身近な電車がなくなったら…
岐路に立つ地方の赤字路線

地方鉄道生き残り

「問題を必死に乗り越えた先に必ず次のステージが待っている」(きゃりーぱみゅぱみゅさん)

いま、鉄道各社が赤字から抜け出せず、コロナ禍で経営環境はいっそう厳しさを増しています。
利用者数が長期にわたって低迷する赤字路線を維持すべきか、廃線やバスなどへの転換を図るべきか…
全国のJRの経営状況と、広島県と岡山県を結ぶ芸備線、千葉県の銚子電鉄、徳島県の牟岐線、兵庫県と岡山県を結ぶ姫新線の生き残りをかけた取り組みを見てみます。
あなたの身近にある電車が無くなったら、困りますか?

乗客1日11人 カープ号も日常利用増えず

広島駅から岡山県新見市の備中神代駅を結ぶJR芸備線。
山間部を走る広島県庄原市の東城駅と備後落合駅の25キロ余りの区間は、1キロあたり1日に平均何人を運んだかを示す「輸送密度(2019年度)」の実績はわずか11人です。
100円の収入を得るためにかかる費用はなんと2万5416円。非常に厳しい収支が続いています。

JR芸備線
地域住民から「廃線になるのではないか」という懸念の声が聞こえる中、少しでも利用を増やすことができないかと地元の有志が動き出しました。

カープのラッピング列車

取り組みの1つがカープのラッピング列車です。
“たる募金”による寄付で300万円以上を集め実現しました。

去年11月の初めての運行の日、駅や車内は多くの人であふれ、地元でも芸備線のことが話題になることが増えたといいます。

しかし半年たって、カープ号を目当てにした観光客は増えたものの、通勤や通学で日常的に利用する人はほとんど増えていないのが現状です。

自宅の目の前にある畑の間を芸備線が走り、ラッピング列車にも尽力した住田則雄さんは、芸備線が維持されるのか、危機感を強めています。

住田則雄さん

(住田則雄さん)
「カープ号を見ると元気が出るとか、走っているのを見たよと声をかけてくれる人はいます。ただ見るだけじゃだめよと言っているんです。乗らないと意味はないんだよと」

JR6社中5社が最終赤字 従来ビジネスモデルに限界

このように、長引くコロナ禍で各地で鉄道を使う人が減っています。
JR6社の昨年度決算が出そろい、厳しい現状が浮き彫りになりました。

JR6社の昨年度決算

最終的な損益は、◆国の支援を受けるJR北海道が10億円の赤字、◆JR東日本が949億円の赤字、◆JR東海が519億円の赤字、◆JR西日本が1131億円の赤字、◆国の支援を受けるJR四国が52億円の赤字、◆JR九州が唯一の黒字となる132億円で、不動産事業の収益の拡大などで業績の改善につなげました。2年ぶりの黒字ですが、鉄道事業は営業赤字が続いています。

これまで鉄道会社は、都市部や新幹線で得た収益で、地方路線の赤字を補うというビジネスモデルを守ってきました。
ところが新型コロナウイルスの影響で、都市部の路線や新幹線でも利用客激減に拍車がかかり、赤字に陥っているのです。
これまでのビジネスモデルが限界を迎え、赤字路線の維持が難しくなっています。

各社は、利用が低迷している列車の本数を減らして費用の削減をしたり、「みどりの窓口」の統廃合で人員を削減したりして改善を図っていて、すでに利用する私たちにも影響が出始めています。

JR四国の西牧世博社長は、厳しい状況に、来年春にも四国管内すべての路線で値上げする方針を明らかにしました。

JR四国の西牧世博社長

(JR四国 西牧世博社長)
「このままでは鉄道ネットワークの維持は困難になることが想定される。公共交通機関の役割を果たすためには大変心苦しいが、お客様に負担をお願いせざるを得ない。四国は全国に先駆けて人口減少が進んでいるという構造的な課題があるうえ、オンライン会議など、新しい生活様式の定着による不可逆的な利用の減少が加わる厳しい状況を想定せざるを得ない」

抜本的な見直しも視野に国も議論

こうした状況に国土交通省は、鉄道事業者の幹部や専門家らによる検討会を立ち上げました。抜本的な見直しも視野に、存続が危ぶまれる全国の地方鉄道のあり方を議論しています。

国土交通省の鉄道事業者の幹部や専門家らによる検討会

地方の赤字路線を維持することがますます難しくなってきている状況の中、国としては、そうした路線が相次いで廃線してしまう前に、地方の公共交通を維持する方策を講じなければならないと考えているのです。

しかし、廃線に反対の声も根強くあり、簡単に結論が出る問題ではありません。

広島県の湯崎知事

3月3日の検討会に出席した広島県の湯崎知事は「一部のローカル線の収支のみを問題視することは地方の切り捨てに直結する。新幹線や特急で訪れる観光客を中山間地に呼び込むためにはすべての鉄路を維持すること重要だ」と主張し、地方路線の廃線に反対する姿勢を示しました。

