歴代最長政権 外は
どう見たか

アメリカ
「他国がまねしたい位な蜜月。ただ、簡単に政策がひっくり返る可能性も」
中国
「永遠の隣国関係どうし協力して手をとりあうべき」
ロシア
「個人的信頼はあるが、領土問題の解決は、幻想では…」

11月20日、歴代最長となった安倍政権を世界はどう見ているのか。
今回、私たちは各国メディアの東京駐在の特派員を取材し、二国間関係を中心に安倍外交の評価を聞くとともに各国の本音を探った。
(政治部取材班)

“地球儀俯瞰外交”

安倍総理大臣が、第2次政権以降の6年11か月で訪れた国は、のべ172の国と地域。移動距離は155万キロ余り、地球を38周以上した計算になる。
この中で、最も多く訪れたのはアメリカ。その数、実に16回。

3年前に行われたアメリカ大統領選挙でトランプ氏の当選が決まった直後の11月、「初めて」会った外国の首脳は、安倍総理大臣だった。トランプ大統領との個人的な関係は世界の首脳の中でも際立っている。

”安倍・トランプ” 日米関係は

日本が、かつてない強固な関係だとしている日米関係。アメリカのメディアはどう見てきたのか。

有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長で、日本取材歴は通算およそ17年になる、ピーター・ランダースさん(50)。安倍総理大臣に直接、インタビュー取材した経験もある。

「最初、読者の間では、『アベノミクス』で日本経済を復活させるという意味で安倍総理は注目されていた。最近はあまり言われなくなったがね…。アメリカの経済関係者の評価は悪くはないと思うよ」

そして、注目してきたのは、やはり、トランプ大統領との関係だ。
「トランプ大統領という、全く誰も予想しなかった人に対して、ほかの国が被っているようなダメージを避けているという意味で、大きな成果を上げている」

どういう意味か。

ランダースさんは、激しい貿易摩擦が起きている米中関係と比較して説明した。

「中国は高い関税を払わなければならなくなり、トランプ大統領になるまでと比べ、全く不利な状況だ。これに対し、日本は、貿易協定もそうだが、状況はそれほど変わっていない。日本経済全体で言えば、ほとんど被害はなかった」

日米首脳の蜜月は、アメリカにとってどうかはわからないが、日本にとってはプラスだと思う。他国がまねしたい位にプラスになっている

安全保障面でも、日米同盟はより強固になったとされる中、日米の関係に死角はないのだろうか?

「うーん…。トランプ大統領との個人的な関係は、かつてないほど強い。一方、国家の組織同士の関係では、まだそこまでは基盤を作り切れていない気がする。仮に来年の大統領選挙で、日本に懐疑的な見方をする民主党の候補が当選した場合、日本にもっと貿易の不均衡を見直すよう迫ったり、防衛面で負担を求めたりなどと、簡単に政策がひっくり返る可能性はあると思う」と指摘した。

日本とヨーロッパは

そのトランプ大統領との関係が、貿易や安全保障面でぎくしゃくしているとも言われるヨーロッパ。フランスの有力紙、ル・モンドの東京特派員、フィリップ・メスメールさん(47)の指摘はこうだ。


「トランプ政権と交渉するのは、とても難しいことだ。だから安倍総理は、やりすぎだとは思うが、ベストを尽くし現在の関係は良い。しかし、あすは…。もし米中の貿易交渉が解決したら?、もしアメリカが在韓米軍の韓国負担増額に成功したら?、次は日本にもっと求めてくる。それがトランプ大統領のやり方だ。日米の首脳の関係は強固だと言うけれど、簡単に壊れかねない。トランプ政権を見ているとそういう印象だ」

一方、安倍政権の日本と、ヨーロッパの関係については。
「関係は非常に良いと思う。特に経済面で日本とEU=ヨーロッパ連合のEPA=経済連携協定が締結されたことは良い進展だった。フランスも、日本を外交における優先順位の高い国とし、安全保障分野では、インド太平洋地域への関心を共有し関係は非常に良い」

