「国会はだ」断言する男

甘いマスクと、父親譲りの歯切れのよい発言。
その一挙手一投足が注目を集める議員、小泉進次郎(37歳)。
いま、彼は「国会は変だ」と断言してはばからない。そして党の枠を超えて、国会改革の実現を目指す会議を発足させた。
超党派での活動に「なにか思惑でもあるのでは」という声もある。「提言」は本物か、そして、国会という堅牢な城塞を、本当に変えられるのか。
直接、本人に聞いた。
(政治部 根本幸太郎記者)

党を超えて

100人を超える議員で押すな押すな。滅多にあることではない。
6月28日に開かれた「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」の初会合。議員会館の会議室は、立ち見が出て、熱気に包まれていた。

呼びかけたのは、自民党の筆頭副幹事長である小泉氏ら。しかしこれは自民党の会合ではない。「平成」が終わる来年春までに国会改革を実現することを目指し、党を超えて集まったのだ。

会合の冒頭、挨拶に立った小泉氏の声もはずむ。

「大変混み合っていて、『この部屋じゃない方がいい』という人もいるかもしれないが、これだけ集まることが素晴らしいと思う。その思いを前向きにとらえたい」

ここが変「首相が出過ぎ」

では、どこが変なのか。
まず、「首相の国会への出席頻度」を問題視。世界各国で、これほど出ている国はないと指摘する。

「国会中に、歴史的な米朝首脳会談が行われるなど、北朝鮮をめぐる大きな外交の変化、激変ですよね。このままでは世界の動きに取り残される、と」

「国会は、総理大臣や閣僚が、説明責任を果たすために大切な場で、単純に出席頻度が少ないほうが良いわけではないが、1分1秒でも長く国会の中に居させることが、行政監視だというのは大きな勘違いだと思う」
総理大臣としての職務に専念できる時間を確保しなければ、激変する国際情勢に、的確に対応できないのではないかと訴える。

比較してみよう。同じ議院内閣制をとるイギリス、安倍総理大臣はキャメロン首相(当時)の2倍以上、国会に出席。出席時間で見ると、その差は7倍以上だ。

日本の総理大臣は、予算委員会など委員会審議への出席も求められる。一方、イギリスでは、個別の法案などは大臣が答弁し、首相は原則、週1回およそ30分の党首討論に出席するだけだ。

電話1本で外交はできない

実はこの問題、総理大臣のことだけではなく、閣僚自身からも見直しを求める声が上がっていた。
「政治マガジン」でも、こんな記事を掲載している。

「実現会議」の初会合には、このつぶやきをした河野外務大臣も出席。

外交への影響を、エピソードを交えて訴えた。例えば、日本への訪問を検討している外国の要人が、事前に外務大臣との面会を打診しても、日本側は「調整するが国会のために会えないかもしれない。短くなるかもしれない」と答えざるを得ない場合があり、最後まで約束できないために、日本が訪問先に選ばれないことがあるという。

小泉氏も、今の国会のままでは、外交の支障になるのではないかと考える。
「河野大臣から聞きましたが、国会の関係で、外国を訪問できないため、電話会談で、いろいろやりとりしないといけないケースがあるそうです。その時、先方から『電話1本で外交が、片がつくと思うなよ』と叱られたことがある、と。これ、日本国民として、どう思いますか?情けなくなった。改めて、日本の国会は大丈夫かと思った」

ここが変「党首討論」

そして、もう1つ改善の必要があると指摘するのが、党首討論。

「2大政党制を前提とした党首討論のルールになっているので、いくつ野党があるかによって、その善し悪しが決定づけられてしまう。この前の党首討論で、一番長い党で15、6分、一番短い党で5、6分となって、消化不良で終わりますよね」

