“法的措置”発言の波紋
騒動から見えたのは…

「弁護士とも相談し、法的措置も検討する」
発表された都道府県の魅力度ランキングをめぐり、全国44位となった群馬県の山本一太知事の発言が波紋を呼んだ。
「大人げない」「調査を萎縮させる」との反応も出る中、魅力度ランキングになぜそこまでこだわるのか。
そして、騒動はなぜ広がったのか。
(山枡慧)

ランキングの根拠不明確!?

「なぜ群馬県の順位が下がったのか、理由は判然としない。根拠の不明確なランキングにより魅力がないという誤った認識が広がることは、県民の誇りを低下させるのみならず、経済的な損失にもつながるゆゆしき問題だ」

民間の調査会社「ブランド総合研究所」が発表した自治体別の魅力度ランキングをめぐり、群馬県の山本一太知事は記者会見で不満をあらわにした。

群馬県は全国44位と、前の年よりも4つ順位を下げた。山本知事は、法的措置も含めて今後の対応を検討する考えを表明した。

このニュースは全国的にも報じられたほか、SNS上でも話題となった。県民からは「法的措置の検討」という強い発言に対し、とまどいの声が聞かれた。

(48歳男性)「ちょっとやり過ぎじゃないか。話題になるけど、逆に群馬が引かれてしまう気がした」
(51歳男性)「44位という結果に納得はいかないけど、行き過ぎかなという感じがする」
(27歳女性)「そこまでしなくても良いんじゃないか」
(26歳男性)「率直に群馬愛が強い方で、誇りがあるんだと思った」

当時、東京の政治部に所属していた私も、このニュースを見て、山本知事の発言を率直に「過剰反応だ」と感じ、強い違和感を持った。その後、群馬県の前橋放送局に転勤。ぜひ知事に真意を聞いてみたいと早速、取材を申し込んだ。

取材したのは11月中旬。知事に対し、一番気になっていた“法的措置”発言の真意について、疑問をぶつけてみた。

「法的措置を取るということは、もちろんそんなに簡単じゃないことも十分わかっているんです。でも、知事としてランキングについて発言したことの一番の目的は、このランキングが『魅力度ランキング』という名前に値するような根拠のある信頼性の高いものではないということを、県民や国民に伝えることです」

魅力度ランキング どんな調査か

いったい、どういうことなのか?

「ブランド総合研究所」は毎年、インターネットを通じて「地域ブランド調査」を行っている。全国の1000市区町村と47都道府県について、各地域の全国的な認知やイメージ形成などを明らかにすることが目的で、各地域の認知度や魅力度、訪問経験、観光意欲度、居住意欲度など89項目について調査している。ことしは3万5000人余りから、有効回答があったという。

都道府県の魅力度ランキングは、89項目のうち、「どの程度、魅力を感じますか?」という1つについて、「とても魅力的」を100点、「やや魅力的」を50点、「どちらでもない」、「あまり魅力を感じない」、「全く魅力的でない」を0点として、回答を自治体ごとに集計し、点数を算出している。

“法的措置”発言「意図がわからない」

もともとは、都道府県側からの要望で始まったというこの調査。でも、たった1問だけで魅力度を判定?
ブランド総合研究所の田中章雄社長にも、インタビューした。

「『魅力がありますか』と聞かれたときに、その人やその対象となっている地域によってたぶん魅力の定義が違うと思うんです。観光のイメージを考える人もいますし、あるいは居住であるとか、そういったところに重きを置いて評価する方もいらっしゃいます。皆さん全部考え方は違うわけですから、あえて具体的に定義してしまうよりも、その人の考えで魅力的であるかどうかと聞いたほうがいいのではないかと」

「魅力があるかどうかを5段階で評価してもらったものを数値化しているわけですから、魅力度以外何ものでもないわけですし、全体で3万5000人の方々に協力して回答していただいて、日本の人口に比例するような形でサンプリングしているので、そういった意味では非常に信頼性も高いと思います」

その上で山本知事の“法的措置”発言について聞いてみると。

「はっきり言って、何を意図しているのかわからない。調査をして発表し、それを活用して地域を活性化してもらおうという思いだが、なぜ法的措置という言葉で表しているか、意図が分からない」

調査手法に異議あり!

