員の代理、ロボットで

働き方改革の必要性を訴える国会議員。しかし、みずからはほとんど休みなく、働いている。
もっと効率的に働きたい!
…と思ったその時、自分の代わりに「ロボット」を置こうと考えた議員がいた。本当に、そんなことできるの?
(政治部 立町千明)

議員の分身としてのロボット

2月1日、東京・永田町の議員会館に1体の小型ロボットがやってきた。

全長およそ25センチ。スイッチを入れると目が光る。
遠く離れた場所から携帯端末で操作し、手や首を動かすことも可能だ。
ロボットの目を通してリアルタイムで、その場の映像を見ながら、会話ができる。

ロボットと言っても、AIを搭載しているような自律型ではない。もともとは、障害があり、外出することが困難な人たちのためにベンチャー企業が作ったもので、人が背後で操作する、いわばコミュニケーションツールとしてのロボットだ。

職場に出勤せずに自宅などで働く「テレワーク」の普及に伴い、この会社によると、東京都内の民間企業60社以上が導入している。テレビ電話と違って、部屋が散らかっていても、化粧をする余裕がなくても、気にせずに会議に出席できる。そして、何より「ロボット」という形を取っていることで、「存在感」を感じられるという。

ロボットを導入したのは、平将明衆議院議員(52)。
ベンチャー企業の話を聞き、海外出張や国会日程がある時に、ロボットを通じて地元の会議に出席してはどうかと考えた。

「移動時間を無くすことができるのが1つ。あとは深夜国会とかで永田町周辺を離れられない時にロボットを使って支援者とやり取りができる。余った時間は政策の勉強にあてたいよね」「うなずいたり、挙手もできる。法案に賛成の人は挙手してくださいとか言って」

議員の1日

猫の手も…いや、ロボットを使いたくなるほど、忙しいのか。
ある日の平議員のスケジュールを見せてもらうと。

7:00 自宅発
8:00 予算関連の部会出席
9:30 アジア情勢など役所から説明
10:30 議連関連で来客
11:00 防災関連の要望
11:30 行政改革関連の会合
12:00 自然エネルギー関連の勉強会
12:45 自民党代議士会
13:00 衆議院本会議
13:30 役所からの説明
13:45 役所からの説明
15:00 研究所の視察
17:15 政策勉強会
18:00 議員との会合
19:00 歓迎会あいさつ

このほかにも支援団体の集まりなどがあるが、自分では行けないので一部の日程を秘書に任せている。
分身ロボットを使えば、例えば15時の研究所視察の前の空いた時間に、地元の秘書と打ち合わせをすることができるという。

試してみた

なかなか準備が整わなかったが、2週間余りたった2月18日、試しに議員会館で秘書との打ち合わせに使ってみた。

隣の部屋にいた平議員が「声は聞こえますか?」と呼びかけると秘書が「大丈夫です」と。

議員の国政報告会など日程の調整や、4月の統一地方選挙への対応などについて、30分ほど意見を交わし、大きなトラブルもなく無事に打ち合わせは終了した。

「代議士と目を合わせているわけではないので、緊張感もほぐれますね」と秘書。
「うちは地元が東京ですが、地方の事務所では、なかなか代議士とミーティングで話すこともできないようなので、本人と話ができるのはいいんじゃないですか」

平議員は手応えを感じたようだった。
「体が楽っていうか、実用化すれば瞬時にどこにでも行けることになるわけだから。ニューヨークにいようが、ロンドンにいようが、地元や永田町でミーティングができる。こっちは操作端末さえ持っていれば、どこにいてもロボットに入り込めるわけだから」

永田町の壁

しかし、早速、壁にぶつかった。
自民党の会議や派閥の会合にロボットを出席させようとしたが、難しかったのだ。

1つは技術面の問題。通信速度の問題や、音声が途切れたりするトラブルが起きた。

そして、最大のネックは、永田町に根づく「前例主義」、そして「政治は人と人の対面だ」という慣習だ。

ロボットを通して会議をした地元秘書も「『なんだ地元に来ないで、こんなモノ持ってくるな』って世界ではある。自民党内のペーパーレスもまだ始まったばかりだし、議員は握手して挨拶してというのが大事なので、なかなか広く活用というには、まだ難しい」と指摘する。

それでも、平議員は諦めていない。みずからが会長を務める自民党の会議にロボットを出席させて、実験を試みたいと考えている。これは事務所で作ったイメージ画像だ。

そのことについて、会議を取り仕切る政務調査会の職員に聞いてみると…
「部会長が招集する会議のため、ロボットを持ち込むことはできると思うが、いかんせん前例がないので。いずれにしてもトップである政務調査会長にお伺いしないとなんとも」と、戸惑いの声が。

さらに、携帯電話は「ガラケー」という70代の議員は、「国民の声を反映したり、政策を決める時には、やっぱり政治家本人が出てこなきゃならんだろう」と否定的だ。

そんな声があることも、平議員は織り込み済みだ。
「最終的には大臣答弁とかできたら面白いよ。先日、河野外務大臣がドイツに行くのに国会でもめたでしょ。でもロボットが使えれば、ドイツにいても、代理出席で答弁できるわけだ。それにはまず国会出席の定義を整理しないといけないけど、やってみる価値はあるよね」

しかし、そもそも憲法で定められた国会への「出席」という概念にロボットが該当するのかという問題がある。さらに、ロボットだと本当にその背後に議員本人がいるのかという確認も困難になり、それならばむしろ、テレビ電話会議でも使ったほうがリスクが少ない。しかし平議員は、新しい技術を利用することで、政党のイメージの向上につながるというところにも価値を見いだしている。
「IT・テクノロジーの実装に後ろ向きだって思われること自体、党の評判に関わる。最大与党の自民党がやらないって言ったら何も進まないわけで。そのポジションに甘えちゃダメだ。アンテナを高くして、今、何をすべきかって、野党に言われるまでもなく、みずから提案する政党でなければいけないと思っている。野党が勘弁してくれよっていうくらいテクノロジーを入れたらいいんですよ。事の本質が変わらなければね」

「門戸を開くきっかけに」

今回の試みについて、情報ネットワークや憲法を専門とする帝京大学の水谷瑛嗣郎助教(32)は、「選択肢を増やすという意味では決して否定されるべきではなく、興味深い試みだ」と話す。

「今後ロボットの精度が上がって、国会の進行や審議が問題なく行われるのであれば、『多様な民意を反映する』という国会の機能に照らすと、障害者や子育て中の女性など、さまざまな背景を持つ人が国会議員になる門戸を開くためにも議論の余地はある」

ロボットが並ぶ未来の国会!?

正直、ロボットが並ぶ国会、などという未来図は、課題が多すぎてすぐに実現するとは思えない。

ただ、今回のロボットに限らず、いま日進月歩で進んでいる技術が導入されれば、さまざまな立場の人が政治に参加できる可能性が広がるのは確かだ。イノベーションこそが、人と社会のあしたを築く…どこかのIT企業のコマーシャルみたいだが、本当にそうなる日は来るかもしれないし、その歩みだけは止めてはいけない、そう感じた取材だった。

政治部記者
立町 千明
平成21年入局。富山局を経て政治部。現在、与党クラブで石破派を担当。