実際に、今国会で、およそ1年半ぶりに開催された「党首討論」では、野党の数が多いため、各党の持ち時間が短くなってしまったうえ、延々と発言を続ける場面もみられ、十分に議論が深まったとは言えないという指摘が出た。そして、与野党双方の党首が「党首討論は、歴史的使命を終えた」と言及するなど後味の悪い結果に。

『夜の党首討論』を

そこで提案しているのが、開催を2週間に1度と定例化することと、多くの国民が視聴できるよう、夜間に開催するという2点。小泉氏とともに、国会改革を検討してきた自民党の橘慶一郎衆議院議員(57歳)は、定例化の意義を強調する。

「45分の党首討論を、2週間に1度の頻度で5か月間行うと、450分になる。そうすると『きょうは45分、立憲民主党が全部討論する』とか、そういうやり方もできるようになる。やはり、議論のラリーが起きて、初めて各党の違いや思いが国民に伝わるので、何回も何回も開催することでもっと良いスタイルになっていく」

でも、やっぱり難しい

順調にスタートしたと見えた「実現会議」。しかし、国会改革というものは、そう簡単には進まない。それぞれが置かれた立場で、当然、考えに差が出る。2回目の会合のあと、それが表面化した。

記者会見で、小泉氏が「総理大臣や閣僚が1分1秒でも長く議会にいることが、行政監視を果たすというのは勘違いだ」と持論を展開。

これに、国民民主党の泉健太国会対策委員長(43歳)が「小泉氏の言ったことは、『実現会議』の意見ではない」と、待ったをかけた。

泉氏は「総理大臣や閣僚が国会に来ることは、行政を監視する上でも、国民主権の観点からも、非常に大事だ」と主張。「国会に1分1秒でも長くいればいいとは思わないが、1分1秒でも短くすればいいとも思わない」と、真っ向から反論したのだ。

国会審議は、野党側にとっては、政府側を追及する重要な場。総理大臣や閣僚の国会出席を減らすことは、自分たちの攻め手を失うことになり、ただちに受け入れるのはできない。

さて、どうする

このため、「実現会議」では、ペーパーレス化など、まずは与野党が合意しやすい内容に絞って議論を進めることを確認。小泉氏は、成果を出すことで、さらなる国会改革につなげていきたいとしている。

「どんなに小さくてもいいから、まずは与野党の損得ではないテーマで、何だったら野党も飲めるかという1点で考えたい。まずは1つでも動かして、『国会改革って動かないと思っていたけど本当に動くんだ』と。1回勝つと、今回の日本のサッカーワールドカップみたいに、勝った瞬間に『いける』と空気が変わるじゃないですか。だからまずは1勝しよう、と。平成のうちに風穴を開けたい」

道は閉ざされていない

前途多難な国会改革。元民主党の参議院議員で、慶應義塾大学の松井孝治教授は、国益を考えて、与野党ともに歩み寄ることが必要だと指摘する。

「どういう国会審議のあり方がいちばん、行政監視の点で健全か、討論の場として機能するのか、そういうことを与野党が立場を超えて議論すれば、最終的に与党も野党もウィンウィンになる国会の役割はあるのではないか。与党も野党もお互いが歩み寄れば、お互いにとって意味がある改革へという道は閉ざされていないと思う。次の時代の新しい国会の礎を、この1年で何らかの形で見いだして欲しいと思う。それが平成という時代を生きている政治家の1つの使命ではないか」

言葉だけで終わらせず

与野党を巻き込んだ小泉氏の動きに、永田町では、将来的な政界再編も視野に入れているのではないかなどと、臆測も飛んでいる。ただ私が取材するかぎり、政局的な思惑というよりも、もっと純粋な「おかしいものはおかしい」という思いが突き動かしているように感じる。

平成が終わるまで、1年足らず。言葉だけで終わらせず、結果を出すことができるか。小泉氏にとって、手腕を問われる場になるのかもしれない。刮目して結果を待ちたい。

政治部記者
根本 幸太郎
平成20年入局。水戸局から政治部。趣味は、ロックミュージック。