ついにいた! 野党の舞台裏

ついに野党が動いた!
10月4日からの臨時国会に向け、立憲民主党や国民民主党などが衆・参両院で会派を合流させた。
政権転落から7年弱。
「安倍1強」とも言われる政治状況が続く中、分裂した勢力が再びひとつにまとまり反転攻勢の契機となるのか。「民主党への先祖返り」に終わるのか。舞台裏を追った。
(奥住憲史、佐久間慶介、米津絵美)

「民主党」再結集!?

9月19日、国会内の一室。立憲民主党、国民民主党、社会保障を立て直す国民会議の野党3党派の代表・幹事長6人が一堂に会し、握手を交わした。

枝野幸男と同じく官房長官を務めた平野博文と、前総理大臣・野田佳彦。

そして、元外務大臣の玄葉光一郎。

2009年9月から3年3か月、民主党政権の中核を担い、毎日のようにテレビや新聞に登場した顔ぶれだ。
このメンバーで、臨時国会から、国会の会派を合流させることで正式に合意した。

いきなり国会対策委員長

再び集う旧民主党メンバーたち。その中に、かつての財務大臣、安住淳の姿もあった。

無所属で活動してきたが、今回の会派合流にあわせて立憲民主党に入党、国会対策委員長に就任した。

国会審議全般に責任を持つ国会対策委員長は、与野党攻防、野党内協調の前線指揮官だ。安住は、与党・民主党時代にこの重責を経験し、国会での駆け引きの酸いも甘いも味わった。

安住だけではない。かつての文部科学大臣・中川正春が立憲民主党に入党、国土交通大臣を務めた馬淵澄夫らも会派入りを表明した。

「民主党にいた仲間も多く、いろいろな失敗と挫折を繰り返してきたが、それを教訓にしたい」
安住は記者団に意気込みを語った。

枝野の方針転換

なぜ、袂を分かったメンバーが、再結集したのか。
そこには、立憲民主党代表・枝野の方針転換があった。
「永田町の合従連衡にはくみしない」
立憲民主党の結党以来、枝野が貫いてきた姿勢だ。

党の理念、政策を何よりも重視してきた枝野は、「永田町の数合わせの論理ではないか」との指摘に、淡々とこう答えた。
「基本的な姿勢が変わったとは思っていないが、こうした戦い方が必要なフェーズに入った、ステージが変わったと思っている」

「れいわ新選組」の衝撃

「ステージが変わった」

民主党政権で閣僚も経験したベテラン議員は、こう解説する。
「参議院選挙で躍進した『れいわ新選組』に、これ以上、支持が流れないようにするためだよ」

参議院選挙で議席を伸ばした立憲民主党。しかし、比例代表では、2017年の衆議院選挙から300万票以上、得票を減らした。

一方、れいわ新選組は比例代表で228万票、2議席を獲得した。旧来の野党勢力が安倍政権の批判票の受け皿になりきれず、「れいわ」などの新たな勢力に票が流れた、という見方もある。

「山本太郎に表彰状を」

枝野自身は、こうした見方と会派合流との関係をかたくなに否定する。だが、れいわ新選組の山本太郎代表とかつて国会で行動をともにした国民民主党の小沢一郎は、冗談交じりに、こう語った。

「枝野さんは立憲民主党の将来に、かなり過大な見通しを持っていたが、山本太郎君が率いる『れいわ新選組』が参議院選挙で出した結果に、非常に影響を受けた」

「この結果を見て大きく認識を改めたようだ。山本太郎君に表彰状を出さなくちゃいかん」

「数は力」が持論の小沢。旧民主党を中心とした野党勢力の再結集が不可欠だと考えている。立憲民主党との会派合流に難色を示す議員を水面下でひとりひとり説得し、合流に一役買った。会派だけでなく党の合流まで持って行けば、次の衆議院選挙での政権交代も可能だと読んでいる。

“政策丸飲みで吸収”

臨時国会を前に正式に決まった会派の合流。ここまでの道のりは、決して平たんなものではなかった。メンツとメンツのぶつかり合いもあった。

会派合流の動きが表面化したのは、8月5日。
この日、立憲民主・枝野は、国民民主・玉木と党首会談を行った。

衆議院で会派を合流したいと呼びかけ、1枚の文書を手渡した。

「立憲民主党の原発ゼロ法案等のエネルギー関連政策、選択的夫婦別姓のための民法改正などの政策に『ご理解とご協力いただき』」
「院内会派『立憲民主党・無所属フォーラム』に加わって、衆議院でともに戦っていただきたく…」

