ブリパーク誕生へ
どんな施設 なぜ愛知に

「となりのトトロ」、「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」などなど、世代を超えて愛され、海外でも人気の高い作品を生み出している、スタジオジブリ。
そのジブリと「行政」のコラボレーションによる新たな取り組み「ジブリパーク」が実現するという。その場所は愛知県。なぜ愛知?どうして愛知?
“異色のコラボ”で実現した施設はどんなものか、そして誘致までの道のりを取材した。
(名古屋局記者・坂井一照)

広大な用地は、あの跡地

4年後の2022年度、愛知にオープンする「ジブリパーク」。
場所は、長久手市にある「愛・地球博記念公園」だ。13年前、「自然の叡智」をテーマに開かれた万博の会場の跡地で、およそ200ヘクタールの敷地は、現在、公園として整備されている。

愛知県が発表した基本デザインによると、テーマごとに5つのエリアに分けて、まるでジブリの映画に入り込んだような体験ができる施設を誕生させるという。

①青春の丘エリア

施設のシンボルのメインゲートには、特徴的な形の塔を配置。映画「ハウルの動く城」などの作品に登場する、19世紀末の空想科学的なデザインを取り入れている。

「耳をすませば」で主人公の少女・雫が足を運んだ、アンティークショップ「地球屋」も再現するという。

②ジブリの大倉庫エリア

園内ほぼ中央には、この秋営業を終える温水プールをリニューアルして、屋内型の施設を整備。

施設全体を大きな倉庫に見立て、ジブリ作品を上映する劇場や子どもの遊び場が整備されるほか、映画の企画書やポスターなど、ゆかりの品々を展示する計画だ。

デザインには「CAT BUS」の文字も。「ネコバス」に関係する何かができるかも。

③もののけの里エリア

公園の北東部には、日本的な田園風景を生かしながら、映画「もののけ姫」にちなんだ建物や広場を整備。

映画に登場する巨大なイノシシの「乙事主」や「タタリ神」をモチーフにしたオブジェも配置する計画だ。

④魔女の谷エリア

公園の東部、野外ステージなどがある大芝生広場の近くには、「ハウルの動く城」の「ハウルの城」や、「魔女の宅急便」の主人公キキの実家など、映画に登場する建物を忠実に再現。

黒猫のイラストがついたコーヒーカップのような遊具も描かれ、この一帯にはアトラクションの整備も想定されている。

⑤どんどこ森エリア

2005年の「愛・地球博」の際には、「となりのトトロ」の主人公が住む「サツキとメイの家」が建設された。

これを活用するとともに、周辺には、トトロの森のような散策路を整備する計画。「どんどこ」とは、映画の中で、サツキとメイが蒔いた種が早く芽を出すようにと、トトロと一緒にした踊りのこと。

なぜジブリが愛知に

実は、愛知県とジブリの関係は今に始まったことではない。「サツキとメイの家」を万博の会場に造ったあと、10周年を記念してジブリの歩みをたどる博覧会を県主催で開いた。愛知県の大村知事は、この博覧会がきっかけで「自分とジブリとの縁ができた」と振り返る。

「愛・地球博は、『自然の叡智』、『人、生き物、地球に対する愛』がテーマでしたが、これはジブリ作品に流れているものと理念が一致する。それで博覧会を開いたんです。そして次は、ジブリ作品を世界に広げるお手伝いができないかとジブリパークの構想を提案しました。万博はやって終わりではなく、その理念を次世代に引き継いでいく使命があると思っていますし、既存の施設を有効に活用したいということもありました」

交渉は紆余曲折

スタジオジブリとの交渉には、大村知事みずからがあたり、主に名古屋出身の鈴木敏夫プロデューサーとやりとりを重ねた。

しかし、別の場所が浮上したり、施設の内容をめぐって意見が分かれたりと紆余曲折があったという。このため、東京・三鷹市にある「三鷹の森ジブリ美術館」や、小金井市にあるジブリの事務所などを何度も足を運んだ。

2000万円投じて下調べ

2017年5月末に、名古屋市内で、大村知事と鈴木プロデューサーが会談し、整備構想で合意。翌6月の県議会で、2000万円の補正予算を組み、万博公園の調査に着手した。その年の11月には、「ジブリパーク構想推進室」を設置。県の職員10人が、ジブリ側や地元自治体との調整などを行う、いわば「実働部隊」だ。

この部屋の看板は、鈴木プロデューサーが揮毫したものだ。そして、ことし3月末に、2022年度中の開業を目指すことなどを盛り込んだ「確認書」が締結され、4月下旬の基本デザインの発表となった。

「彼らはアーティスト集団で、万博公園の現場を何度も自分たちの足で歩いて、距離感とか季節感を肌で感じながら、デザインを描いています。“本物のジブリ”を作るということで、共同で事業を展開できるのは大変嬉しいし、ありがたいです」

渋滞する場所だが…

一方、課題の1つになりそうなのが、ジブリパークまでのアクセスだ。長久手市は、名古屋市のベッドタウン。最新の国勢調査によると、住民の平均年齢が日本で一番若い。今後も人口増加が見込まれる地域だけに、周辺には大型商業施設の進出も相次いでいて、週末の市内は、激しい渋滞が常態化している。市民からは、「混雑に拍車がかかるのではないか」、「道路の整備が必要ではないか」といった声も出ていたので、聞いてみた。

「万博のときは、半年で2200万人が足を運んだ実績がありますし、できる対策はオープンまでにしっかりやっていきます。公共交通機関の利用の促進や、名古屋駅や中部国際空港からの直行バスなども活用しながら、混乱なく人が流れていく仕組みをしっかりつくっていきたいと考えています」

「夢だけど、夢じゃない」と言えるか

ジブリパークの整備資金がどのくらいになるのかも、まだ見えていない。今後、総工費や入場料などを検討していくことになる。こうした課題は、県の構想推進室が中心となってジブリ側と詰めていくことになる見通しだ。

ネット上では、ファンたちが、自発的にイメージを膨らませるなど、早くも期待が高まっている。それだけに、大村知事は、そうしたファンの声を励みにしつつも、「行政としての責任も重い」と話す。

「ハード施設を作るのは簡単じゃないし、労力もお金もすごくかかります。でも、とにかく本物を追求したい。「トトロ」のサツキとメイのセリフじゃないですが、足を運んでくれる人に、『夢だけど、夢じゃなかった!』と言ってもらえるように、責任を持ってやっていきたいと思います」

オープンは4年後。今年度中に基本設計を固め、2020年度に着工する方針だが、時間的に余裕があるとはいえず、クリアすべき課題は多い。「夢じゃなかった」と言える施設になるのか、取材を続けたい。

 

名古屋局記者
坂井 一照
平成22年入局。新潟局を経て、平成27年から名古屋局。現在、県政を担当。趣味は、落語鑑賞。