一方の山本知事はこう語る。

「たった1問ですよ。魅力を感じるか、感じないか。この1問に対する答えで魅力度のランキングの1位から、しかも最下位までつけるというのは、統計学的に見ても誤差の範囲。非常におかしい」

実は群馬県は、2020年のランキング結果の公表後、統計学の専門家に調査を依頼し、魅力度ランキングの調査手法などを徹底的に検証していた。その結果、県が問題としているのは主に以下の4点だ。

・89の調査項目のうち「どの程度、魅力を感じるか」という1問だけを抜き出し評価。
・「対象の都道府県を知らない」と回答した人にも質問していて、緻密さに欠ける。
・回答に対する配点が不自然。統計学的な見地から、緻密さや信頼性に欠ける。
・下位25県の点差はわずか7点で、容易に順位が変動する。

これらの検証結果を踏まえ、前述の“法的措置”発言に至ったというわけだ。検証作業までしていることを知らなかった私は、群馬県の執念に衝撃を受けた。

どんな調査なら妥当?

では、どんな調査なら妥当だと言えるのか。山本知事に尋ねてみると…

「魅力っていうのはすごく広くて、深いコンセプトだと思うんですよね。仮に魅力度ランキングを作るとしたら、50も60もある項目の中から分析して、総合的に判断すべきだと思うんですよ。例えば都心への近さとか自然の豊かさ、交流人口の多さや文化、観光客の多さとか。それでも難しいと思いますけれども、総合的な指標によって測るべきものなんだと思うんですよね」

注目されるのは下位ばかり

ところで、なぜ今回、“法的措置”発言がこれほど騒がれることになったのか?

実はブランド総研の田中社長も、ランキングの下位の結果ばかりに毎年、注目が集まる現状に懸念を抱いていることを明らかにした。

「現状だと『魅力度ランキング』という、たった1つのものだけに注目が集まりすぎていると懸念しています。我々は、特に順位が低いところに焦点をあてた情報発信は一切行っていないんです。実は数年前に30位までにして、それ以下を発表しなかったことがあるんですが、発表しないようにした瞬間に、いま以上の異論が寄せられました。『なぜ発表しないのか』と。発表する義務があるのではないかという形で、『ぜひ発表してくれ』というような意見がすごくたくさんありましたね」

下位注目の報道に疑義

実際、下位の自治体にのみ注目が集まる現状に、自治体側からも疑問が投げかけられている。

2013年から7年連続で最下位となった茨城県。2020年は最下位を脱したものの、2021年、またしても最下位となった。

「のびしろ日本一。いばらき県」など、ランキング結果を逆手に取ったPRキャンペーンなども功を奏し、県の宣伝効果は広告換算で100億円を超えたと発表している。

しかし、大井川知事は記者会見で、マスコミ報道にこう注文をつけた。

「今、ネットなどでの議論も、どちらかというとこれを大騒ぎするマスコミの姿勢が逆に問われている状況だと思う。魅力というのは、そもそもそれぞれの地域に独自のものがあるわけだから、このランキングに一喜一憂することは全く意味のないことではないか」

茨城県プロモーションチームの担当者も「実際のところ最下位が“オイシイ”とは思っておらず、ランキングが毎年、エンタメ的に取り上げられ、順位が上がった下がったという一部のみが切り取られて報じられている」と指摘する。

下位報道の背景は…

魅力度ランキングをめぐる一連の反応や報道から、何が見えるのか?
地域エコノミストで日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員に話を聞いた。

「今回の魅力度ランキングで1位から3位までの県を言える人はどれだけいるんでしょうか。非常に多くの人が上位の県にはあまり関心がなくて、下位の県をいじめる方に関心が向いている。そういう意味でも、このランキングは、本来の趣旨から外れた使われ方をされてしまっている。これは、やってる人の問題というよりは、取り上げている人の側の問題だと思います。実際に客観的な数字で見ると、明らかに群馬や栃木は暮らしやすい上に1時間で東京に遊びに行ける。正直言ってあまり欠点がない県です。それをわざと欠点があるかのごとくあざ笑うみたいな風潮に、少なくとも良識的な報道機関は手を貸すべきではない」

「ランキングを報道するマスコミは、別の観点のランキングとして、『住みやすさ指数』や実際の可処分所得、新型コロナに感染した人の比率などの数字なども合わせて、きちんと示すことが必要です。あまり欠点がない県なので、別の評価も同時に示すということが必要だと思います」

山本知事の発言をきっかけに取材する中で見えてきたのは、ランキングに安易に飛びつき「下位報道」に終始するメディアの姿勢や、それに翻弄され、困惑する調査側と自治体の双方の姿だった。

群馬県を「ポテンシャル=潜在能力から言ったら全国トップクラス」と主張する山本知事と、調査結果を踏まえて地域の魅力に磨きをかけてほしいとする田中社長。

両者の真意をどう伝えていくか。毎年の恒例行事のように報じられ、消費されるランキングに、報じる側の責任も問われていると強く感じた。

前橋局記者
山枡 慧
2009年入局。青森局を経て政治部に。文部科学省や野党、厚労省などを担当。2021年から前橋局。