票率の予測崩壊
50%を割るなんてなぜ!?

投票率は52%台!
参院選投票日の11日前。われわれは事前の電話世論調査をもとに、そう予測した。過去3番目に低かった6年前と同程度の「低め予想」だった。
予測の記事はこちら

しかし…実際の投票率は48.80%。予測を大きく下回り、24年ぶりに50%を割り込んだ。なぜ予測は外れたのか?反省を込めて検証する。
(政木みき)

静かすぎる選挙 青森県の場合

嫌な兆候はあった。青森県選挙管理委員会の川崎了総括主幹は振り返る。

いつもの選挙なら「選挙カーの音がうるさい」といった苦情の電話がかかってくるはずなのに、今回はクレームの電話すらない。静かすぎる。

かつて参院選と衆院選の2回連続で投票率「全国最下位」になったことがある青森県。

3年前の参院選で、「脱!投票率全国最下位」を掲げた県選管の取り組みは全国的注目を集め、投票率は55.31%とその前の選挙より9.06ポイントも上昇、全国平均をも上回り、見事「最下位」脱出を成し遂げた。

そして迎えた今回の参院選。SNSでの発信、お笑い芸人やアイドルと行ったキャンペーンなど、選管は精力的に投票を呼びかけてきた。

しかし、悪い予感は現実となる。期日前投票をした人は3年前を下回り、最終的な投票率は42.94%と国政選挙として過去最低を記録してしまったのだ。前回と比べ投票率が12.37ポイントも下がったのは全国最大の下げ幅だ。

選管の川崎さんは「前回の反動はあると思うが残念の一言です」と肩を落とした。そして、統一地方選挙から間もない亥年の参院選は投票率が低調となる“亥年現象”の影響を聞くと、ため息まじりにこう語った。
「私たち選管は疲れてなかったんですけどねえ」

調査からみる「静かすぎる反応」

静かすぎる有権者の反応は事前の世論調査にもあらわれていた。

前回の亥年、平成19年の参院選では「非常に関心がある」が3週前の36%から1週前の40%へと緩やかながらも上向いていたのに対し、今回は4週前で19%と低く、われわれが予測を出した後の1週前になっても22%と伸びないままだった。過去の調査でも参院選の関心は大きくは上昇しない傾向がある。しかしそれをふまえても、今回の直前の結果は低すぎた。

年代別に見ても、4週前から1週前のグラフはほぼ重なり、目立った関心の高まりはみられない。

特筆すべきは、18~39歳までの若い層だけでなく、支持政党別でふだん支持する政党を持たない、いわゆる支持なし層でも「非常に関心がある」という人が約10%と低調のまま動かなかったことだ。

広がる支持なし層、細る政治への関心

時系列比較をすると、支持なし層で参院選に関心をもつ人がこの12年で目立って減っているのがわかる。
投票日1週前時点でみると、平成19年は支持なし層で「非常に関心がある」という人は33%だったが、選挙のたびに減少し平成25年は16%、今回は11%だった。「ある程度関心がある」人を合わせても減少傾向は同じだ。前回までと調査方法が同じ固定電話のみの傾向も違いはない。

一方、支持なし層の全体に占める割合は増加傾向にある。こちらの図の黒い線を見ていただこう。

平成19年から平成25年は20%台で推移していたが、平成28年(34%)に3割を超え、今回は39%となった。固定電話のみの傾向も同様だ。特に中高年での増加が顕著で、40代50代では5割前後、60代は4割近く、70歳以上でも3割近くが支持なし層となった。

支持なし層が年代を超え広がるのと、選挙への関心を失っていくのが同時に進んだことが、今回の投票率の大幅な低下をもたらす一因になったと考えられる。

ぼやけた争点

最大の争点と目されていた年金問題で、有権者の投票先選びに大きな違いが出なかったことも、「静かすぎる選挙」をもたらした可能性がある。

参院選で投票先を選ぶ際に最も重視したい政策課題を選んでもらった結果では、「経済政策」や「消費税」をおさえ4週連続で「社会保障」がトップであり続けた。さらに、投票先を選ぶ際に公的年金をめぐる問題を考慮するかどうか尋ねると、7割近くが考慮すると答えていた。

しかし、年金問題が投票行動へ及ぼす影響は限定的だった。
投票日1週前に、「参院選の比例代表で投票するとしたら、どの政党の候補者、またはどの政党になりそうか」を尋ねた結果をみると、年金問題を「考慮する」人、「考慮しない」人のいずれも40%超が「自民党」と答え、「立憲民主党」という人は「考慮しない」人で5%、「考慮する」人でも15%にとどまった。
与党と野党で比べると、「考慮する」という人では与野党の差は縮まるものの、「与党」(46%)が「野党」(33%)を上回っている。

各種の世論調査で、金融庁の審議会の「老後2000万円」報告書についての政府の対応への不満や、公的年金制度への不安などが示され、野党は与党に対する批判を強めていった。しかし、年金の問題は、有権者が与党か野党かを選ぶ争点にはなっていなかった。

今回の選挙が低投票率に終わった原因を調査結果からみてきたが、事前の電話調査ではつかみきれなかった現象がある。「れいわ旋風」だ。

わずか3か月前に発足したれいわ新選組が、山本太郎代表の「あなた」に問いかける演説や、聴衆自らが動画を撮影しSNSで拡散していくというスタイルで支持を広げ、比例代表で得票率4.6%、2議席を獲得した。

NHKが投票日に全国で行った出口調査でも、比較的若い年代、支持なし層の一定の割合から支持を集めていることが明らかになった。

インターネット上の口コミの盛り上がり、投票日直前まで増え続ける支持――支持なし層が増えるなか、これまでの枠にとらわれない有権者の動向をどうとらえていくのか。難しい課題だ。

2人に1人以上が棄権した今回の参院選。「静かすぎる選挙」は、特定の地域、特定の年代に限った現象ではなく、空気のように日本全国に広がっていったように見える。静けさの先にやってくるものは――。
今後も分析を続けたい。

選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。