きゃりーぱみゅぱみゅさん「問題だらけ」

「副業」として、地元特産のしょうゆを使った「ぬれせんべい」が大人気となり、こうした売り上げが鉄道収入を上回っている銚子電鉄。
大正12年に開業し来年100年を迎える銚子電鉄は、千葉県銚子市内の10の駅、6.4キロを結ぶローカル線です。

しかし、東日本大震災や新型コロナの影響もあって厳しい経営が続き、去年3月の決算はおよそ4000万円の赤字となりました。

こうした中、銚子電鉄は人気有名人とコラボして収益アップを目指しています。

「問題だらけ」をキーワードに、厳しい経営「問題」がある銚子電鉄と、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんのヒット曲「もんだいガール」とをかけてコラボしたのです。

「銚子電鉄はもんだいガール!!」のポスター

きゃりーさんのコンサートで銚子電鉄の切符やグッズを販売した収益で、老朽化「問題」を抱えていた観音駅を修理し、待合室やトイレもカラフルに塗り替えました。

きゃりーぱみゅぱみゅさん

(きゃりーぱみゅぱみゅさん)
「問題があってそれを乗り越えようと必死にエネルギーを使って乗り越えた先に必ず次のステージが待っていると思います。銚子電鉄さんも楽しいことばかりではないと思いますが私も全力で応援していきたいです」

銚子電鉄の竹本勝紀社長は「多くの観光のお客さまが電車に乗っていただいて大変ありがたいと思っている。諸問題を1つ1つ解決して最後には本当に問題のない会社になりたい」と話していました。

鉄道とバスがタッグ 乗り換えは割安に

地域交通を維持するため、鉄道とバスが連携する動きも出ています。

JR四国の車両と徳島バス

JR四国と徳島県最大のバス会社「徳島バス」は、ことし4月から四国の徳島県南部の一部区間で共同経営を始めました。
利用者の少ない地域で鉄道会社とバス会社がタッグを組む全国でも初めての取り組みです
利便性を高めて乗客を増やし、地域の公共交通を維持していくのが狙いです。

そもそも交通機関どうしの運賃やダイヤの調整は独占禁止法に触れるおそれがありましたが、バス会社どうしの共同経営を認めるという、独占禁止法の特例法の適用をJRにも拡大して、国土交通省の認可にこぎ着けました。

JR牟岐線の阿南駅と浅川駅の区間が対象区間

具体的には、徳島県南部のJR牟岐線の阿南駅と浅川駅の区間が対象でJRの切符や定期があれば、並行する道路を走る徳島バスに乗り換えができるというものです。
運賃を一体的に運用することでバスに乗り換える際の初乗り運賃がなくなるため従来より割安に利用できます。

また、運行間隔は鉄道だけでは平均およそ90分でしたが、同じ運賃体系となった鉄道とバスを組み合わせて考えると、60分ほどに短縮されることになります。

利便性が悪化し、利用者が離れるという「負のスパイラル」に歯止めをかけられるのか。
共同経営を始めた4月のこの区間のバスの利用者は124人と去年の同じ月の3.4倍となり、両社は「順調なスタートだ」と口をそろえています。

民間の社屋が駅舎に!?

兵庫県姫路市と岡山県新見市を結ぶ全長およそ160キロのJR姫新線も、人口減少に加え、コロナ禍による利用者数の落ち込みが深刻です。

このまま利用者が減り続けると存続そのものが危ぶまれる事態になりかねないとして、沿線にある姫路市と地域の自治会、それに地元の企業、JR西日本の4者が連携協定を結び動き始めました。

リニューアルされた太市駅

駅を使いやすくすることで鉄道の利用者を増やそうと、ことし3月にリニューアルされた太市駅では、自家用車の利用者に乗り換えてもらうパークアンドライドで鉄道が使いやすくなるよう駐車場を整備したほか、駅前ロータリーを整備しました。

実はこの駅舎、地元企業が本社ビルとして線路脇に建設した社屋を駅舎として使えるようにしたのです。
カフェや直売所も設けられ、集客効果を高めることで姫新線の利用促進につなげる狙いもあります。

「まちづくり協議会」会長の梅元義昭さん

地元の「まちづくり協議会」会長の梅元義昭さんは「昔からある駅舎がなくなると聞いたときはどうなるかと思ったが、今後も企業と行政と住民とが協力して活気ある街作りをしていかないといけないし、この取り組みが第一歩だと思っている」と話していました。

あの手この手で収支の改善を目指す全国の鉄道各社。
乗客数の改善に抜本的な対策が見いだせない中、どのように私たちの交通手段を維持していくのか。
各社の取り組みと、国の議論の行方に注目が集まっています。

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高松局記者
竹内 一帆
2015年入局。札幌局などを経て現在はJR四国など交通分野を担当。防災士の資格を持つ。
大阪局記者
三橋 昂介
2014年入局。福岡局、長崎局を経て、現在は鉄道や流通業界などを担当。
広島局記者
榎嶋 愛理
2017年入局。呉支局を経て、地域経済を担当。
千葉局銚子支局記者
岡根 正貢
30年にわたり地元を密着取材。