ただ、メスメールさんからは、環境問題や女性政策について手厳しい指摘が相次いだ。

「ことし6月のG20大阪サミットでは、地球温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』をめぐり、日本は、協定に否定的なトランプ大統領に配慮して、消極的だった」

『女性活躍』については、女性を輝かせると大キャンペーンをやっているが、言葉よりも行動が重要だ。しかし、女性の働きやすさに向けた待機児童対策のほか、企業の女性管理職を増やすこともあまり進んでいない。男女の所得格差は広がったままで、経済大国なのにとても残念だ」

中国は日本をどう見る

そして、大国となった中国。今、安倍政権に何を思っているのか。

「外交は、相手国の政権に合わせてやっている。一つの政権が長期に続いている間は、基本方針が変わらないだろうから、そういう意味では外交がやりやすいでしょうね」
こう話すのは、中国国営の経済紙、「経済日報」の東京支局長、蘇海河さん(55)だ。

「僕たちから見れば、安倍さんは、第2次政権に入ってから、第1次よりソフトな態度で、日本国内でも国際社会でもいろんな意見が聞けるようになり、より現実的になってきた。そういう意味で、よく協力できるパートナーになると思う

日中関係は、民主党政権では沖縄県の尖閣諸島の国有化や、中国漁船の衝突事件をきっかけに悪化。安倍政権になっても、尖閣諸島をめぐっては中国公船の領海侵入などが相次ぎ、その都度、日本側は抗議してきた。

しかし、蘇さんは、そうした中でも、対話と協議、そして経済交流を重視してきた安倍政権の姿勢が、今の関係改善につながっていると指摘する。

「安倍総理は、『中国の発展は、日本にとってチャンスだ』というスタンスで臨んできた。経済交流がどんどん密になり、中国人の日本に対する理解も深まってきた。それも、両国間に横たわる問題は『対話と協議を通じて情勢悪化を防ぐ』という合意を、安倍政権が中国政府との間でできたからだと思う

一方、中国は、貿易問題で対立するアメリカを念頭に「保護主義や一国主義に反対する」とした上で、日本には接近を図っているとみられている。日米同盟を基軸とする日本の立ち位置がアメリカ側にある中で、中国政府は、日本をどう評価しているのだろうか。

まさに、一国主義か国際協調路線かですよね。日本はTPP=環太平洋パートナーシップ協定も、そして、今交渉が行われている中国も含めたRCEP=東アジア地域包括的経済連携も積極的に進めている。これを中国は高く評価している」

その上で…。
「日本はアジアの国で永遠の隣国関係だ。国際自由経済をどんどん進めるため、中国と日本が協力し、もっと広い範囲で、いろんな国と手をとり合って進めていくべきだ

”安倍・プーチン” 日本とロシアは

そして、もうひとつの大国、ロシア。

「安倍晋三氏は、ロシアでは、作家の村上春樹氏、映画監督の北野武氏の次に有名だ。ただ、安倍政権の長さは、ロシア人にとってはそれほどでもないね。というのも、ロシアのプーチン政権は、合わせて15年ほども続いているからね…」

そう話すのは、ロシア国営テレビ・ラジオの東アジア支局長、セルゲイ・ミンガジェフさん(42)だ。

北方領土問題を含む平和条約交渉という難題を抱える日ロ関係。

安倍総理大臣とプーチン大統領は27回もの会談を重ね、お互いを「ウラジミール」、「シンゾウ」と、ファーストネームで呼び合う関係を築いてきた。

これについて、ミンガジェフさんは、「通訳のみを同席させた1対1の会談で本音で話ができるという意味での信頼関係はあるとは思うが、それだけで実際に問題を解決できるかというと、不十分だ」と厳しい見方を示す。

それはなぜか。

首脳間だけでなく、国民同士に良い信頼関係がないといけない。両国政府は、『関係が良くなっている』としているが、数字を見ると、貿易量や経済協力は低いレベルだ。二国間関係の発展には、必ず、経済分野での関係強化が伴わなければならないと思っている」