回りくどい表現だが、
「立憲民主党の政策を丸飲みしてもらい、会派に国民民主党の議員を吸収する」
と解釈できる内容だった。

玉木の逆提案

会談の場で初めて文書を目にした玉木は、「上から目線だな」と感じたという。

国民民主党内からは反発の声が相次いだ。
「原子力政策など立場の違う政策は協議すべきだ」
「あくまで対等な立場で会派を合流させるべきだ」

しかし、突っぱねられない事情もあった。

党の支持率の低迷だ。
NHKの世論調査では、8月の国民民主党の支持率は1.5%。上向く兆しはない。

「野党勢力を結集させ『大きなかたまり』を作る以外に残された道はない」と感じていた玉木。

衆・参両院で足並みをそろえて政府・与党に対じするため、枝野に
「衆議院だけでなく、参議院でも会派をともにする」
と逆提案することにした。

いったんは物別れに

8月15日。お盆で永田町は閑散としていた。

枝野と玉木が再び会談。玉木の逆提案を、枝野は一蹴した。

政策を丸飲みするのか、立憲民主党の会派に吸収でいいのか。
「回答になっていない」

会談は物別れに終わった。

メンツを乗り越え

局面打開の場は、8月20日、3回目の党首会談だった。

この日も1枚の文書が重要な役割を果たす。

枝野、玉木の連名で発表された合意文書。
「国民民主党は、8月5日の立憲民主党の申し入れを受け入れ」
とある。

その一方、
「それぞれが異なる政党であることを踏まえ、それぞれの立場に配慮しあうことを確認」
とも記された。

立憲民主党は、前段の表現で
「国民民主党はわれわれの提案を受け入れた、つまり、政策を丸飲みしたうえで会派にも加わる」
と主張できる。

一方、国民民主党は、後段を根拠に
「政策を丸飲みしたわけではない」
と強弁できる。

枝野と玉木は、互いのメンツに配慮しつつ、「実利」のため“政治決着”を選んだ。

原子力政策などの協議を事実上棚上げし、合流への動きを加速させる道筋が定まった。

蚊帳の外の連合

一連の動きを、両党を支援する労働組合・連合は、どうとらえたのか。

連合はおよそ700万人の加盟者を擁し、民主党や民進党に大きな影響力を及ぼしてきた。これまでも、政策・政局全般にわたり、支援する政党と密接に意見を交わしてきた。

しかし、今回は違った。

枝野が玉木に会派合流をもちかけた8月5日。
ある連合幹部は、党首会談の開催を報道機関からの取材で初めて知った。

「神津会長も、事務局長も、誰も知らされていなかった。会談後も正式な説明は無く、報道で内容を知ったくらいだ」

会派の合流は党主導で進められ、連合は、その後も「蚊帳の外」に置かれ続けた。

3回目の党首会談で合意文書が交わされた8月20日のこと。
「これから党首会談を行います。内容は会談後にご報告します」

立憲民主党の幹事長、福山からの電話だった。会談開始30分前のことだった。

その日の朝。
玉木は、連合傘下の6つの労働組合との定例会合に出席していた。
「政策論議ありきでないとダメだ」
などと指摘する労組側に対し、玉木は
「党の根幹となる部分にゆるぎはない」
などと応じた。

しかし、直後に予定されていた党首会談には触れなかったという。

出席した労働組合の幹部のひとりは、直後の党首会談で合流合意に達したことを報道で知った。
「バカにしているのか」
記者の取材に吐き捨てた。

別の連合幹部は、こう感情を吐露した。
「以前であれば事前にもう少し根回しや細かいフォローがあったものだ」

政策協議、棚上げで…

影響は早くも翌日に表面化した。

「立憲民主党の原発ゼロ法案そのものを容認したわけではない」
記者団の前で明言したのは国民民主党の総務会長・小林正夫だ。

小林は、各電力会社の労働組合、電力総連の出身で、組合の支援を受けて参議院・比例代表で当選を重ねている。「原発ゼロ」を直ちに目指す政策は受け入れられないと、出身母体の意を体してけん制した形だ。

「政策に協力してもらえないならば、党首間の合意違反だ」
枝野はただちに反発。怒りをあらわにし、破談もちらつかせた。

労働組合からの突き上げは、これにとどまらない。
9月10日に名古屋市で開かれた、「UAゼンセン」の定期大会。

UAゼンセンは、繊維や食品、流通業界などの労働組合で、国民民主党を支援している。
大会で、松浦昭彦会長は、次のようにあいさつした。
「『異なる政党であることに配慮する』のか『立憲民主党の政策を丸飲みする』のか、中道改革政党としてのスタンスは堅持できるのか、こうした点があいまいなままでは、組合員に説明できない」

さらに松浦は、玉木を名指しした上で、こう続けた。
「国民民主党としての独自政策やスタンスをかなぐりすてて会派を合流することになるなら、私たちは支持することはできない」

満座を前にした異例の批判に、玉木は、うつむいたまま、身を固くした。

直後に登壇した玉木。
「大切なことを決めるときには、しっかりと説明して、プロセスを大切にしながら丁寧に進めたい」

そして、こう力を込めた。
「何のために結集するのか、その『大義』を明確にしたい。また『中道改革』という党の立ち位置をしっかり守りながら進んでいきたい」

181人の新勢力誕生で

会派合流を正式に決めたあとも、会派の名称や人事をめぐり、最後まで調整は難航した。
取材しながら、「そういうことにこだわる前に政策を」という思いが沸いてこないでもなかったが、何はともあれ、衆議院120人、参議院61人の新たな勢力が誕生した。

次の衆議院選挙を視野に、会派にとどまらず、政党どうしも合流すべきだという声が早くも出始めている。

「単なる数合わせ」、「旧民主党への先祖返り」という批判もあるが、圧倒的な議席を有する与党に対し、反転攻勢のきっかけをつかむことができるのか。まずは臨時国会の論戦を注目したい。

(文中敬称略)

政治部記者
奥住 憲史
2011年入局。秋田局を経て16年より政治部。厚労省や外務省を取材、現在は立憲民主党などを担当。
政治部記者
佐久間 慶介
2012年入局。福島局を経て17年より政治部。現在、立憲民主党の枝野代表の番記者。
政治部記者
米津 絵美
2013年入局。長野局を経て18年より政治部。現在、国民民主党の玉木代表の番記者。