回ります。最寄りの投票所が遠くなったという山間地などで活用されているケースが多くあります。
中には、学校を回ることもあり、選挙権を初めて手にした高校生や大学生の投票にも一役買っています。

茨城県日立市は、市内の9つの高校と2つの大学すべてで「移動投票所」を実施。
昼休みや放課後、投票箱を載せたワゴン車が現れ、学校が投票所に早変わりしました。

(日立市選挙管理委員会)
「高校生や大学生にとっては、投票所はなかなか足を運びづらいと思います。高校の敷地内は『日常の空間』で投票ができます。友達を誘って気軽に来られたという声や、投票権のない下級生からも『選挙権を得たら投票したい』という声も出ています」

「行きたいけど行けない人」の支援を

選挙制度に詳しい東北大学大学院の河村和徳准教授は、次のように指摘します。

「投票所が減る傾向は今後も続くでしょう。ただ、投票所を減らす場合、投票の権利を保障するための配慮が不可欠です。
共通投票所のように有権者が移動手段を持っていることを前提とした対策だけでなく、移動支援や移動投票所のように『投票に行きたいけれど行けない』人への支援を行うことが、投票率を維持するうえで効果的です。
高齢化が進み、移動手段を持たない人はますます増えていますから、できる対策を自治体ぐるみで考えていく必要がありますし、国レベルでは投票のIT化も検討していくべきだと思います」

全国で減り続ける投票所。その背景には、人口減少という大きな流れがあります。
一方、「選挙に行きたいのに行けない」という人を生み出さないためにも、自治体にはその地域にあった知恵や工夫がますます求められています。

全国 投票所減少ランキング

前回3年前の参議院選挙と比べた投票所の数を都道府県別に見てみますと、神奈川と埼玉を除く45の都道府県で投票所が減っています。
減少率が高い順の全国ランキングです。

秋田 14.37%(ー116)
滋賀 10.87%(ー92)
石川 6.94%(ー32)
岩手 6.68%(ー69)
鹿児島 6.53%(ー74)
山口 4.53%(ー38)
福井 4.23%(ー17)
岐阜 3.89%(ー29)
熊本 3.52%(ー34)
長野 3.09%(ー45)
山梨 3.07%(ー16)
群馬 3.06%(ー28)
新潟 2.92%(ー42)
北海道 2.80%(ー74)
香川 2.73%(ー12)
愛知 2.66%(ー45)
長崎 2.32%(ー20)
青森 2.15%(ー20)
島根 2.02%(ー13)
大分 1.98%(ー12)
徳島 1.80%(ー9)
山形 1.52%(ー12)
兵庫 1.40%(ー26)
福島 1.36%(ー17)
佐賀 1.28%(ー4)
奈良 1.22%(-9)
和歌山 1点21%(ー10)
千葉 0.86%(ー13)
福岡 0.85%(-10)
愛媛 0.85%(-6)
栃木 0.84%(-7)
宮崎 0.81%(-6)
高知 0.77%(-7)
富山 0.76%(-3)
広島 0.73%(-9)
静岡 0.69%(-8)
岡山 0.64%(-5)
沖縄 0.63%(-2)
鳥取 0.55%(-2)
京都 0.50%(-5)
茨城 0.36%(-5)
三重 0.34%(-3)
大阪 0.34%(-6)
宮城 0.21%(-2)
東京 0.11%(-2)

選挙プロジェクト記者 
関口 紘亮
2009年入局。ニュース制作部などを経て2021年から現所属。好物は初任地・札幌で出会った鮭のちゃんちゃん焼き。
政治部記者
桜田 拓弥
2012年入局。佐賀局、福島局、選挙プロジェクトを経て、政治部で総務省担当。全国の城めぐりが趣味。