その上で…。

「両首脳が目指すのはウィン・ウィンの解決を見つけることだ。しかし、ロシアにとってのウィンとは、北方四島の主権はロシアに残った上で平和条約を締結し、経済分野の関係強化を進めることだ。一方、日本の最終的な目的は、どんな形かわからないが、主権は日本に戻すことなんでしょう?これだと、ウィン・ウィンにはならない」

さらに、ロシアと対立するアメリカを強く意識した発言も。

「ロシア政府から見ると、日本は経済は強いが、国際政治で強いポジションを取れているとはまだ言えない。日本のイメージは、何よりもまず、アメリカの同盟国であり、アメリカの政策に従っているとみている。そうした点からも、領土問題の解決は、幻想ではないでしょうか

日韓関係は

一方、戦後最悪とも言われる日韓関係。

韓国の人たちは、安倍政権をどう見ているのか。韓国の保守系有力紙、朝鮮日報の東京支局長、イ・ハウォンさん(李河遠・51)に聞いた。

安倍政権は率直に言って人気はない。安倍総理は日韓関係を大切にしない、そんなイメージが韓国では強い。植民地の被害者だったので、日本から学びながら、どのように乗り越えるのか。日本は友好関係を結ぶライバルじゃないかと思っている」

日本政府は、関係改善のためには、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国が国際法違反の状態を是正するよう、重ねて求めてきた。

イさんは、具体的な解決策を打ち出さないムン・ジェイン(文在寅)政権の対応には批判的だ。

「1965年の日韓請求権協定は、守っていくほうがよいと思う。被害者の救済については、韓国政府がまず法整備して解決し、日本企業が未来志向で、自発的に救済のための取り組みに参加する案が考えられるのではないか」

一方、日本政府が、ことし7月に「安全保障上の措置」として行った韓国への輸出管理の強化については、強く批判する。

「G20大阪サミットで自由貿易を宣言した安倍総理が、直後にこのような措置をとったのは大いに間違った行動だ。参議院選挙を前に、政治的な徴用の問題に対し、経済的に報復したことになる。韓国経済が悪化し、国民が心配している中だったので不安感を増幅させることになった

ただ、うらやましい点があるという。

「ことしは令和時代に入ったのを利用してトランプ大統領を国賓として招待し、TICADではアフリカの首脳を、即位の礼でも200人近い各国の要人を招待した。このような役割を果たせているのは、本当にうらやましい」

そして、日韓関係改善に向けては…。

「私はある程度、日本の立場を理解できるが、最後の段階で安倍政権や日本国民が柔軟性をみせてほしい。法律的な問題ではなく、日本は加害国だと謙虚に考え、問題解決に乗り出すことを望みたい。遠い道かもしれないが、お互い知恵を出す。日米韓3か国の協力を強くするのが利益であり、日韓がけんかして時間を無駄にする余裕はない。未来志向が重要だ

日本に期待される役割とは

日本の長期政権に、さまざまな見方を持つ海外メディアの記者たち。
取材の最後に、全員に問いかけてみた。
「今後、国際社会において、日本に期待される役割はなんですか?」

アメリカ・ランダースさん
「民主主義に厳しい時代、世界のお手本に」

フランス・メスメールさん
「平和構築へ他国の後追いせず自ら戦略を」

中国・蘇さん
「経済の国際協調主義を守る」

ロシア・ミンガジェフさん
「米の意思決定に左右されない役割を」

韓国・イさん
「近隣国の不安解消し平和と経済に役割を」

政治部記者
山本 雄太郎
2007年入局。山口局勤務を経て政治部。現在は外務省を担当。
政治部記者
小泉 知世
2011年入局。青森局、仙台局を経て政治部。外務省担当を経て、現在、厚労省を担当。医療など社会保障政策を取材。
政治部記者
高島 浩
2012年入局。新潟局を経て国際部。2019年8月から政治部で外務省担当。専門は中国。
政治部記者
渡辺 信
2004年入局。サハリン赴任など経験し、現在は政治部で外務省担当。小学生の時にモスクワ生活。大学時代も旧ソビエトのウズベキスタンに留学。
政治部記者
瀧川 学
2006年入局。佐賀局、福岡局を経て報道局政治部。その後、沖縄局で県政を担当し、現在は政治部で再び取材にあたる。